そして僕は途方に暮れる : インタビュー
藤ヶ谷太輔、クズ男に注いだ役者魂 アイドル業との両立も語る「自分の課題」
映画「そして僕は途方に暮れる」(公開中)で、ばつが悪くなるとその場しのぎで逃げ出してしまう主人公を演じた「Kis-My-Ft2」の藤ヶ谷太輔。アイドル業で見せる表情とは正反対とも言える、見事なクズ男っぷりを体現して新境地を開いている。「グループ活動に支障が出た」というほど過酷を極めた撮影を通して、自分自身についてあらゆる発見もあったと告白した彼。俳優業に感じている可能性や、「バラエティやMC業もやっている自分だからこそ、できる芝居があるはず」と唯一無二を目指す今の思いを明かした。(取材・文/成田おり枝)
■クズ男に注いだ役者魂「徐々にやつれ、頬もこけ……」
2018年にシアターコクーンで上演された三浦大輔のオリジナル舞台を、三浦の監督&脚本、藤ヶ谷主演という再タッグで映画化した本作。藤ヶ谷演じるフリーターの菅原裕一が、ほんの些細なことから、恋人や親友、先輩、後輩、家族などあらゆる人間関係を断ち切っていく姿を描く逃避劇だ。
「愛の渦」や「娼年」を手掛けてきた三浦監督は、リアルかつ、人間の心の奥深くを抉り出す独特の世界観を描くために、妥協を許さず、何度もテイクを重ねながら撮影をしていく。役者にとっては、監督の求める微妙なニュアンスをとらえる作業が必要となる。舞台に続いて裕一を演じることになった藤ヶ谷は「同じ役を再び演じられるということはなかなかできることではないので、映画化の話をいただいたときは『また裕一を演じられるんだ』と一瞬の喜びがありました」と切り出し、「でも舞台であれだけしんどい思いをしたので、『これはかなり気合を入れていかないといけないな』とちょっとテンションが下がりました」と苦笑い。舞台の公演中は日々120%の力を振り絞りながらも「毎朝ダメ出しをもらった」というだけに、映画化というプロジェクトに臨む上でも相当な覚悟が必要だったという。
スタートした撮影は、やはり過酷を極めた。藤ヶ谷は「三浦組は、とにかく何度も同じシーンを繰り返すんです。まったくOKが出ない。一発でOKが出たことは一度もないです」と述懐。
終盤のある大事なシーンでは、「ワンテイク目で全部出し切ったら、三浦監督には珍しく『120点が出たよ!』と言ってくださって。『ついにワンテイク目でのOKが出たか!』と思ったら、『あと8回、頑張ろう』と。倒れそうになりました(笑)」と振り返り、最後のシーンにおいては「100回弱くらいやった」とも。劇中の裕一はすべてをうやむやにして逃避を繰り返すが、藤ヶ谷は「逃げ出したいほど過酷だった。裕一は逃げられていいなと何度も思った」という撮影に立ち向かい、「僕自身も徐々にやつれていって、頬もこけていった。でも完成作を観てみると、僕自身の疲弊ぶりが、逃げれば逃げるほど疲弊していく裕一に反映されていた。それはすごくよかったなと思っています」と自信をのぞかせる。
■改めて決意「グループ活動に支障が出る量のソロ活動はやらない」
藤ヶ谷のストイックさが、逃げ続けて追い詰められていく裕一の切実さと融合。滑稽ながら、「逃げ出したくなることってあるよな」とリアルな共感を呼ぶキャラクターが誕生したが、身を削るようにして挑んだ撮影は、「Kis-My-Ft2」としての活動にも「初めて支障が出てしまった」と打ち明ける。
「めちゃめちゃ影響が出ましたね」と破顔した藤ヶ谷は、「撮影は戦場のようでもあったので、あまり寝られていませんでした。撮影後から半年くらいは、なんだか調子がおかしかったですね。撮影が終わってすぐにライブがあったんですが、自分の心や表情が動かなくなってしまっていて。それだけ役と向き合えたんだとプラスに捉えていますが、そういった状態でライブをしたことで、ファンの皆さんにはご迷惑をおかけしてしまったなと思っています」と告白。「それ以降は、『グループ活動に支障が出る量のソロ活動はやりません』とマネージャーさんにも伝えています。グループ活動に支障を出さずにそのことに気づけたら一番よかったんですが、やってみないとわからなかった。本作での経験を通して、自分自身を見つめることもできたし、自分のキャパを知ることができたと思っています」と語る。
とはいえ、役者業への情熱を確かめた期間にもなったのも事実だ。「家で台本を読んでいるとき以上に、実際にロケ場所に立って、お芝居をしている相手の方、ヘアメイクや衣装など、すべてがそろったときに、グッと可能性が広がるのを感じられる。それは役者業の醍醐味だと思います。相手がいることで、自分の芝居が変わっていく。一人では絶対にできなかったものが、誰かとの出会いによって、まったく知らない自分を引き出してもらえるというのは、とても面白いことです。そして僕は、役者って『現場が楽しかったです』で終わらせてはいけない職業だと思っています。観客の方の糧や、何かになれるようなものを生み出さないといけない。誰かの心を動かす芝居をしなければいけないということには難しさも恐ろしさも感じますが、現場で味わえる醍醐味、誰かに何かを届けられること。その両方を叶えられる仕事ができていることは、本当にありがたいことだなと思っています」と喜びをにじませる。
■「自分だからこそできる芝居を」唯一無二を目指す覚悟
役者としてもそうだが、こうしてインタビューで対峙していても自身の胸の内をしっかりと言葉にするなど、藤ヶ谷の“伝える力”には目を見張るものがある。藤ヶ谷は「それはジャニーズ事務所で学んできたもの。ジャニーズって、いろいろなことをできないといけない。ジャニーズにいるからには、あらゆることにおいてある程度の合格ラインに達していないといけないのかなと思っています」とキッパリ。アイドル業、MC業、役者業など活動は多岐に渡るが、それらをどのように両立させていくかは「いつも自分の課題」だという。
「お芝居をやってその難しさに真正面からぶつかると、『自分は芝居ができないんだ。もっと芝居に挑戦したい』と感じます。そういう思いが強くなったとしても、僕はバラエティ番組にも出ることがありますから『僕がバラエティ番組に出ている時間にも、ほかの俳優さんはお芝居をしている』と焦りを感じている時期もありました」と正直に明かしつつ、「でも今は『芝居をする』という以上に、『表現をする』という大きな括りで考えるようにしています。バラエティをやっていたら、俳優業においても、お芝居だけやっている人とはまた違うリズムを作れるかもしれない。MCをやっていれば、そこで培った“聞く力”をお芝居に生かすこともできるかもしれない。そう信じて、活動のすべてを大事にしたいなと思っています」と吐露。
「そうすると、バラエティやMC業もやっている自分だからこそできる芝居が、死ぬ前くらいに見つかるんじゃないかなって」と微笑みながら、「いつか『全部を手放さないでよかった、これは自分にしかできないんだ』と思えたら、最高だなと思っています」と清々しく、そして力強く語っていた。