ブルー・バイユーのレビュー・感想・評価
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2本立て1本目。天下の悪法。 何十年もその地で暮らしてきた人を国外...
2本立て1本目。天下の悪法。
何十年もその地で暮らしてきた人を国外退去にしてしまう。そんなバカな…
・主人公 家族愛はあるが昔は小悪党
・妻 家族が全ての超良妻。歌まで上手い(笑)
・娘 おしゃま。なんとも愛らしい。いい子役。
・警官1 妻の元旦那。悪いやつかと思いきや。
・警官2 これぞアメリカの警官。悪い奴。
そんな法、すぐ改良すればいいのに。政治家なんてどこの国でも同じ。自分の利益にならないことには関心なし。未だ道は見えないらしい。エンディングの多くの被害者に胸が痛い。社会なんて、理不尽なことだらけ。自分にも何が起こるか分からない。怖い。
どこに行きたい?ここにいたい
これぞドラマ。例えばヤン・イクチュンが『息もできない』を作ったように生まれるべくして生まれた必然の傑作。光の射す方へと背中を向けて、手前はピントが合わないみたいに曇って、時にカメラのレンズにはゴミが付いた黒い線が入っていてもそのまま押し通して ---
例えばスパイク・リーの『25時』を思い出して、また例えばウォン・カーウァイが社会派映画を撮ったようなスタイリッシュでスリリングな瞬間もある。ジャスティン・チョンの描く市民権を持たない養子問題。ここアメリカで物心ついたときからずっと20年、30年と生きてきたのに、突然縁もゆかりもないとまでは言わないまでも勝手の異なるよく分からない、記憶は遠く家もない"祖国"へと国外追放される人々が直面する現実の問題を、思わず感情移入・同情せずにはいられないドラマに昇華して、見事な映画として描き切る。
行かないと…主演2人がとにかくいいから夢中になってしまう。青い入江の象徴する記憶の影響と行方に、胸引き裂かれる思いだった ---
もしかしたらプロとか見る人が見たら多少クサいところなんかもあるのかもしれないけど、これがすごくすごく大切に作られた作品だなというのがひしひしと伝わってきて否定できない熱量をまとっていた。長回しでの動きのある画作りと、まるで写真や絵画のような静的画作りのバランス感覚。そして絶対的感性がタイトル通りの世界・空気感や雰囲気を嘘偽りなく、真摯に演出していた。粒子感のある映像の質感や少し横の詰まった画角に、音楽もよく合ったムーディーな現地的空気と異国情緒っぽさが絶妙に混在し溶け合っていた(ex. ジャズ←移民・奴隷)。
度々映る、《橋》という象徴的存在。笑って泣いて鳥肌の立つような愛しい瞬間が、また胸掴まれ苦しくなる時間が、丁寧な描写でしっかりとあった ---
今尚後をたたない最低な暴力イカれ警官どもの意味不明な短絡的キレ・ポイント(スイッチ)や逆恨み原理も、"まったく分からない"という意味で、よく分かる。嫌味なしで本当に"いい顔"した主人公の、光が指して輝くつぶらな瞳。人種のるつぼとしての多様性や難民。世界の中心として進歩的な国であるはずの好きなところで暮らす権利も、今や揺らいでいて窮地に陥っている。だが強い、ここで生きてる。"『トワイライト』(出演)の"という前置詞には違和感を覚えるけど致し方ない。むしろ振り幅があっていいくらいだと思うことにしよう。映画館での公開前から気になりつつ何故か見に行かなかった本作、やっぱり公開当時に見に行けばよかったなとしみじみ思う。
ICE
Jessie stays here.
