劇場公開日 2023年3月17日

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「子供部屋おじさんの世界」シン・仮面ライダー 2Bさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5子供部屋おじさんの世界

2023年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

リアルタイムでTVシリーズを観ていた、ライダーごっこ世代の感想。
以下、がっかりした点。

まず、冒頭のカーチェイスからのショッカー戦闘員とのバトル。
最近の「大人向け」作品定番のショック表現かもしれないが、王道のヒーロー物にスプラッターは不要。血しぶき浴びる仮面ライダーなど、アマゾン1人でじゅうぶん。似たような(後味悪い)表現として、「エヴァンゲリオン」旧劇場版の主人公の自慰行為なんかがあったが、どういう意図があるんでしょうか。わからん!快

ライダーと怪人のデザイン。「仮面ライダー THE FIRST」の洗練されたデザインには遠く及ばず、全体的にダサかっこ悪く、統一感がない印象。ライダー2人のマスクとスーツは、TVシリーズをほぼ忠実にヨレっと再現したものの、アニメっぽいベルトとバイクがミスマッチ。昆虫型の怪人は硬質のメカ的マスクだが、コウモリオーグは豚っぽい特殊メイク、サソリオーグは顔半分を布で覆っただけで、「快傑ズバット」の殺し屋そっくり(石ノ森作品へのオマージュ?)。

致命的なのは、主人公の本郷猛が、「シン・ウルトラマン」同様、何を考えているかわからない、気弱そうで影の薄いキャラなこと。周囲に流されるまま、機械的に戦っているようにしかみえない。何かを守りたい強い意思とか、情熱とかを持たないヒーローは情けない。ルリ子に「ヒーローは赤」と言われ、マフラー巻かれたらヒーロー完成?

敵組織の目的もよくわからない。怪人達は、それぞれ勝手な思惑で悪事を企て、実行前に殲滅。そういえば、「魔界転生」で、天草四郎に復活させられた死人達も、幕府転覆など関係なく、みんな勝手に行動してましたね。世界征服じゃなく、絶望した人間を改造して好き勝手にやらせるのが、本作のショッカーの企みなんでしょうか。

プラーナやらハビタット世界やら、本筋にあまり絡まない設定が邪魔。解説に要するセリフの量と時間がもったいない。その分、ドラマに厚みを持たせてほしかった。

アジトに戻ったら、政府機関の男達がいて、共闘契約即締結。
コウモリオーグが飛んだら、サイクロンも謎変形で飛ぶ。
一文字隼人は、ルリ子の謎パワーで瞬時に洗脳から解放(この能力使えば、怪人倒さなくてもよさそう。「星雲仮面マシンマン」のカタルシスウェーブ?これもオマージュ?)。
新サイクロンは、政府機関が調達(絶対、ショッカーとつながってる)。
ご都合主義の嵐。なんだ。やっぱり、子ども向け作品だったんじゃないか。

ラストシーンは原作漫画の設定を踏襲していて、ちょっと良い感じだったけど、ここに至るまでの人物描写ができていないので、感動にはほど遠かった。登場怪人を減らしてでも、人物の内面を丁寧に描かないとダメだと思う。庵野監督は、「仮面ライダー」という作品や造形が好きなだけで、人間には興味がないのかなと思える。特撮だけじゃなく、昭和の作品は、人間臭いから面白いと思っているので、庵野監督の趣味の作品世界は、自分が観たいものとはだいぶ違う。昔の作品を徹底的に再現するより、むしろ、昔の作品をリマスター、再編集したほうが、伝わるものが多いのではないかな。

人物描写の浅さは、「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」3作品に共通している。庵野監督は、どれも同じような手法で映像化しているけど、「シン・ゴジラ」以外は残念な印象しかない。ではなぜ、「シン・ゴジラ」にあれほど感動したのだろう(自分の場合です)。おそらく、観る側が震災の記憶等を重ね合わせ、薄い人間ドラマを脳内で補完したからではないかと思う。今となっては、「シン・ゴジラ」の評価も変わってくる。

「シン・エヴァンゲリオン」の終盤、夢と現実の境界のない世界で、主人公のシンジと父親が、特撮セットの中で戦うシーンがある。これが種明かしで、「シン」シリーズの本質なんじゃないかと思っている。
「今日は、庵野くんの子供部屋で、昔懐かしいおもちゃを引っ張り出して、『かっこいいねぇ』って眺めて、みんなで遊びました」
こんな感じ。ただ、それだけだったんじゃないかと。
本作を見終わって、そんな風に感じてます。

2B