「これじゃダメだ」シン・仮面ライダー キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
これじゃダメだ
私にとってのリアタイ「仮面ライダー」は、「ストロンガー」や少し時間空けての「スーパー1」。
1号2号ライダーについては一般教養としてのイメージでしか知らないので、あらためて今回鑑賞前に、配信されている過去のTV版を初めから数話分確認したが、これがまたかなりエッジの効いた作品でビックリ。
特にアクションシーンが、早回し・コマ送り・逆再生・イラスト使用など、その後の特撮でもあまり見ない様な特殊な演出が満載。
他にも女性構成員4人組とか、色使いなんかも独特な雰囲気があって、当時の子供達の心を揺さぶったされたのも何となく頷ける。
で、本作である。
正直、非常に評価はしにくい。
この映画を「楽しんだ私」は確かに存在する。
だからこそ。
いや、率直に言って「これじゃダメだろ」。
庵野ファンであればこそ、やはり言わねばならないと思うんだ。
「いやぁ、相変わらず庵野さんらしいや。こんなの、ファンでないと解んないんじゃね?クックックッ…」
とほくそ笑んでいる場合ではない、と痛切に感じている。
私は、庵野監督を「カルト作家」だとは思っていない。
彼は「ナウシカ」の巨神兵の作画で我々の度肝を抜き、「トップ」「ナディア」「エヴァ」で鑑賞した多くの人の心を確実に掴んだワケだし、「シン・ゴジラ」は実写でもその才能を証明した。
しかし、それ以降の作品はどうだろう。
現在、日本映画界において、監督の名前だけで客を呼べる稀有な作家の一人であるが、もう業界あげての「崇拝」「祭り上げ」の域に達している気もする。
話が概要に広がりすぎてしまった。
以下は内容に触れますのでご注意下さい。
途中までは特撮アクションとしても面白かった。
でも後半に向けてどんどん違う映画になっていく。
相変わらず人間ドラマはかなり雑。
監督得意の文字による説明が本作ではほとんどない分、演者同士の棒立ち台詞の応酬(もう「会話」というレベルではない)がいつも以上に多く、その中で細かな状況が延々と解説されていく。
「自分の首のマフラーを切なそうに見つめて、グッと握る」
それだけで心情は伝わるのに、台詞で言わせないと気が済まないんだろうな。(いや、そうしないと観客には伝わらないと思ってるのか。)
特に浜辺美波の正面どアップがすごく多いので彼女のファンは楽しめるのかも。
シン・ウルトラマンの時もそうだったけど、基本的には「突っ込みシロ」を楽しむスタイルは今回も健在。
「おいおい、逃げるんかい!」
「ライダーと対決せずに退治できるんかい!」
「さっきまで道路走っとったんちゃうんかい!」
PG12になって、高い年齢層を相手にしたリメイクになっているはずだが、やはり庵野さんはストーリーや人間ドラマ、全体の整合性や辻褄には、ホントに興味がないんだろうな。
その代わり、ディテールにはこだわってるのがよく解る。
で、後半は「人類補完計画」へ。
後半のアクションらしいアクションはあのバイクチェイスなんだけど、暗すぎる画面の中で、ほぼ同じ形、ほぼ同じ様な色の目が錯綜していて、誰がどこでどうなっているのか解らない。
最後まで、原作やTV版への細かなオマージュネタは散見されるものの、それは監督自身が「俺のライダー愛」をただ自慢げに、特権的に注ぎ込んであるだけ。言ってみれば「仮面ライダー」というコンテンツを私物化している様にさえ見えてしまった。
純粋にお金を払った観客として、金額分楽しめたかというと、その実感はない。
そして、私が庵野ファンでない人にこの作品を勧められるかと聞かれたら確実に「NO」である。
勝手な話で恐縮だけど、私は大好きな庵野監督が、やはり日本人にとって「カルト作家」ではなく「国民的な監督」として存在し続けて欲しいと願っているし、そういう作品で楽しませて欲しいと思っている。
もちろん個人的には、です。
そういう意味で、もちろん私は作品を楽しんだけど、「これじゃダメだ」と明確に思っている。
「次作こそ」と身勝手な願いをかける一方で、本作では緑川ルリ子も本郷猛もこの世から去ってしまう。
今回テーマに「継承」が唱われていて、使命を帯びたヒーローの苦悩と孤独が「監督」という仕事の比喩だとすれば、次回作の予定も見えてこない今、ファンとしては今後の彼の作家活動に何か変化があるのか、という不安もよぎっていたりする。
杞憂でありますように。