「ストイックさに痺れる」レッド・ロケット shironさんの映画レビュー(感想・評価)
ストイックさに痺れる
これほどまでに最低で最悪な主人公が、かつていただろうか?笑
人気ポルノ男優という経歴も、どれだけすごいのか怪しいうえに、特化したスキルや技術が必要な職業とはいえ、女優ありきの添え物感が拭えない。
とにかく口八丁手八丁で周りの人を利用していく最低男ですが
ユーモラスな演出が見事で、チャーミングで憎めない部分にほだされてしまう説得力があります。
喜びが満ち溢れるシーンでは、不覚にも可愛いと感じてしまった。
なんだろう、このモヤモヤは。
人が純粋に喜ぶ姿は素晴らしい。けど喜びの理由が最低で最悪なんよね。
では、最低で最悪な彼の「低」とは何か?
そして「悪」とは何か?
どん底の主人公が最後に向かった町は、高い煙突から炎と煙が立ちのぼる工業地帯。
住人たちも、やたらタバコに火をつけ煙を吐く。
自分が生きることに精一杯で周りが見えていないから、その煙が大気を汚染し、副流煙が側にいる人に害を及ぼすことに気づける余裕が無い。
利用するか利用されるか?ギリギリの状態で生きているのだ。
主人公もその1人で、再起をかけて出直したくても新たなチャンスは与えられず、結局は過去と同じことの繰り返し。負のスパイラルから抜け出せないでいる。
観客はこれまでのドラマのセオリーに何度も裏切られます。
悪は成敗されるはず
悪は報いを受けるはず
悪は改心するはず
もし悪を正当化するにしてもポリシーが必要ですが、それすら与えられません。
だって、そもそも悪ではないから。
人間の生き方に「悪」は無い
たとえ手段を間違うことがあったとしても
生きようとすること自体は決して悪ではない
誤解を恐れずメッセージを伝え切る監督のストイックさに痺れました。
彼にセオリーを当てはめたとたん、彼のこれまでの生き方を否定することになってしまうから、彼は最後まで最低で最悪の男のままなのです。
これまでもショーン・ベイカー監督は偏見や貧困の中で生きる人々の喜びや悲しみを絶妙なバランスで描いてきました。
ユーモアには生きる為の力強さを ファンタジーには生きる為の希望を感じはしますが、それらが逆に悲しくもある。
でも、決して寄り添って勇気づけたり美談にして憐れんだりはしない。
むしろ、懸命に生きる人に向かってそんな感情は失礼だと言わんがばかりに。
かといって俯瞰で捉えた人間賛歌ほど遠ざかっていないのは、彼らが苦しむ原因が明らかで、彼らの未来を閉ざしている憎むべき悪は、私たちの中にある偏見に他ならないからだと感じました。
この企画を支持できるなんて、やっぱりA24ってすごいな。
とにかく一筋縄ではいかない登場人物たちがいちいち魅力的。
なかでも、元締めマザーの娘が気になりました。
めちゃくちゃ主人公にキツくあたるけど、意識している裏返しに見えて、勝手にキュンキュンしちゃいました。
「見る人を選ぶ映画」と呼ばないで。
思い切ってダイブしてほしい。
Mさん、コメントありがとうございます
そう言っていただけてとても嬉しいです!
本当は一作品一作品を愛しているので、レビューを書きたい気持ちでいっぱいなのですが、いかんせん遅筆なもので。。
仕事をリタイアしたら、もっとレビュー書く!と心に決めています。
最後のシーンがとても心に残りました。
「ウーマントーキング」のレビューを見て、shironさんのレビューを読み返しているところです。
「グッバイ・レー二ン」や「ツィゴイネルワイゼン」のレビューを読んでみたいなと思いました。お忙しいとは思いますが、もし時間が許しましたら、ぜひ。