「【“夢なき僕は笑顔の君に、生きろ!と叱咤激励された。彼女が不治の病を抱えている事も知らずして。”小松菜奈さん演じる茉莉の、募る恋心を抑えようとする姿が切ない。後半は歔欷を堪えるのが難しき作品。】」余命10年 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【“夢なき僕は笑顔の君に、生きろ!と叱咤激励された。彼女が不治の病を抱えている事も知らずして。”小松菜奈さん演じる茉莉の、募る恋心を抑えようとする姿が切ない。後半は歔欷を堪えるのが難しき作品。】
ー 2011年から物語は始まる。不治の病と闘っていた茉莉は、同じ病室の幼き子を持つ女性が窓の外に桜舞う中”卒業式は無理だ、と言われたけれど”と嬉しそうに語り合っている。
だが、女性は亡くなってしまう。
葬儀場の隅に参列した茉莉は泣きじゃくる女性の夫の姿をぼんやりと見ている・・。-
◆感想 ー 印象的なシーンは数々あれど・・-
・四季の風景、春は桜、夏は海、冬は舞い散る雪を効果的に映し入れながら、哀しき物語は進む。
特に、随所で映される、桜咲く風景の使い方は絶妙である。
・茉莉が、中学の同窓会で会った覚えなき和人との距離を徐々に縮めていくシーン。
- 父との齟齬により、生きる意味を見失っていた覇気なき、和人。一方、茉莉も
”生きる事に執着すると人を傷つけてしまうから恋はしない”
と決めてはいたが、徐々に心優しき和人に惹かれて行く。
茉莉の悩みながらも恋心を抑える姿、和人の茉莉の本心が分からず混乱する姿を、
ー夏の夜祭で茉莉と手を繋ごうとするも、スルッと手を解かれてしまう・・。-
小松菜奈さんと、坂口健太郎さんが流石の演技で魅せている。
■茉莉と和人を心配し、陰ながら支える人々の描かれ方も良い。
1.茉莉の両親(口数少ないが支える父(松重豊さん)。明るいが常に茉莉を支える母(原日出子さん)
2.最新の医療施設を紹介したり、あれこれと世話をする姉(黒木華さん)
3.茉莉の友人、出版社に勤める沙苗(奈緒さん)は、茉莉の文才を知っており、自分が勤める出版社を紹介する。他にも茉莉の隊員を祝う仲間達(三浦透子さん・・豪華過ぎるキャスティングだろう・・。)
4.和人の友人、タケル(山田祐貴さん)は皆のリーダー格で、精気のない和人を心配し、就職先を世話する。
5.和人の就職先の主、無口な居酒屋を営むげんさん(リリー・フランキーさん:この多才な方がスクリーンに映るだけで、もう安心である。)
- 皆が二人を心配する善人である。茉莉と和人の人柄であろう。-
・”カズ君”と茉莉から呼んで貰えるようになった和人だが、茉莉の態度は上記に記した理由により、煮え切らない。(・・ように和人には見える)。
- 彼が、茉莉がいつも降りる駅で、彼女を探し漸く抱きしめ、キチンと”好きだ”と言うシーン。
げんさんの店で働くようになり、顔付もしっかりして来た和人。
和人の胸に、素直に顔を埋める茉莉。
二人の心が、漸く一つになった佳きシーンである。ー
・その後、二人は急速に距離を縮める・・。スノーボードに二人で行って楽しそうに遊んだ後、和人が差し出した白い箱に入った婚約指輪が、雪上の白と重なり、一瞬無くなる。
そして、茉莉が言った”格好悪いから、受け取らない!”と笑いながら言うシーン。
その夜、二人は結ばれる。深夜、風呂で一人背を丸めて泣く茉莉。
ー あれは、茉莉の嬉し涙だったのだろうと私は解釈した。
早朝、独りロッジを出る茉莉。そして、気付いて追いかけて来た和人に言った哀しき言葉。
”カズ君は、私の病気が治ると思っているけれど、私の病気は治らないんだよ・・”ー
・家に戻り、母が作るポトフを見ながら、自分より小さき母の肩に頭を乗せ涙する茉莉。そして滂沱の涙を流しながら言った言葉。
”結婚したい。もっといろんな所に行きたい・・。生きたいよ!”
”もっと泣いて良いんだよ・・”と母は優しく言い、その言葉を涙を流しながら聞く父の姿。
- このシーンを見て、それまで堪えて堪えて来た、私の涙腺は崩壊した・・。-
・時は流れ、茉莉は再び病院に入院している。窓の外では桜が咲き誇っている。
- 茉莉を演じる小松菜奈さんの顔が、物凄く小さくなっている・・。-
<和人が独立した際に、沙苗が記念品として持ってきた茉莉の”余命10年”の製本前の原稿。
その文章には和人への数々の想いが綴られていた。
”余命10年”が製本され、本屋の店頭に並んだ際に手を取った和人の表情。
そして、オープニングと同じく、桜散るシーンでラストを迎える。
今作は、日々、健康で生きている事の有難さを思い出させてくれた作品。
そして、病院のベッドで茉莉がビデオに撮った思い出のシーンを過去に遡って震える指で、一つ一つ消去して行くシーンにも涙した作品。
劇中に流れるRADWIMPSの楽曲群も良く、エンドロールで流れる”うるうびと”の詩が心に響いた。 ー あの歌詞は、初期の彼らの代表曲「オーダーメイド」を想起させる。-
今作は、今や邦画監督を代表する一人になった藤井監督が、四季の映像を効果的に使った、切なくも愛しきラヴ・ストーリーである。>
みかずきです。
従来の難病恋愛映画は、難病に侵された女性をしっかり者の男性が献身的に看病して、奇跡が起こったり、現実的に終わったりするパターンが多かったです。
しかし、本作は、男性側である和人が生きることに絶望している青年という設定でした。
難病に抗って懸命に生きようとする茉莉の物語と茉莉との恋愛によって覚醒して再生していく和人の物語が同時進行していくので、恋愛映画の枠を越えて、愛すること、生きること、人間の運命について考えさせられる作品でした。
ラストシーンの和人の清々しい表情で、茉莉の命は和人に受け継がれたのだと感じました。命って、こういう風に受け継がれていくんだなと感じました。
では、また共感作で。
-以上-
NOBUさん、コメントありがとうございます。
1年間の撮影期間というのは、日本ではなかなか難しいのだと思いますが、監督の強いこだわりだったようですね。
『彼女が目覚める…』は『8年目の花嫁…』と同じ実話ベースの難病ものですが、確かにこれも連想されますね。
そうでしたか😅
チャキチャキの江戸っ子だったのですね。いや、失礼いたしました。
勉強家のNOBUさんは、実は古戦場跡なんかにも詳しくて、アウトドアなんかもお子さまに歴史を教えながら…⁈
という感じの名古屋近辺でお生まれの方だと勝手に思い込んでました。
映画の中で2019年まできた時は、もしかしたらその後の2020年のコロナ感染拡大で面会すらできない事態まで想像して、泣けてきました。
と今、映画に出てきた日暮里駅(にっぽり、と読みます)のホーム上を跨ぐ高架通路で書いてます。
彼はここを走ってたのかと。
因みに二駅隣の田端駅は、『天気の子』の聖地⁈のひとつでもあります。