ここはセラピーじゃないぞ
HONEST MONEY
【"青い入り江で観た儚き夢と、厳しい現実。”アメリカ養子縁組制度の瑕疵に対応していない、アメリカ司法、移民制度への怒りと、保守的なホワイトアメリカで生きるアジア系移民の怒りと哀しみを描いた作品。】
ー 今作で、監督・脚本・主演を務めた韓国系米国人のジャスティン・チョンの哀しき過去を背負って、米国に養子縁組で来たアントニオを演じる姿が、素晴らしい。
今作は、彼がエンドロールでも流れたアメリカ養子縁組制度の瑕疵をほったらかしにして、多くの家族を引き裂いたアメリカ司法制度、移民制度への怒りと、保守的な、ホワイトアメリカで生きるアジア系移民の遣る瀬無さと哀しみを描いた作品である。
◆感想 <Caution!内容に触れています。>
・全身タトゥのアントニオの哀しき過去を想起させる、劇中、屡描かれる、若き韓国女性の哀しき表情。
・アントニオの子を身籠ったシングルマザーキャシー(アリシア・ヴィキャンデル)と娘ジェニーとアントニオは貧しいながらも、楽しき生活を送っている。生意気ジェニーはアントニオに良く懐き、アントニオも実の子の様に可愛がっている。
- 元夫、白人警官のエースが頻繁に”娘に合わせろ”と迫って来るが、ジェニーは影に隠れてしまう。エースの相棒の太った白人警官デニーは明らかにレイシストである。-
・その幸せに突然降って湧いたアントニオにエースの相棒の太った白人警官デニーに絡まれた事で、明らかになった30年以上前の養父母による手続きの不備が発覚。国外追放命令を受け、二度とアメリカに戻れない危機が訪れる。
・金策に走り回るアントニオの前に現れたベトナム移民の女性パーカー。睡蓮のタトゥを手首に入れて貰う。
- ”睡蓮は、根が無いようだけれど、逞しいの。”
余命僅かなパーカーとアントニオ一家の交流。
アリシア・ヴィキャンデルが歌う”ブルー・バイユー”は沁みたなあ。-
・幼き日、養父母に盥回しにされたアントニオはバイクを盗んで裁判費用を作るも、生きていた養母を法廷に呼ぶ事を激しく拒否する。(養父から、虐待されていたのに、養母から守られなかった・・。)
・そして、劇中屡描かれる、若き韓国女性が幼きアントニオに行おうとしたことと、彼が自暴自棄になりバイクで、水中に飛び込むシーンの哀しきながらも美しきシンクロニシティである。
<ラストのアントニオの強制出国のシーンは切なすぎる。涙が出た。
そして、エースが実は、心優しき、良い男であったことも、嬉しき驚きであった。
再び書くが、今作は、彼がエンドロールでも流れたアメリカ養子縁組制度の瑕疵をほったらかしにして、多くの家族を引き裂いたアメリカ司法制度、移民制度への怒りと、保守的なホワイトアメリカで生きるアジア系移民の、遣る瀬無さと哀しみを描いた作品である。>
<2022年4月10日 刈谷日劇にて鑑賞>
全てが捨てたものでもないが楽観的になるのはなかなか厳しい
素晴らしい養父母もいるが、養子への家庭内暴力の話もよく聞く。法的手続レベルでも起きることがあるとは知らなかった。海外から子供を養子として迎えた時に、親がきちんと養子縁組の手続きをしないと子供は不法滞在者になる。物心ついた時から合衆国で育ったのに、ある日自分や結婚相手が不法滞在者と言われて退去を求められる。
観てる最中ずっと、これどうにかならないの?!と頭をグルグルした。どうにもならないし、転がってほしくない方向にも行く。その間主人公は今まで考えないようにしていた自分の出身地について思いを馳せるようになるし、また制御不能な運命について考えるようになる。
システムは彼を苦しめるけど、彼を愛する人たちが強いし希望をもらえる。多少は。
制度の落とし穴で苦しむ人たち
日本で養子縁組の制度はあまり浸透していない。周りに養子縁組をした人がいてもわかりづらいからそう感じているだけの可能性もある。アメリカでは国際養子縁組も盛んで、それがまたドラマを生んだりする。出身をいじられたり、母国の生みの親との関係性とか。
ところが本作では韓国出身のアントニオがアジア人として虐待されるシーンがない。当たり前に生活し、家族を養おうとがんばってる姿が描かれる。そして訪れる理不尽な扱い。アメリカの警察の暗部を見せられた感じで嫌な気分になる。
養子縁組していても市民権が与えられていない人がいるという事実に驚いてしまった。制度の落とし穴的なものだが、30年以上暮らしてきてそれはない。納得いかないよな。
