ベネデッタ : 映画評論・批評
2023年2月14日更新
2023年2月17日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー
権力を握り、同性愛で告発された聖女のカリスマ性に翻弄される
17世紀イタリアで、同性愛で告発された実在の修道女の伝記をポール・バーホーベンが映画化。「ショーガール」「氷の微笑」「ブラックブック」「エル ELLE」など、バーホーベンは複雑な内面と逆境から生き延びる力強さを持つ、強烈な女たちを描き続けている。
主演はバーホーベンの前作「エル ELLE」で、夫の異常性癖と悪行を知りながら、見ぬふりをし続けた敬虔なカトリック信者を演じたビルジニー・エフィラ。今作のベネデッタ役では信仰度がパワーアップ、幼少期から“奇跡”を起こし、更には権力や禁忌とされる肉体的快楽を求めることをためらわず、野太い声でキリストの言葉を伝えるその変わり身に圧倒される。また、あどけなさを残しながらも野生味あふれる美しさで、ベネデッタの官能の導火線となるバルトロメアに扮したダフネ・パタキアの小悪魔的魅力、そして、修道院長役のシャーロット・ランプリングのいぶし銀の怪演も見事だ。
神より金の修道院長、要職にある男たちの支配など、教会の欺瞞を明らかにするが、アンチ・キリスト映画ではない。修道院での性行為、暴力や拷問と観客を挑発するようなスキャンダラスな要素よりも、狂女と呼ばれようが、“奇跡”は自作自演だと言われようが、キリストに仕え、その言葉で自ら大衆を導く存在であることを疑わず、正に「信じる者は救われる」を貫いたベネデッタのカリスマ性に我々は翻弄されるのだ。
また同時に、彗星の出現や、疫病の蔓延など危機に直面した人間の弱さも風刺する。現代のわが国でも、不可抗力の災厄に対して謎めいた青年が神頼みするアニメ映画が盛況であるし、時代や国や信仰の対象が変わってもすがりたいものは変わらないのである。
(今田カミーユ)