天才ヴァイオリニストと消えた旋律のレビュー・感想・評価
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【希望】
前に、ある作家さんで大学でも講義を持っている方と、民族差別なんかについて話した時、ヨーロッパで、長い間、迫害され続けてきたユダヤ人に、楽器の演奏を身につけようとした人は結構いて、持ち運びの容易なヴァイオリンを弾ける人は多かったのだそうだ。
教養であることはもちろん、場合によっては演奏家になることも可能だし、それで演奏家になったユダヤ人は少なくはないと。
(以下ネタバレ)
歌にして、口伝でユダヤ人の系譜を語り継ぐってところは、なかなか、日本人も含めて、多くの人には理解しづらいところだと思う。
エジプトを脱出し、イスラエルの地が安住の地になるかと思いきや、そこも奪われ、欧州に散り散りになり、迫害され、支え合ってきたユダヤの人々じゃないと理解し合えないものがあるのだ。
イスラエルの歴史学者でカミングアウトもしているユヴァル・ノア・ハラリのように、「神は、人間の作り出したフィクション」だと言えることが幸せなのかは、僕には判断がつかない。
ただ、神じゃなくて、人間同士が支え合うのが一番だという社会がより良いような気はする。
だから、対比として、ドヴィドルのヴァイオリン教育に尽力したマーティンの父親の存在は重要だったのではないのか。
民族とか宗教を越える人はいるのだ。
そして、この結末は、多くの困難をくぐり抜けては来たが、まだ、真の融和には時間はかかりそうだと示唆しているようにも思える。
だが、否定的なわけではなく、少しでも歩み寄ってきていると、きっと言いたいのだ。
うーん、評価がものすごく難しい…(ネタバレなしながら重要語句リスト入れました)。
今年192本目(合計256本目)。
※「アリア」「フラ・フラダンス」も観てきましたが、これらにレビューの需要はないと思うので飛ばします。
他の方も書かれている通り、いわゆるユダヤ人問題を扱ったお話になります。
実話ではないですが、歴史がそうである以上は、「実話に準じる」という扱いにはなると思います(かつ、その部分がかなりその話題になる)。
音楽に関することは、音楽コンサートで使われるような語を知っていれば有利かな…とは思えますが、音楽を扱うシーンはほとんどないため(序盤と終盤で各1回くらい)、そこは知識の差は埋められないと思います。
第二次世界大戦がはじまると、ドイツは他国と戦争をしたわけです。イギリスはドイツと戦っていたわけです。ここでナチスドイツのユダヤ人迫害が始まります。ポーランドに逃げた方もいれば、他国も含みます。そして、映画の中ではポーランドからイギリスにやってくる(逃げてくる)ようになっています。しかしポーランド自体もユダヤ人「だけ」の国ではなかったので、ポーランドもユダヤ人を何とかしたい(当時、難民が多すぎて対応が難しかった)という、単純な「イギリスとポーランドの対立」という問題ではなかったわけです。
一方、これは私は何度か書いているのですが、今のユダヤ人問題、換言すればイスラエル問題の元になったのは、実はイギリスの「サイクス・ピコ協定」です(1916)。この協定や、別の国とは全く違う協定をしたり、イギリスが相手国によって協定の内容をあれこれ変えたため、完全に破綻してしまっており、現在のイスラエルを含む国境が摩訶不思議な線引きになっているのは、こうしたイギリスの「適当な政策」(サイクス・ピコ協定含む)によるものが多いです(それがさらに、イスラム系国にも波及して、ISIS問題を引き起こした)。
もっとも、この問題はイギリスが制作しており(実際は、いくつかの国の合作)、イギリス自体が不利になるような表現はしないと思うのですが、この点、つまり、サイクス・ピコ協定にまったく触れないので、何が論点なのかかなりわかりにくくなっています(イギリス側の家族もその話は意図的にしないのか、まったく出てこない)。
さて、本題のタイトルは The Song of Names (あえて訳せば「名前の歌」)です。
これを何を指すのかは…。映画を見るとお分かりになるかと思います。
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(減点0.3) この映画で求められるのは、第二次世界大戦時のユダヤ人問題という、この映画の予告編などからで想像がつく範囲を超えてしまっており、ある程度は高校社会の世界史でもやると思いますが、現代史は何かとコマ数が足りずに駆け足で終わってしまいがちなところもまた事実です。
ちょっとこれは肩透かしを食った方も多かったのでは…とは思います。
日本公開のときは、この辺、もう少し字幕説明を増やすなどは必要ではないかな…と思いました。
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▼ この映画内で必要な事項(ネタバレなしなので、ネタバレになる部分は省略)
トレブリンカ収容所:現在のポーランドにある収容所で、主にユダヤ人をターゲットに収容していたとされるところのひとつ(このユダヤ人収容作戦を「ラインハルト作戦」といい、三か所に集めていたのです。残りの2つは、ベウジェツ収容所とソビボル収容所)。
棄教(ききょう): 信仰している宗教をやめること。宗教によって認められているもの、いないものがあり、また国によっても違います(日本では日本国憲法で信仰の自由を規定しているため、「棄教するのは止めないが、信仰している方には配慮してください」というのが一般的なようです)。
※ この「棄教する」という話は renounce (~を捨てる/(主義主張を)捨てる)という、かなりマニアックな語が出ます。このような状況でないと使われない語です。
シナゴーグ: ユダヤ教において、ユダヤ教信者が集まる場所(会堂/「教会」を考えるとわかりやすい)のこと。
ラビ: ユダヤ教信者の中でも年数、学歴ともに認められ、宗教指導者と呼ばれるような人のこと(国によっては「賢者」「師」等という"称号"が与えられることもあった)。
父親を想う気持ちはおなじ!
