「エドガー・ライト監督らしい音楽と映像の絶妙なマッチング」ラストナイト・イン・ソーホー といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
エドガー・ライト監督らしい音楽と映像の絶妙なマッチング
事前知識はない状態での鑑賞。多くの映画レビュアーさんが絶賛していたし、私は以前エドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』を鑑賞して感動した人間ですので、「あのエドガー・ライトの新作」というだけで非常に期待値は高かったです。
結論としては、ストーリーに若干不満点はありますが本当に素晴らしい映画でした。特に、役者陣と音楽と演出が素晴らしい。前作『ベイビー・ドライバー』の特徴でもあった「音楽の気持ちよさ」は本作でも健在です。「ホラー映画」と言われていますがあんまり怖くないです。「スリラー映画」「サスペンス映画」の方がジャンル分けとしては正しい気がします。ホラー演出がジャンプスケアばっかりなのは個人的には不満ですね。ジャンプスケアは心臓に悪くて嫌いです。
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ファッションデザイナーになるため、ロンドンにある服飾専門学校に入学したエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)。憧れのロンドンでの生活に胸を膨らませる彼女だったが、田舎から出てきたばかりで流行が分からずに同級生たちに馴染めず、寮のルームメイトからはマウントを取られて居心地の悪さを感じていた。寮から出てソーホーという地区の古いアパートで一人暮らしを始めたエロイーズだったが、引っ越してからというものベットで眠る度に自分が1960年代ロンドンで歌手を目指す美しい女性のサンディー(アニヤ・テイラー=ジョイ)になる夢を見るようになる。サンディーに憧れ、彼女の影響で髪型や服装を変え、見違えるような変貌を遂げたエロイーズだったが、夢の中で観る光景が実際に起こったことなのではないかと考えるようになる……。
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このレビューを書く前に、パンフレットと映画評論家の方たちの評論を一通り確認してきました。私は本作に登場する60年代ロンドンの文化にはとことん疎く、映画好きを語っている癖に冒頭のエロイーズの部屋にポスターが飾ってあった『ローマの休日』も観たことがありません。エドガー・ライト監督の作品は音楽や舞台設定を理解することでより楽しめると思っておりますので、映画鑑賞後に色々調べました。
一通り調べた上で感じたのは、監督の憧れとこだわり、そして「古き良き」を懐かしむ裏に潜む「臭いものには蓋を」という流れ。過去の美化へのアンチテーゼ。表向きは煌びやかだが、醜い裏側を持つショービジネスの世界への批判。
映画評論家の町山智浩さんの評論がかなり参考になりました。
本作の舞台となるソーホーと言う地域は、(現在ではかなり良くなりましたが)60年代当時は低所得者向けの集合住宅が立ち並ぶ非常に治安が悪いところでした。そしてこのソーホーという地区は、リージェントストリート(髪型「リーゼント」の語源となった通り)やカーナビーストリートなどの高級ブティック店や煌びやかな劇場が立ち並ぶ地区とほとんど隣接するように存在します。これが本作で描かれる「ショービジネスの光と闇」を端的に表した見事な舞台設定になっていると町山さんは指摘します。一見煌びやかな世界でも、少し裏側には人間の欲望渦巻く暗い影がある。これはイギリスの歴史や地理などを把握していないと分からない部分でしたので、こういう新たな発見があるから映画レビュー漁りはやめられませんね。
映画オタクのエドガー・ライト監督らしく、随所に過去の映画(特に本作の舞台になった60年代映画)へのオマージュが捧げられているそうです。私は全く気が付きませんでしたが。隠れミッキーを探すようなオマージュ探しや考察がレビューサイトや動画レビューなどあちこちで繰り広げられているため、「観終わってからも楽しい、コスパの良い映画」だったと思います。
ただし、多くのレビュアーさんが語っている通り、ストーリーは正直そこまで優れているわけでもなく、後半はのっぺらぼうおばけにエロイーズが苛まれるシーンが延々と続いて飽きますし、ジャンルとして「ホラー」と名乗っている割にはジャンプスケアが多用された安っぽい演出が目立つなどの弱点も目立ちます。素晴らしい映画であったとは思いますが、「手放しに大絶賛」とはならないのが残念なところです。
考察が好きか嫌いか・古い映画への知識はあるかなどによって評価が変わりますので、多分賛否両論あるとは思います。まずは観てほしい。とりあえず観てほしい。観たら一緒に語り合って欲しい。そんな映画でした。
オススメです!!!