でも、アントニオがとった行動も納得いかない。同情の余地はあるが、そんなことしちゃダメだ。でも、彼の苦しみや悲しみは十分に伝わった。彼らの今後を想像するとゾッとする。そして、こんな仕打ちを受けた人たちが他にもたくさんいることにも驚いた。
もう泣くしかなかった
これはアメリカ🇺🇸の移民政策に物申す逸品。
何より感情を揺さぶる秀作だ。
3歳の時に養子としてアメリカにやってきた韓国🇰🇷生まれの主人公。里親による虐待、貧困、それがもとで行った窃盗など、いいことなかったみたい。
シングルマザーと結婚し、娘と三人、ようやく幸せになれたのに。
ラストのスライディング&ハグ。
凄まじい激情。
もう泣くしかなかった。
肩を震わせ激しく嗚咽を漏らした。
愛するからこそ別々の船に乗る。
アメリカの養子縁組、移民問題を描いた力作。韓国で生まれ3才で養子に出されてから30年以上「アメリカ人」として生きてきたアントニオ。ある騒動をきっかけに国外追放を命じられ強制送還の危機に立たされてしまう。アメリカの国際養子縁組に隠された制度の落とし穴とは。自分は一体何者なのか。
脚本、監督、そして主演も務めたジャスティン・チョンは敢えていばらの道を選んだ。確かな家族への愛を見せる一方で、まるでそれに相反するかのような行動をとるアントニオ。とても同情などできない。不可抗力による強制送還という不条理を描くならもっと共感できる主人公の方がアプローチとしては説得力がある。でもそうしなかった。この闇こそがアメリカだと言わんばかりに。
はびこる人種差別に抗う時、正しさだけでは解決しないこともきっと多い。「家もない」「知り合いもいない」そんな国に追放される恐怖は誰が受け止めてくれるのだろう。確かに言えることは、それはアメリカではないということ。
ラスト5分は涙で息が止まりそうでした。2人の娘が成長してゆく過程で頼るべき父親は傍にいるだろうか。エンドロールで知る現実の一端。これが今現在進行で起きている事だと思い知らされる。
ジェシーがパーカーを見て「パパと似ている」と言った。その言葉がなんだか忘れられない。
不整合な社会の犠牲者
あー、そーいう社会的背景があったんですね。本作で初めて知りました。相変わらず僕は不勉強です。昨今、日本の難民認定について問題として取り上げられることが増えてきましたから別の意味でも興味深いテーマです。ですから、事実を知ることができたのは有意義でした。
ただ、それだけだったなーって感じです。なんやかんやと色々アリアリで、面白いように裏目が続きすぎて、それらが「んな馬鹿な」って思っちゃう展開の結果で・・・。まぁドラマティックにしないと・・・だから仕方ないんだけど、それはわかるけど。。。ラスト「それだすなよ!?」って感じで引いてしまいました。僕は明快なお涙ちょーだい展開アレルギーなんですよねー?てか、このお涙頂戴展開って、この重要なテーマを安易な感動ポルノの材料にされているだけに見えなくなっちゃうんですよね。
安易な心変わりとか、明快な悪者とか、家族のことを大事にしている割に短絡的すぎる行動とか・・・なんだろなー、そんな単純なことなん?って思ってしまった。作り手が難民、移民の方々を色眼鏡で見てないか?って思ってしまいました。 残念。
アメリカ人という意識ながら疎外感を感じる辛さの極限を描く!!
難民や不法移民にも歴史があり、その2世、3世ともなると、生まれたころから移住地で育っていることもあって、アメリカならアメリカ人、カナダならカナダ人という自覚の強く、他者から移民だと言われたところで実感があまりない。特に戦争孤児などであれば、里親を転々としている間に、自分のルーツさえもわからなくなってしまう。実はルーツは不法移民ということもありえるのだ。
その中でも、不自由ながらも、家族をつくり、幸せな生活をしている者もいるが、何か問題が発生してしまうと、不法移民扱いされてしまう。周りからは、よそ者扱いされ、麻薬カルテルや人身売買など、犯罪がらみの不法移民と同等に扱われしまう。
警察沙汰になった場合、行政の世話になった場合、表に出したくない情報があぶり出され、そこにある歴史や理由は考慮されない。 住まいがあって、家族もいるのに、強制的に国民ではないとされて、行ったこともない母国に強制送還されてしまうこともあるのだ。
