「バトンを渡された人が皆いい人で良かった」そして、バトンは渡された 落ち穂さんの映画レビュー(感想・評価)
バトンを渡された人が皆いい人で良かった
原作を読んでいないためか、何カ所か違和感がありました。
その1:
幼い頃に母を亡くし、父と親一人子一人の生活を送ってきた小学生が、いくら友だちと離れたくないと思ったり、新しい母が可愛がってくれているとは言え、実父との同居を選ばないことってあります?
その2:
森宮は東大卒で大手商社にお勤めなんですよね?勤務先があからさまな雑居ビルでした(エレベーターに多種多様な格好の人が乗っていましたし、入り口にセキュリティゲートもない)し、出世しなかった役とは言え、貯金も少ないし、田中圭に東大感も全くなかったので、嘘ついてる設定なのかと…。
その3:
高校の同級生が、嫌っていた子の境遇を知った程度で急に仲良くなったりすることはないでしょう。音大進学を狙うようなある程度の家庭環境下にあると思われる生徒がゴロゴロしている学校であれば、逆に、余計遠巻きにされるほうが自然なような。先生に聞いたとか言ってた気がしますが、家庭環境なんて一番機密な事項、しかもかなり特殊な事情の子について喋っちゃう頭の悪い教師がいるのも違和感ありました。
その4:
小学生の一時期にピアノを習っていただけの子が、高三になっていきなりピアノで伴奏者をするのは無理なのでは?本筋に関係ない単なるイジメのエピソードを入れてきたのかと思いましたが、下手ではあっても、それなりに弾けたのは驚きました。恋愛エピソードに無理矢理持っていこうとする感がありました。
その5:
短期間一緒に暮らしただけの継母なのに、離婚時に継子の親権取れたのでしょうか?
最初は、継母は実父と離婚しておらず、ただ子供を渡したくないために逃げ、経済的な問題のために新しい男を作って寄生しているだけなのかと思っていたのですが、後に、継母の再婚時に子供の苗字まで変わっていたことが判明(家庭の都合で偽名を使うことが学校で許されている可能性もありますが、森宮が連れ子の籍を自分のところに入れない理由がありません)。ここは驚きでした。
その6:
子供に良い環境を与えるためだけに再婚を繰り返しただけにしては、肝心要の子供がいることを結婚式当日まで相手に知らせないなんてことがあるでしょうか?子供好きか確認済であったとしても、それは単なる一般的な会話であって、実際に小学生の子供がいると知ったら違う反応になる可能性は十分あります。もしそうなったら、子供がとても傷つくとは考えなかったのでしょうか?強引に行けば森宮は絶対うんと言うと軽く考えていたのでしょうか?
また、新しい父に結婚式当日まで一度も会わせないのも、とても子供を大切に考えている人とは思えません。
その7:
そもそも論として、自分の病気が深刻だとわかった時点で、子供を実父に返す選択はなかったのでしょうか?
事業に失敗していようが、病人の自分が支えるより遥かに経済面的にも子供の精神面的にも安定するでしょう。血の繋がらない男たちに託すより、実父のほうが子供の委託先として信用出来るはずです。実父と再婚相手との子供の年齢から察するに、その時点では再婚もしていなかったでしょうし。
梨花が父子双方の手紙を捨てずに抱えていたことからも、いずれは自分が2人を引き裂いたということを告白する気でいたと思われますが、それが子供が小学生のうちに行われていたら、関係改善は容易でした。勿論、幼い子供は自分を恨み嫌うでしょうが、どうせ会わずに死ぬつもりなわけですし、子供の幸せを考えたら当然の選択だと思います。
とまぁ、違和感は色々ありましたが、少なくとも梨花がネグレストではなくて良かったです。しかし、梨花は、産めなかった自分の子の身代わりが欲しい、その身代わりの子に嫌われたくないという気持ちだけで行動していて、子供の心を大切にするという観点がまるでなかった自分勝手な母親だとも思います。ピアノの練習場?健康な義父?そんなもの、実父に嫌われたと傷ついたはずの幼子の心に比べたら、ゴミのような存在です。「元気で長生きする母が欲しい」という言葉が額面通りの意味だと思って、病身の自分を見せまいとした?今度こそ最期まで看取るという大切な時間を奪っただけの悪手でしかありません。
唯一の救いは、全部を知っても、それをしっかり受け止められるくらいの成長を遂げた娘です。森宮父のお陰でしかありませんけど。バージンロードを歩く権利は彼にあって当然だと思いました。