過去と現在と設定がうつりすぎるので、集中できないところがある。1951/52そして、80年代の現在。場所はニューキャッスルとワルシャワ、ロンドン、そして、ニューヨークなどと。マーティンもデビッドもそれぞれ3人の俳優が演じている。このところはわかりやすかったが。
幸運にも字幕が出たり、ワルシャワの空港でのタクシーの中で英語を話そうとしても、通じないというように、字幕だけでなく場面がどこに動いているか、示すものがあるので、内容
は追えるのでいい。ありがたい。
50年代マーチンの父親がダビド(デビット)を家族の一員として迎えて育てる。その中で、マーチンとデビットが競争心を剥き出しにしながらも、フレンドシップを築いていくところがいい。それに、喧嘩の真似事も好きだし、デビッドの自信満々な態度もかっこいい。でも、陰で、家族の写真をみながら、涙するところが、強気であっても、家族を思う気持ちがよく現れていると思った。はっきり言って自分だけ助かっていると思っているから、罪の意識もあるわけだし。
そういうシーンにもっと焦点を当ててもいいが、結局はクラシック音楽、迫害されたユダヤ人の天才バイオリニストの行方が重視されていて、その兄弟と言ってもいいデビットの消息を探すマーチンの葛藤と悩みが主に中心になっている。ユダヤ人の差別、迫害だけに重きを置いていないところがいいと思ってみたが??ユダヤ教として育てられた、ユダヤ人の真髄をみた気がした。
デビッドがロンドンの正統派ユダヤのコミュニティーに紛れ込んでからラビのティーブリムカ弔いのチャンティングを聞いて、一度捨てたはずのユダヤ教が再び心に戻ってきた。その後、ワルシャワのティーブリムカ絶滅収容所 (Tieblinka Extermination Camp) で殺されたユダヤ人のために自分で作曲しThe song of namesを 演奏する。マーチンはバイオリンを作ったAntonio StradivariのA Gagliano 1735が手掛かりでニューヨークのブルックリンのユダヤ地域に引っ越していたデビットを見つけ出す。
ここからが、最高にいい。
マーチンはデビットを殴り、父親の無念をぶつけた。子供の頃の殴りの真似事でなく、鼻血が出た。父親は里子のデビットを十二年間面倒を見て全てを捧げだ。亡くなる時、デビットの名前を(your name on his lips) だって!!泣けた!デビットは家族の行方が見つけられると思って、里親を省みる余裕なんかなかった。
マーチンが父親の無念を果たそうと思って、何年もかかって、デビットを探したしたことと、デビットが何年かかって、ユダヤ家族の安否を探し出したことは同じことだという。でも、デビットは(超?)正統派として、これからユダヤのコミュニティーだけで生きていく。これって、呵責の念?弔い?
最後、夜中起き出して、マーティンがカディシュKaddishを唱えるところがいい。この意味は、もう探すなというデビットの言葉に踏ん切りがつかなかったマーティンだが、Kaddishを唱えることはもう探さない、デビットは死んだと思うことだから。
この小説は読んでいないが、映画は探偵映画のようだが少し飽きちゃって、映画の途中でトロントフィルムフェスティバルTIFF 2019のこの映画の俳優のインタビューを見た。その後、一晩明けて、見出したが、デビッドがロンドンの正統派ユダヤのコミュニティーに紛れ込んでから自分が真剣になってみているのがわかった。
この監督は舞台の音楽監督でもあり、レッドバイオリンのような音楽の映画の監督をしている人なんだなあ。子供の頃のデビッド役をした少年はバイオリニストで、コンサートをしていると。なるほどと納得がいくねえ。それに、この題の意味は重要だ。
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