この原作をつぶやきシローさんが書いたのを知って驚いたが、同時に納得できるように感じた。
左脳による頭の中のおしゃべりは、人間であれば必ず経験するが、時に止まらなくなってしまう。
同時に感じるつぶやきシローさんの「おしゃべり」漫才
この一見邪魔で、スピリチュアル世界の敵として扱われるものをモチーフに、主人公伊澤のそのままの人間性を描いている。
伊澤は、かなり地味でごく一般的な人物
腹黒さはないが、おっちょこちょいなのと実直さと情け深さが、彼の家庭環境に現れている。
多くの人の人生にある裏話
伊澤一家の裏話は、人に言えることではないもののそれを陰としてみた立てていないことが、素晴らしい。
逆にその影があったからこそ、決して暗さを家庭の中に持ち込まないという暗黙のルールがあるのだろう。
あの日、伊澤が決めたことによって、彼はその時にそれを「選択」したことで、彼の人生のすべてが「変わった」のだろう。
妻律子も、伊澤のプロポーズを断りながらも受け入れたのは、その過程で「選択」したからにほかならない。
「こんな自分なんか」と卑下する感覚
律子の両親も、彼女と元カレとのことを伊澤に話したほど、それでもいいのかと疑っていた。
2歳くらいの小梅 お腹の中の赤ちゃん 元カレに捨てられた事実
自己否定と事故憐憫の苦悶の中に差し込まれた光
律子は、生涯をかけるようにこの光を掴んでもいいと自分自身に言い聞かせるようにして、それを「選択」したのだろう。
これによって律子もまた「変わった」
さて、
金城正志
なぜ彼は沖縄のチケットを送ってきたのだろう?
ようやく金城自身が一端の生活ができるようになったことで、3人を呼び寄せたかったのかもしれない。
しかし、偶然乗り込んだタクシー 伊澤はこの運転手こそ「本人」だと直感した。
それとなく事情に気づいた金城
そして、小梅
今であれば、金城がしたことの意味をよく理解できる年齢になった。
小梅は、おそらく金城を許してはいない。
そもそも恨んでもいない。
記憶にある父親は、ずっと伊澤ハルオでしかないからだ。
それでも少しだけ、ほろ苦いような感覚が湧いたのだろう。
結局それは、赤の他人だったということが、タクシーを降りた後の二人の会話に現れていた。
航空券を贈った金城の気持ちには「あわよくば」という思いがあったのだろうと感じた。
そして思いがけない出会いと、伊澤の言葉によって、金城のよこしま的な思いは消え失せたのだろう。
それが見送りにも来なかった理由だ。
この不思議な出会いは、伊澤と律子が「選択」した時からすでにこうなることになっていたのだろうと思った。
そしてこの物語の主軸の設定が面白かった。
スーパーウメヤ
「うめ」に隠されたモチーフ
律子との出会いと長女の名前とお菓子の名前 その他いくつかあしらわれていたかもしれない。
店長になるという割と浅い夢
それが中々叶わないもどかしさ
様々なトラブルに関する頭の中のおしゃべり
妄想と独り言の連鎖
これがタイトルになっている。
ままならない出世にパートを庇ったことで起きた左遷
いつも裏目に出てしまう人生に嘆く伊澤
しかし、
おそらくあの時、「選択」したことですべてが変わっていたのだろう。
それこそが、この家族みんなで幸せになるということだった。
この意味において、伊澤一家は永遠に不滅だろう。
多少出世できなくても、職場で問題が起きても、家族を幸せにすると決めたことで、彼にはその道が明確に提示されたに違いない。
さて、、
食堂「おかわり」
非常に奇妙な場所
食堂とは思えない変な空間
伊澤のほかに誰も客がいない。
あの場所は、伊澤が本心を言える場所 愚痴も喜びもぶち撒くことのできる場所
カツカレーに込めた祈りは、「明日はもうちょっとだけい日でありますように」
人生の長く暗いトンネルにあるオアシス
妻と一緒に叫んでみれば、本音を吐露してみれば、もうあの食堂へ行く必要はないのだろう。
沖縄で過去の遺恨を晴らし、娘を嫁に出し、仕事は順風満帆ではないものの、十分いい感じの空間にいられる幸せがある。
この少しちぐはぐだけど、特質していいことが起きるわけではないけど、「選択」して「変わった」世界(パラレルワールド)に移り住んだ伊澤ハルオの、ごく一般的な悩みと生活こそ、最高の幸せなのだろう。
ちょっとジーンと来る作品だった。