ドナルド・トランプの行った政策によって、そういった意味では、家族から大切な人を引き離す結果になった。しかし、その一方で、実際に犯罪を抑止することもできたことを考えると、これはアメリカや他の国に限ったことではないが、政策の穴というのは、戦争を繰り返してきた国、もともと移民が集まってできた様な国では、簡単に白黒付けられないから難しい。
今作は実話がベースとなっているが、こういった経験をしている人達は、数多く存在しており、決して異例なことではない。
実話ベースといっても、非日常的事実だからこそ映画化されることが多いが、今作は日常的に起きすぎているからこそ、映画化する必要があるということなのだ。
監督・脚本・主演を務めたジャスティン・チョンは、生まれはアメリカで、アメリカで活躍している俳優だが、ルーツは韓国にあることもあって、どこかで道が違っていたら、決して他人事ではなかったかもしれなかった。アメリカ育ちのアメリカ人と思っていても、外見はアジア人。周りはそうは思っていなかったかもしれないが、どうしても感じてしまう疎外感というものがあったのだろう……それが映画の中に、にじみ出ている。
法の隙間に見える、親、子、家族とは。
3歳で韓国から養子として米国へ来た男性。30年以上も経ってから当時の書類不備ということで強制送還が決まってしまう。覆そうと闘う男性とその妻だが…
映像や展開がやや映画っぽすぎる(ご都合主義?)感はありつつも、親子3人の演技が素晴らしく痛いほどその心情が伝わってきて最後は泣かされた。
不法移民ではなくきちんと養子縁組をして入国し長年住んでいるのに、今頃になって不備が見つかり実際に強制送還される人がいるというのは事実らしい。30年前くらいまで法に不備があったらしく。当時まだ子どもだった彼らに非はなく、ほんと理不尽な話としか言いようがない。
他人事ではないと感じてしまった
予告を観たときから気になってた作品。
養子縁組とそれに伴う法手続きの漏れ、という本作のテーマとは違うけれど、自分にシンクロさせて観てしまった💦💦💦
日本で生まれて日本で育ったあたしがもし明日突然『出生時の手続きの不備からあなたはお父さんの祖国であるインドに強制送還されます』なんて言われたら人生終わったとしか思えないんだろうなー。言葉の問題、目先の生活の問題、文化の問題、家族と離れ離れになる恐れ、などなど。どの側面を切り取ってみても恐怖しか感じない😱😱😱
メインテーマである養子の問題以外にもracistな警官とかlower classの貧困問題とか観ていて苦しくなってくるテーマが盛り沢山。それでもジェシーの透明感のおかげですごく良い作品に仕上がっていた印象✨✨✨
based on a true storyとは言ってないけど、養子が市民権を持たないケースは遠い昔の話ではなくon goingな問題と知り、またしても苦しい。
ラスト
序盤から主人公の家族と周辺の人達の生活を淡々と描いているが、全く飽きさせない
奥さん役の女優が「エクス・マキナ」のエヴァだった
警察官の元旦那の相方が本当にバカでクズ(アイ,トーニャ の実行犯並のバカ)
義理の娘とのラストシーンで涙腺崩壊!!
それまで淡々と進んでいただけに、あれは泣く!!(思い出しても泣けてくる)
遥かなる山の呼び声。
韓国な高湿度駄目押しベタが米国に展開するのが新味。
相似形「遥かなる山の呼び声」が天才天然子役吉岡でギリ成立したと同様、本作も子役の貢献大。
社会問題の表出を白人悪徳警官一人に負わせる無理が惜しい。
泣かせと説教の配合度合いは正しいが、それ以上には至れず及第点。
私の好みではない映画だった。
冒頭の川で花が咲き誇る中を小舟が揺れるシーンは、美しく期待を持たせた。だが、就職の面接で入れ墨がどアップされて映し出された主人公を見て、嫌悪感が先に立ってしまった。私とは肌が合わないので、仕方がない。最後まで付き合ったが、鑑賞したのを後悔している。高評価を取る映画とは私は思わない。冒頭のシーンは主人公の実母が子供を養子に出す理由を表している。しかし、彼が母国である韓国へ強制送還されることとは、直接関係はない。
養子縁組み手続きに、不備があったためだからだ。30年もアメリカに住んでいながら、不法移民として強制送還されることには、同情する。だが、前科もあり白人の妻に養母は死んだと嘘をついている。そこに養父の虐待が絡んでいて、複雑な過去があることは理解できる。白人の家庭にアジア系の子供が養子に出される。白人の女性と結婚したり、オートバイ窃盗犯とすぐに疑われたりなど物語をこね回していないか。それに顔のアップシーンが多すぎで、この監督は構図を考えていないかなと思ってしまう。
