「原作が悪いのかもしれませんが・・・」明け方の若者たち Ishさんの映画レビュー(感想・評価)
原作が悪いのかもしれませんが・・・
年明けのわーわーした集まりが解散したあと興奮したままの頭をしっとりとさせたくて元旦のレイトショーで観ました。
う~ん。
正直、何を主眼として描きたいのか分からない内容で、原作のせいなのかもしれませんが???が浮かんでくるばかりの2時間を過ごして明け方を迎えることになりました。
まず、「彼女」役の黒島結菜さんとの出会いから惹かれ合う最初の場面は黒島さんの息を呑むような麗しさと、観客をもリアルに恋に落としてしまうような小悪魔的な"あざと可愛さ"によって一気に引き込まれ、「僕」を演じる北村匠海さん独特の”振り回される側”感とも見事に噛み合っていてとても良かったと思います。
ががが!ががが!
話が進み「実は既婚者との承知の上での不倫でした」という展開を経て、頭をフラットにして振り返ると違和感がすごいというか、役者の使い方が間違っているというか。
普通に考えて、「彼女」自身が言っていたように夫が帰国するまでの3年という期間限定で「自由に生きる!」というスタンスだとしても、初めて会った年下の大学生を「ズルい」やり方でまんまと落とし、最初のデートの帰りに「押して」と迫り速攻でホテルで結ばれ、高円寺に引っ越したあとは一緒に造り上げた愛の巣で半同棲までしてる・・・。
こんなめちゃくちゃワルい既婚女性いねぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!
いや、実際にはそういう悪女も現実世界にいるにはいるのだと思いますが、リアリティがあるか?と言われるとそんな倒錯した生き方をしてる女性は個人的には見たことも聞いたこともないレベルで、何より黒島さんによる「彼女」は明らかに悪女としては演じられていない。(やってることを見たら普通にド悪女なのに)
別にそういう非日常的な不道徳を味わうストーリーなら別に良いんですが、同時進行していく「希望を持って社会の門を叩いた若者が"社畜"に成り下がり絶望する」という超現実的な話とのギャップが凄くて、
しかも「彼女」から突然連絡が途絶え仕事が手につかない様子の「僕」が描かれているように、その二つはシームレスに繋がっていることから、甘美な男女の(禁じられた)恋愛と、感情が鈍麻するような退屈すぎる社会人の日常のどっちにも共感できず物語に入り込めないという状態になりました。
めちゃくちゃ積極的で、小悪魔というより悪魔そのもののような「彼女」との関係は「彼女」の夫が突然帰国したことで終わりを告げるわけですが、
「彼女」いわく「ちゃんと好きだった」という「僕」とのあんな爛れた、めちゃくちゃ爛れた不純な関係を「夫が帰って来たから」という理由であっさり終わるのも観てる側からしたらポカーン( ゚д゚)で、
修羅の道に引き込んだ側の「彼女」が瞳に涙を浮かべながらしおらしくそれを伝えるのも正直理解不能でした。
まぁ、あくまで不倫という道理や道徳に背いた関係なので、終わり方も意味不明というのはある意味リアルなのかもしれないですが、黒島さんという女優さんの使い方としてあれで良かったのか?という疑問は大いに感じます。
海外出張に出た夫との別離によって寂しさを抱えた人妻としての"愁い"や"儚さ"だけを演じてもらって、いけないことだと分かっていても恋に落ちてしまうという二人を描いたほうが観客的には感情移入も納得もできたと思います。
「自由」を履き違えて年下の男の子とともに破滅ルートへアクセル全開で進んでおきながら最後はあっけない涙のお別れ。
それだと"恋する女性"でもなければ"勝手な悪女"でもない、どっちづかずの評価になりせっかくのヒロインとしての配役が残念な結果になってしまったように思えてなりません。
また、ラブシーンは音楽の演出などもあり非常に情緒的なのに、そこに至るまでの流れ(「彼」が「押していいの?」と尋ねるやりとり)などは不自然なまでの"自然さ"で、そこも違和感ありまくりでした。
社会人のつまらない日常との対比としてメロドラマパートを描くのなら、そこは演技っぽくなってでも段々と高揚感に繋げてほしかったです。
実際にそこらへんにいそうなカップルの素っぽいイチャつきからいきなり洋画さながらの互いについばむような大人のキスをおっぱじめられても、社会への順応性が低そうな「僕」の恋愛シーンとしてはアンマッチな気がしました。
黒島さんも北村さんも肌を大きく出した体当たりの演技や度胸は素晴らしいと思いますが、旅行先のホテルでの「僕」と「彼女」の情事で見せた黒島さんの華奢(過ぎるとも言える)太ももは年上女性のエロティシズムというよりは未成年者とのそれのように見えて、保護されなければいけない者が姦淫されているようで正直痛々しく見えてしまったり。
アダルトビデオのような明らかに現実的ではない(そんな勢いよく突っ込んだら痛いだろ)行為の流れや見せ方で、申し訳ないですが観ていてたまらず噴き出しました。
四肢や裸体をこれみよがしに見せなくても二人の愛の深さが伝わってくるようなラブシーンを映す方法はあると思いますし、その後の「僕」の風俗店でもまた露骨に性的なシーンがあったせいで、食傷気味というか「何なんだこの作品」と思ってしまったのは事実です。
他にも、缶ハイボールを飲む音、風呂場で歯磨き粉を吐き出す音、風俗嬢のフェラチオの音・・・
あえて聴かせることで何か意味があるわけでもない音は切り捨てるか、他にもリアリティを表現するなら拾うべき音と一緒に聴かせないと、ただただ気持ち悪さだけが残ってしまうような気がしました。
たとえ不倫の恋でも刹那的な恋でも、男女の恋愛を一つの物語として美しく見せたいなら首尾一貫そのための采配をしてほしかったし、
同時に進んでいく"社畜"としての日常も、その悲哀を描くなら分かりやすい"事件"の他にも現実世界のリアリティをつぎ込んだほうがその残酷さが伝わったはずだと思います。
いろいろ否定的なことを書いて酷評しているように見えるかもしれませんが、そうではなく、
場面転換の見せ方や繊細な情景描写はとても良くて、引き込まれる要素もふんだんにあったからこそ、それがぶつ切りにならないような、最初のあの勢いのまま上手く完結できるような作品と巡り合えたら良いのかなと思いました。
若い女性の監督さんのようで、原作から変えることに遠慮や抵抗があったのかもしれませんし、自分の色を出して受けなければ「改悪」とも言われかねないことを考えるとリスクでもあるんでしょうが、
原作から仔細な部分で変更を施しても映像作品として昇華できれば別にそれはそれで良いのではないでしょうか。