「フランス人監督の情熱に感謝」ONODA 一万夜を越えて Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
フランス人監督の情熱に感謝
フランスのアルチュール・アラリ監督が小野田さんの特異な経験に惹かれ、映画化までこぎつけた。 観ていて、その情熱がひしひしと伝わってくる。 小野田さんの帰国をリアルタイムで見た人間としては、大変嬉しい。
ただ、小野田さんの経験を感動のドラマとして見るには、少し完成度が不十分だったかなという印象が残る。 様々な状況下で出演者の感情的なシーンが積み重ねられて物語が進むのだが、 昔の日本人の感情表現として見るには、少々劇的過ぎるかも…と感じるのだ。 率直な感想を言えば、 むしろ思い切ってフィクションのエピソードを加えてでも、 サバイバルドラマの方に重点を置いた方が、メリハリが出来て面白かったかもしれない。
文明生活から隔絶されたジャングル生活は、現代の我々からすれば異常なほどの非日常だ。 しかし、本質的には我々の人生と変わりはなく、近代的な生活のような複雑さは無くとも、多面的であるはずである。 30年間の毎日は、緊張と感情の交差する激しいものばかりではなく、当然ながら、淡々と過ぎる時間が多かったに違いない。
ジャングルでの終わりなき戦闘という現実の中にいながら、目の前を矢のように過ぎて行く時間。 小野田さんと最後まで共闘した小塚氏は、郷愁と時間の重さに耐えきれず心身を消耗し尽くしてしまったようだが、生身の人間なら無理もないことだろう。
作戦遂行の使命を負ったリーダーとして最後まで生き残り、毅然として闘い続けた小野田さんは、過行く時間に何を感じ、何を想ったのだろうか。 人間を老いさせる時間と真正面から対峙したことこそが、実は、小野田さんたちの極めて特異な経験だったのではないか。 などなど、色々な想像を巡らせてしまうのが小野田さんの物語の面白い所なのである。
せっかく様々なエピソードを忠実に描いてくれた監督に対し、少々細か過ぎる評価だったかもしれない。 俳優たちの熱演と丁寧な演出には、大変好感が持てた。 魂も気合も入った、本当に良い演技だった。 天国の小野田さんたちは、この映画の公開をきっと喜んでいると思う。
ちなみに、 「生きる」(PHP研究所刊)という小野田さん最後の書下ろしには、 題名の通り「生きるとは何か」が書かれており、戦争や軍隊について焦点が当てられている内容ではない。 この本の内容こそが、過酷な運命を見事に生き抜いた小野田寛郎という人間の本質と人生を物語っていると思う。 そんな小野田さんを映画で描いてくれたアラリ監督には、小野田さんを尊敬する一日本人として、心からの感謝を表したい。