好ましいと思ったのは、主人公に同情するベトナム難民の女性だ。末期癌を患い、死も覚悟している。
以前から崩壊した南ベトナムからアメリカに移民した人達はどうしているのだろうかと興味があった。その一旦に触れることができた。
本当は0,5点減点したいところだか、趣味の違いでマイナスしては可哀想だ。
どうにもならない駄作
冒頭から嫌な予感がした。タトゥーについては趣味の問題だからとやかく言うつもりはないが、就職面接で正直に答えない態度は不誠実である。まるで商品の欠陥を隠していいところだけを宣伝する悪徳商人みたいだ。バイクを盗んだ前科のことを傷害罪じゃないと主張する。そんな言い訳が通じると思っている頭の悪さ。だったら傷害罪の前科者は殺人じゃないと主張するのか。殺人の前科者は、ひとりしか殺していないと主張するのか。バカが全開である。貧しいことを強調するにも別の方法があったと思う。
いくらバイクを盗んだ前科が後のシーンに繋がるとはいっても、こんなに主人公の印象を悪くする理由が理解できない。もしかするとジャスティン・チョンは、このシーンで主人公の印象が悪くなると思っていないのかもしれない。だとすれば、驚異の倫理観の持ち主だ。
主人公アントニオ・ル・ブランは最初の印象のとおり、ろくでもない行動を繰り返す。子供がいるのに煙草を吸ったり、勝手に学校を休ませてどうでもいい時間を過ごさせたりする。見苦しいし、カッコ悪い。観ていて胸が悪くなる。
確かにアメリカ政府の外国人に対する国外退去の強制は、人権侵害そのものだ。長期にわたって築き上げた財産や人間関係を取り上げて、謂わば異国の地に放り出す。無実の人に死刑宣告をするような悪行であり、悪政である。そこを描きたいのであれば、主人公を善人にして観客に感情移入させるのが王道である。そうすれば観客は、なんて酷い制度なんだと、怒りを共有するだろう。
しかしアントニオの素行の悪さを考えれば、自業自得なのではないかと思ってしまうし、処分を告げられてからの行動は、日本人の当方から見ると、諦めが悪いとしか言いようがない。弁護士費用が捻出できないなら、SNSで訴えることもできた。通行人を触りながらタトゥーの売り込みをするのは場合によっては訴えられるだろうし、おぞましい振る舞いである。頭が悪いのか。その後の行動には呆れ返った。
どうしてイリーガルな行動で家族を苦しめるのか。幼い頃の虐待の思い出があったとしても、それは一生胸のうちにしまっておくべきで、虐待の記憶を家族に共有させて家族までも苦しめるのは野暮だ。粋じゃない。妻に問い詰められると、お前は何もわかっていないと言う。この独善的な価値観は、はっきり言って気持ちが悪い。観客はアリシア・ヴィカンダーが演じた常識的な妻には感情移入できても、アントニオにはまったく共感できないだろう。自分のことしか考えない幼稚な精神性である。
水溜りにオートバイで突っ込んだら引き上げるのは難しい。なのに翌日にはオートバイを売っている。そもそもオートバイを売ると言って妻の反応を見るのが鬱陶しい。子供が駄々をこねているみたいだ。先に売ってから報告すればいい。
思い切りが悪く諦めが悪く素行が悪く頭が悪くて独善的という、どうしようもないアントニオが、美しいアメリカ人女性に愛されているのが一番の謎である。きわめて不愉快な主人公を見せられたあとで、テロップで退去強制の事実を羅列されても、白けるばかりだ。どうにもならない駄作である。
強いメッセージ
ただただ理不尽な現在のアメリカが抱える問題を、克明に描写していました。
たしかに養子縁組による移民は人身売買の温床となりやすく、臓器密売や強制労働とも関わり、闇のオークション市場まであるのが実情らしく、移民法の必要性はあったのだろう。
だが、トランプ政権以降の移民排斥や分断・ヘイトも後押しし、「何十年もアメリカで市民と信じて生きて普通に家庭を持った人が、突然産まれた国とはいえ見知らぬ場所へ連れて行かれる悪夢のような状況がある」と本作は指摘している。
そんあ「アメリカ法整備の不備被害者」の実例を、山盛りてんこ盛りでドラマに組み込んでいる内容なので、観てる間のつらさたるや。
社会性に富んだこういった作品は、人権派が多いカンヌなどの映画祭とかでは受けそうだが、日常描写が多くてエンタメ性は少ないので、日本での興行的には厳しいと思います。
ただ私は、こういうメッセージ性の強い作品は割と好きなんですよね。
全52件中、21~40件目を表示