「"微妙"の一言」ソー ラブ&サンダー いっしーさんの映画レビュー(感想・評価)
"微妙"の一言
エンドゲーム後の待望のソー単独映画でしたが、手放しで最高の映画とも言えず、かと言って全くつまらなかったとも言えずなんとも微妙な作品でした。
良かった点として、まずは当然エンドゲーム後のソーの物語が見れることでしょう。エンドゲームで精神を病んでしまってブヨブヨになってしまったソーが、自分のアイデンティティを見出していくというメインストーリーはファンとしては面白かったですし、見る価値は十二分にあったと思います。
ですが、映画単体として評価すると非常に微妙と言わざるを得ません。
みなさん"タイカワイティティ監督との相性によって評価が変わる"とおっしゃっていますが、個人的には監督との相性云々以前の部分に脚本の綻びが多いと思います。
例えば、本作のメインプロットとしては、神に恨みを持ち全神を殺すという恐ろしい目的を持った神殺しのゴアがヴィランとして登場し、その怖さとヴィランへと展望してしまった重い過去が冒頭から描写されていましたが、中盤でソーが逆的に軽くあの全能の神ゼウスを殺して(生き延びていましたが)しまいますよね。これはゴアの恐ろしさを半減させる描写であり、物語全体のテーマをブレさせかねません。また、中盤影の国での戦いを終え、怪我を負ってしまったヴァルキュリーに対し、ソーは再びゴアと戦いにいくことを告げますが、それに対しヴァルキュリーが発する言葉は「私は言ったら死んじゃうから行かない。くれぐれも死なないでね。」と言うなんともあっさりした一言。いやいやさっきあなた含めた3人がかりで戦って倒せなかった相手とタイマンで戦えと?それこそソー死んじゃうよ?と。これはもはや信頼がなしえるコミュニケーションとは言えないですよ。
そのほかにも、ムジョルニアはふさわしいものにしか持ち上げられない呪いがオーディンによってかけられていたはずですが、いくらソーの元カノとは言え、”自分の病気を治すため"
という自分勝手極まりない理由でムジョルニアを持ち上げ、あろうことかソーになるという展開はあまり納得のいくものではありませんでした。一応劇中ではソーとジェーンが付き合っている時代にソーがムジョルニアに対し「ジェーンを頼む」と言っていた、という描写があり、愛がなせる技だと言うことなのでしょうか、だとすればもう少しその点強調する描写があっても良いのではないかと感じました。
また、今作ではムジョルニアやストームブレイカーが人間の言葉を理解し、コミュニケーションが取れるということが、ストームブレイカーがムジョルニアに嫉妬するという形でコメディタッチで強調されていました。であるならば、終盤ゴアがエターニティの扉を開けるのにあっさり利用されてしまうストームブレイカーってなんなの?と思ってしまいました。自我を持っていることが強調されていたのだからせめて抵抗するけど無理矢理協力させられる等の描写が必要なのでは?と。そもそもインフィニティウォーで即席で作ったストームブレイカーが、太古の昔からあるエターニティーの扉を開く鍵とはこれいかに...?そもそもビフレストの仕組みについてシリーズを通してあまり描写されていないため、この辺りはちょっと違和感をどうしても覚えてしまいますね。
ガーディアンズたちとの関係性もまた雑な描写でした。ゴアを倒すために軍隊が必要だと言うなら、真っ先にガーディアンズに連絡をとってしかるべきなのではないでしょうか。もちろんこれはソーの単独映画なので、ノイズになってしまうのはわかるのですが、どうしても違和感を感じてしまいますよね。
それ以外では、他の方が述べていらっしゃるように、タイカワイティティ監督の独特なギャグセンスが合うか合わないかによって評価が大きく変わるのではないでしょうか。
前作ソー/ラグナロクでは、前半でオーディンの死やヘラによるアスガルドの制圧などがシリアスなタッチで描かれ、中盤ソーがバトルロイヤルに参加し、ロキやハルクと共に脱出する流れがコメディタッチで描かれ、終盤ラグナロクによってアスガルドが滅ぼされてしまうという流れがシリアスに描かれるという、コメディとシリアスのバランスが良かったと個人的に感じています。しかし本作はこのようなメリハリがなく、シリアスなシーンの途中に捩じ込まれた数々のギャグシーンが物語の流れをいちいち堰き止め、感情の高まりを阻害していると感じてしまいました。
最後にゴアの娘を引き取るソーの感情についても唐突すぎてあまり理解が追いつきませんでしたね。作品として言いたいことはわかるんです。ゴアも根っからの悪人ではなく、愛する娘を失い、その上神に横柄な態度を取られ恨んでしまった。エターニティを開いて神々を殺害しようとしたが、ソーの説得により、愛する娘を取り戻すことを選択した。一方のソーはその戦いのために最愛のジェーンを失ってしまう。ゴアも命を落とし、結果として娘を"ラブ"の象徴として引き取り、新しい生活を送る...。それはわかるんですが、ちょっと唐突すぎやしませんかね。さっきまで作品のメインヴィランだった男の娘を引き取ったかと思えば、次のシーンでは最愛の娘みたいな感じで仲良く生活してる...。ちょっと間が抜けすぎてついていけなかったです。
私はIMAX3Dで試聴したのですが、意外とアクション含め全体的に3D映えしなかったのも残念なところ。別に2Dで良かったのでは?3Dだと鑑賞料金が極端に高いのでこの程度なら2Dで上映してほしかったです。
R.I.Pロキの刺青やジェーンとソーの恋愛事情など、良いシーンも数多くあったし、影の国でモノクロの中戦うソーたちのアクションは鳥肌が立つぐらいかっこよかったのもあり、非常にもったいない作品だなあと思います。
今年のマーベル映画がスパイダーマン NWHやドクターストレンジMoMという個人的にかなり評価の高い映画だったこともあって、ハードルが必要以上に上がっていたこともありますが、それを差し引いても手放しに絶賛できる映画ではないかと思います。
ただこれだけの長文の感想をインターネット上に書き込みたくなるほど印象に残った作品ではありますので劇場で見る価値はあります。MCUファンなら楽しめはするはずです。