「喪失と復讐の連鎖」ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
喪失と復讐の連鎖
喪失と復讐に取りつかれた人たちの連鎖が物語を紡いでゆく
全体的にまとまりに欠ける展開だった。サム・ライミが監督を務め、大いに期待したものだがやっぱり渋滞に巻き込まれ、たくさんの未消化物件を積み上げたまま映画が終了してしまった。
ネタバレ覚悟で書いてしまうが、見たくないものの羅列だったと思う。
黒人のキャプテン・マーベルだったり、プロフェッサーXがまんま出てきたり、キャプテン・アメリカの女性版や、満を持して3たび登場のファンタスティック・フォー、ストレッチョことリード・リチャーズなどなど、多様性とアベンジャーズの残した宿題をここで一気に片付けてしまおうと「トッピング全部乗せ」的な雑な展開がある。そんなことをしても途中で味が分からなくなって飽きてしまうか、乗せすぎたことで火が十分に通らずに美味しくない、互いの持ち味を消し合ってしまうなどの不具合が起きるものだ。ここでもそのデメから逃れられずに後味の悪さだけ残ってしまった。
それぞれが主役級のキャラクターであるのに、ザコキャラ扱いでしぼんでしまうのだ。
『スパイダーマン3』の時の、ヴィランの出し過ぎが祟ってやや消化不良気味でシリーズが閉じて行った時の嫌なトラウマが、またもサム・ライミを蝕んだようだ。どうしてもスタジオ側の要望を飲まざるを得ない部分はあるだろうが、とにかく必要のない要素をスッキリと消し去れば、映画として綺麗にまとまっただろう。
余分な展開がたくさん生まれてしまった分だけ、本来きっちりと描かれるはずの少女アメリカの生い立ちやユニバース転生能力、ストレンジとエイミーとの恋仲がこわれてしまったことなどのストーリーがだいぶ端折られてしまった。ワンダ・マキシモフの悲劇に至っては「ディズニー・チャンネルでお楽しみください」とでも言わんばかりの唐突さだ。
映像表現も、どこかで見たようなボスキャラばっかりで、逆に迫力が薄い。
やっぱり、アベンジャーズのような見せ場だらけの映画って、そうそう簡単にできるものじゃないってことですね。
ちなみに、サム・ライミ映画にはちょい役で必ず登場するブルース・キャンベルが、ピザボール売りのおじさんとして登場。ドクターの魔術の被害で自分の腕に攻撃され続けるという災難に見舞われるが、これはどう見ても『死霊のはらわた』シリーズのパロディだろう。少しうれしくなってしまった。