「完成してない」シン・仮面ライダー SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
完成してない
う~ん…、う~ん、これは…。という感じ。
仮面ライダーは好きだし、昭和のライダーを大人の鑑賞に堪える映画にするってのもかなり無理筋だと思うので、多少の粗には目をつぶって好意的に鑑賞するつもりではいたけど、どうしても”完成度が低い!”と思わざるを得なかった。
クモオーグとの戦いあたりまでは、「おおっ!これはいいかも…」と思って観れていた。
戦いも迫力があるし、ライダーの変身後の姿をヘルメットと強化服という設定にしたのも良い。
ショッカーの設定も斬新。人類の幸福の実現を目的として設定されたAIが、「最大多数による最大幸福」ではなく、「最も絶望している人間の希望をかなえる」ということのためにどうこう、みたいな話だったと思う。
で、ロボット刑事のKとか出てくるし、こいつが終盤で重要な役回りになるんだろうなー、という期待感も抱かせてくる。
でも徐々に映画の粗が目立ち始めて、そうすると「この映画は低い完成度のまま公開されてしまったのだ」という気持ちで観るようになってしまい、はじめはあまり気にならなかった本郷の演技もすごく棒読みチックに感じてくるし、ベテラン俳優のはずの一文字の演技だって下手くそに感じてくるから不思議だ。
全体的にすごくエヴァっぽい。ただ、これは庵野さんの作品だからそのことに文句があるわけじゃない。この世界観で完成度を高めていたら、面白くなった可能性はある。でもやっぱり"完成度が低い"。
まず一番言いたいのが設定がブレブレである(少なくともそう見えた)。本郷は風を受けないと変身できない設定のはずなのに、風を受けてないときにも変身している(ように見える)ときがある。変身中は本郷たちもオーグも素顔が異形の顔になっているはずなのに、明らかにそうなっていないときがある。緑川ルリ子と本郷との関係性もなんかブレてる。オーグたちが泡になって消滅する設定はいいんだけど、服とかも泡になるのはどういう原理なのか。泡になる無機物とならない無機物は何が違うのか。チョウオーグとの戦いのあと、本郷のヘルメットは泡になって普通のヘルメットにもどったように見えたけど、立花と滝がもってきた本郷のヘルメットっぽいやつは何なのか。本郷は改造される前の記憶がない設定だと思っていたら、中盤で家族のこと話しはじめて、???となった。
ショッカーライダーとの戦いもちょっと意味が分からなかった。彼らは本郷や一文字よりも高い攻撃力、少なくとも同等という設定のはずだと思うのだが、じゃあなんで彼らに勝てたのか? 作中でそれを説明してないのでは。この戦いはショッカーライダーたちの編隊走行とか迫力あって良かったんだけど、とにかく見にくくて、何が起こっているのかほとんど分からなかった。バッタの群体相という設定だから、見た目をBlackに似せてるんじゃないかと思って一所懸命見たんだけどよく判別できなかった。
CGがひどい。「これCGだよね」って明らかに思わせてしまうとそれは失敗してる。「ギャグなのか」と思えるほどCGが粗いシーンが多数。空中や高速で戦っているときの超人的な動きのCGシーンと、CGではなく普通の人間の力でペチペチ、えいえい戦っているときのシーンにあまりに差がありすぎて、滑稽。敵が死んだときに泡になって、泡が消滅するシーンが何度も出てきたけど、出てくるたびに「Oh! TVクオリティ…」と泣きたくなった。サイクロン号が変形するシーンも同じ。
けっこう複雑な設定や背景を、登場人物たちが早口で台詞だけで説明しちゃってるシーンばかりなのも良くないと思う。戦いの理由とか、それぞれの行動の動機とかよく分からないまま観てると、登場人物たちに感情移入できない。ルリ子や本郷が死んでしまうのってストーリー的にはすごく重くて悲しい出来事のはずなのに、全然悲しい気持ちになれなかった。結局プラーナってなんなん?生命エネルギーとか魂みたいなものか。ルリ子や本郷はヘルメットの中で生きてるってどういうことなのか。この世界観の最重要な概念だと思うので、もっとこれの説明するべきだったのでは。
チョウオーグは、完全変態だとか名前が一郎だとか、イナズマンやキカイダーとのつながりを匂わせておいて、実際は全然関係ないし、仮面ライダーゼロ号とか名乗ったり、ベルトがダブルタイフーンみたいなのが「無意味に意味深」でイライラする。「立花と滝」も、「この名前出しときゃファンは喜ぶだろ」っていう安易なファンサービスみたい。
この映画で一番の欠点は、話が途中なところ。「ここで終わるの!?」ってびっくりした。序盤でルリ子が4人のオーグがいる、みたいなこと言ってたから、「ああ、なるほど。それなら1本の映画でショッカーの壊滅まで描けるな」と思いながら観てたので、まさか続きになってしまうとは思わなかった。
全体的に、大学生の自主製作映画みたいな感じがある。話が分かりにくくて、ちょっと哲学的で高尚な思想が背景にありそうな雰囲気を出してて、映像の芸術性を重視してて、お金のかからない会話シーン多めで、手振れカメラで臨場感を演出してて。そういう感じは嫌いではないのだけど、今回はそれが悪い方に作用してしまったかなと思う。
くそみそに言いまくってしまったけど、この映画への期待値が高すぎてしまったからかも。平成仮面ライダー(特に第一期)は、石ノ森作品を研究しまくって、ほんとうに深いレベルで面白い作品になったものが多かったから、「庵野さんならそれを超えてくるはず!」という願望をもってしまった。
はじめにも言ったけど、この映画のショッカーの設定は良いものだと思う。怪人たちの「絶望の内容」にフォーカスして、1つの1つの戦いを丁寧に展開すれば、非常に面白くなったんではないか(原作漫画の「仮面ライダーBlack」はそういう感じだったかも)。
私はこの作品はとても残念感が強かったのですが、このレビューを読んで、なるほど感が出ました。このレビューの方向で完成度を高くすれば確かにおもしろかったかも、と思いました。