「想いを紡いでいく」シン・仮面ライダー マルホランドさんの映画レビュー(感想・評価)
想いを紡いでいく
驚いた。ここまでエモーショナルに響いたのは作品を見る前は想像できなかった。本郷猛というキャラはやはりテレビ版の藤岡弘、さんの顔がまず浮かび、とても濃い顔立ちだ、ということは認識している。だからそのイメージのままで映画を鑑賞したのだが池松版はとても優しいキャラ作りとなっている。いや、優しすぎるというべきか。それは作中にも十二分に説明がある。しかしその『やさしさ』が彼の強みでありその優しさがあるからこそ作中最強の敵に勝てたのだとも思う。やさしさが人を結び付け、やさしさが人を強くし、絆を強固なものとし、人の思いをまた人へ伝える。それはまるでリレーのバトンのように手から手へと渡り歩く。
主要なキャラが亡くなっていく熾烈さを見せているのと同時に誰かが亡くなったとしても、メットの中にメモリが入っていて映像で亡くなった人の思いが感じ取れるシーンは持っているものに魂が宿っているというメッセージと解釈できる。それは古くから日本にあったアニミズム的なエッセンスでもあるし庵野作品でいうところの「新世紀エヴァンゲリオン」でエヴァそのものに亡くなった人の魂が宿っているのと同じように思えた。本作ではそれは時にマフラーであったり、メットであったりと身近なものばかりだ。人は死んだらいなくなるが、存在自体はちゃんと残っている。ものにもちゃんとぬくもりがあり、死んでも記憶が宿っているのだ。本郷は残念なことに亡くなってしまうがその彼が持っていたマフラーとメットにはルリ子の思いも詰まっているし本郷の意思も刻まれている。そしてそんな彼らを間近で見ていた一文字にそのすべてが継承される。それが背中に宿りバイクを走らせるというラストは爽快感もあり、そんな彼の成長も感じ、見ている俺も前を向いて生きようというように思えて本当にすっきりとした読後感だった。
一文字は群れるのが嫌いだと最初は言っていたがそんな彼にも仲間ができて気を許していく姿はなんだか今までの庵野監督の過去から現在までの心境を表しているのかなと勝手に推測した。
SHOKERは絶望で構成され相手の怪人たちは絶望を感じ、その絶望を憎しみに変えて強くなった。あるものは愛するものを殺され、裏切られ、力に頼らざるを得ない人たちだ。それは昨今でいう無差別殺傷事件や恨みで人を刺したりする事件があるから人ごとではない。SHOKERの構成員である緑川イチローは人が悲しみを感じさせないように自らの考える幸福を追求した計画を進める。愛する人間を殺されたのも本作の主人公である本郷も同じ心境だ。しかしそんな彼らと本郷は紙一重でありながらも決定的に違うところがあって、それは最後まで相手に手を差し伸べようとする姿勢だと思う。イチローは絶対的な強さを誇り、正攻法ではとてもかなう相手ではない。しかしその戦いの最後はルリ子のメッセージをイチローに伝えることだった。それはやさしさを持っていないとできないことだし、絶望の淵にいる人に唯一できることは手を差し伸べることだ、と感じ取れた。それができる本郷は誰よりも強い。
人は絶望したり悲しみを背負ったり、それは本当につらいことでもその絶望から逃げると生きることへの拒否になる。感情委があるから生きているのであって、人の生き死にを見るから人は強くなるのだと思う。それを最後まで描き切った本作は庵野作品で一番好きな作品だと思った。