劇場公開日 2021年9月23日

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「あの一枚は、こうして生まれた」MINAMATA ミナマタ ロンロンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0あの一枚は、こうして生まれた

2021年10月4日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

事実に基づいた映画は、そのテーマと描かれる人、時代背景などが鑑賞者に、どの程度知られているか、またどのようなアプローチで描かれるかで作品を見た人の感想は全く変わるはずです。
現在、還暦を過ぎた私も水俣病の恐ろしさやユージン・スミスが著名な写真家だという事は子供の頃からある程度は知っていましたし、写真集MINAMATAが発刊されたのは、私自身が写真を専門的に学んでいた大学生の頃だったから、スミスのいくつかの作品は既に知っていました。
そんな自分にとってのスミスの写真に対する長年の疑問が、この映画作品で鮮やかに解けた気がします。
彼の写真作品には宗教画と同じように、見る者を敬虔な気持ちにさせるものがいくつかあり、それがどのように創作されたかの一旦を感じる事が出来たのは本当に良かったです。
重くなりがちなテーマと著名な人物という二つの題材が重なっていたため若干、急ぎ脚で色々なエピソードを詰め込んだなという印象は否めません。
しかし、デリケートなテーマでありながら、関係者への配慮はしっかりとされているし、何よりクライマックスのシーンの描写が、とても美しく感動的だったのは、今作を一見の価値ありと言えるものにしています。
ユージン・スミスが何故、世界的に著名な写真家なのか?それは単に技術が優れているとか、写真への情熱が強いというだけでは計り知れない人間の心奥の強さを感じました。
アンタッチャブルなテーマでありながら、稀代のスター、ジョニー・デップだからこそ実現した今作の企画は亡きユージン・スミスの残した軌跡が繋いだもの。
日本のマイナスの遺産があった事実を世界に問う、次世代への警鐘です。
こうして、あの力強く美しい一枚が生まれた。
その一枚も今作も描かれるのは生命の尊厳と人間愛。
何より凄い事だと感じたのはスミスの一枚もデップの今作も米国人だからこそ、モノに出来たのだと気づいた事です。障がい者の差別が厳しかった時代に、障がいを持つ我が子の姿を写真に撮られ、それが世界中に配信される事がどれほど辛かったかの母親の気持ちを考えれば、それを可能にさせたユージン・スミスの人間愛の深さを想像せずにはおれません。デップも、また同じです。単に有名人だからというだけで制作出来るテーマではありませんからね。
高度経済成長の時代に犠牲となった弱き人々と、共に闘った写真家の真実の物語。
日本の今日の繁栄の陰には、こんな人々、こんな事があったのを日本人なら常識として知っておくべきだと感じます。キャスト達の抑えた演技が重過ぎないのが良い結果となったと思います。

ロンロン