「スタンダップ・コメディアンのヘンリー・マクヘンリー(アダム・ドライ...」アネット りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
スタンダップ・コメディアンのヘンリー・マクヘンリー(アダム・ドライ...
スタンダップ・コメディアンのヘンリー・マクヘンリー(アダム・ドライヴァー)は、挑発的なスタイルで笑いを取るステージが大人気。
ステージのタイトルは「The Ape of God」(神の猿人)。
そんな彼が、国際的オペラ歌手アン(マリオン・コティヤール)と情熱的な恋に落ち、ふたりは結婚。
まもなく娘アネットが誕生するが、ヘンリーの名声は失墜し夫婦仲はギクシャクし始める。
夫婦仲を取り戻そうと、ヨットでの世界旅行中、嵐の夜、無謀なヘンリーを諫めようとしたアンはデッキから墜落、行方不明となってしまう。
命拾いしたヘンリーとアネットだったが、たどり着いた無人島の海岸で月明りに照らされたアネットは、まだ喋れる年齢でもないのに、突如、美しい声で歌い出す。
その声は、アンを彷彿とさせるものだった・・・
といった内容で、このあたりで、半分以上が過ぎています。
オープニングからカラックス監督の挑発的なアナウンスがあり、ノイズ交じりの夜景に続き、音楽(原案も)を担当したスパークスの録音風景から始まり、曲に合わせて街へ出、フィクションの世界へと誘っていきます。
勉強不足のためスパークスの曲を聴くのは初めてでしたが、1曲目から「これ、好きなタイプの曲!」と感じ、以降は、カラックス・マジックならぬスパークス・マジックにハマった感じ。
ミュージカル仕立てと聞いていましたが、ミュージカルというよりもオペラに近い感じです。
ミュージカルだと、1曲1曲が「はい、これからミュージカルナンバーです」みたいな感じで、ドラマの繋ぎにナンバーが登場することが多いのですが、本作ではほぼ歌いっぱなし。
なので、ミュージカルファンは「あれ、違うんじゃない?」と違和感を持つかもしれません。
さてさて、映画の中心はヘンリーなわけですが、とにかく、この男がエゴ丸出しで、自己愛が強すぎて辟易。
「ほらほら、僕をみて。ほらほら、笑わしてあげるから。だって、俺ってすごいんだから。でも、俺はホントは弱いんだよ。すぐ傷ついちゃうんだ」って。
うへぇぇ・・・
不愉快だねぇ。
その上、なんだか自分をみているようで困ってしまうぞ。
ということで、アネットを愛しているといいつつも、「アネットを愛している俺を、俺は愛している」な男は、最後の最後にアネットからしっぺ返しを食う。
とにかく、救われない。
ま、こんなヘンリーみたいな男は救うことなど必要ではないのだけれど。
物語の内容はすこぶるシンプル。
ヘンリーの側に感情移入・自己投影するならば、どうにもこうにも救いようがない話だけれど(というかアネットから見放されて、やっと自己に気づいたのか)、アネットの側に感情移入すれば、父と訣別して最後は救われた話かもしれない。
けれども、アネット側に感情移入できない仕組みがあって・・・
幼いアネットは「人形」が演じている。
それも、かなり精巧に出来ているので、かえってホラーじみているというか。
後段、幽霊となって登場するアンより、よっぽど怖い。
ヘンリーは「暗い闇の深淵を覗いちゃいけない」と格言めいたことを繰り返しアネットに言うが、それは一理あるが、ヘンリーは深淵を覗いていなかったのだろう。
どれほどの深さかにも気づかず、どれほどの暗さかも窺わず、侮っていたのだろう。
ABYSS(深淵)ではなく、HOLEだとアナどっていたんだよ。
とにかく後味の悪い音楽映画で、同系列の映画では『Tommy/トミー』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』を思い出しました。
とはいえ、悪い後味は尾を引くもので・・・