劇場公開日 2022年2月11日

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「どこに行きたい?ここにいたい」ブルー・バイユー とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5どこに行きたい?ここにいたい

2022年6月22日
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これぞドラマ。例えばヤン・イクチュンが『息もできない』を作ったように生まれるべくして生まれた必然の傑作。光の射す方へと背中を向けて、手前はピントが合わないみたいに曇って、時にカメラのレンズにはゴミが付いた黒い線が入っていてもそのまま押し通して ---
例えばスパイク・リーの『25時』を思い出して、また例えばウォン・カーウァイが社会派映画を撮ったようなスタイリッシュでスリリングな瞬間もある。ジャスティン・チョンの描く市民権を持たない養子問題。ここアメリカで物心ついたときからずっと20年、30年と生きてきたのに、突然縁もゆかりもないとまでは言わないまでも勝手の異なるよく分からない、記憶は遠く家もない"祖国"へと国外追放される人々が直面する現実の問題を、思わず感情移入・同情せずにはいられないドラマに昇華して、見事な映画として描き切る。

行かないと…主演2人がとにかくいいから夢中になってしまう。青い入江の象徴する記憶の影響と行方に、胸引き裂かれる思いだった ---
もしかしたらプロとか見る人が見たら多少クサいところなんかもあるのかもしれないけど、これがすごくすごく大切に作られた作品だなというのがひしひしと伝わってきて否定できない熱量をまとっていた。長回しでの動きのある画作りと、まるで写真や絵画のような静的画作りのバランス感覚。そして絶対的感性がタイトル通りの世界・空気感や雰囲気を嘘偽りなく、真摯に演出していた。粒子感のある映像の質感や少し横の詰まった画角に、音楽もよく合ったムーディーな現地的空気と異国情緒っぽさが絶妙に混在し溶け合っていた(ex. ジャズ←移民・奴隷)。

度々映る、《橋》という象徴的存在。笑って泣いて鳥肌の立つような愛しい瞬間が、また胸掴まれ苦しくなる時間が、丁寧な描写でしっかりとあった ---
今尚後をたたない最低な暴力イカれ警官どもの意味不明な短絡的キレ・ポイント(スイッチ)や逆恨み原理も、"まったく分からない"という意味で、よく分かる。嫌味なしで本当に"いい顔"した主人公の、光が指して輝くつぶらな瞳。人種のるつぼとしての多様性や難民。世界の中心として進歩的な国であるはずの好きなところで暮らす権利も、今や揺らいでいて窮地に陥っている。だが強い、ここで生きてる。"『トワイライト』(出演)の"という前置詞には違和感を覚えるけど致し方ない。むしろ振り幅があっていいくらいだと思うことにしよう。映画館での公開前から気になりつつ何故か見に行かなかった本作、やっぱり公開当時に見に行けばよかったなとしみじみ思う。

ICE
Jessie stays here.
ここはセラピーじゃないぞ
HONEST MONEY

とぽとぽ