「映像作品として再現性が高い故に寒々しい」シン・仮面ライダー サルマネキングさんの映画レビュー(感想・評価)
映像作品として再現性が高い故に寒々しい
昭和仮面ライダーを旧1号からZXまで繰り返し鑑賞してきた者の一意見として、とにかく原点の再現やオマージュが悪目立ちし、良くも悪くも「昭和特撮マニアが予測する初代仮面ライダー」の範疇を越えられない作品であると言わざるをえない。
・予告編の時点で公開されていた「怪奇蜘蛛男」戦の再現。
・石ノ森特撮繋がりで登場する「キカイダー」「ロボット刑事」「イナズマン」のオマージュ。
・蝙蝠男、さそり男、蜂女を踏襲した怪人とその特性。
・バッタオーグ2号との闘いで“脚を負傷する”本郷猛。
・かまきり男とカメレオン男を掛け合わせた「合成怪人」。
・「死神グループ」と呼ばれる科学班。
・原作版「13人の仮面ライダー」の再現。
・本郷を喪った一文字にとっての最初の敵がコブラ男(藤岡弘負傷回)。
・ラスト前に明らかになる協力者の名前が“立花”と“滝”。
・エンドロールに流れる主題歌、副主題歌と最後大写しになる「終」の題字。
など、軽く思い起こすだけでも昭和ライダーを偏愛するマニアなら誰もが手を出しそうな“遊び”が目白押し。
映像ソフトや関連書籍で繰り返し何度も味わってきた身からすると予測が付きすぎて「仮面ライダーが大好きなアナタたちなら、この良さがわかりますよね」と、こちらの好物を過剰に押し売りされている感覚にニヤリとするより先に形容し難い溜め息が出てしまった。
シン・ウルトラマンでは各怪獣や宇宙人、ゼットンからゾフィーまで現代的な感覚にリファインされていて上手いなと感じたが、今作では「元ネタに忠実」が過ぎて却って薄ら寒く感じてしまった。
いちファンとして初代「仮面ライダー」が今もって名作であり続けることに異論は無いが、半世紀前の時代がゆえに名作足りえたこともまた事実だろうと思う。
原点に寄り添い尊重することも素晴らしくはある。ただ、令和の時代に再び本郷猛と一文字隼人、そしてショッカーを蘇らせるのなら、あれから五十年を経た今の世の中に初代仮面ライダーを問い直す“意義”を見せて欲しかった。
幼かった日に私達の心を奮い立たせ、勇気を与えてくれた仮面ライダーの魅力は、映像だけに依存したものだったのだろうか。
己の哀しみを仮面で覆い隠し、罪なき人々の平和を破壊するショッカーの魔の手から、己の身と心が傷付くことも顧みず、人間でなくなりながらそれでもなお人間を守る本郷猛、一文字隼人の精神性にこそ憧れを抱いたのではないか。
蘊蓄を重ねた特撮マニアが鑑賞して悦に浸る、バイアグラのような作品は要らない。
強欲なのかもしれないが、私がもういなくなっているであろう五十年先にも、この作品を観ていた誰かが新しい「初代仮面ライダー」を創り上げているような、そんな“進化”したダブルライダーを観てみたかった。