秘密の森の、その向こう

劇場公開日:2022年9月23日

秘密の森の、その向こう

解説・あらすじ

「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、娘・母・祖母の3世代をつなぐ喪失と癒しの物語をつづった作品。

大好きだった祖母を亡くした8歳の少女ネリーは両親に連れられ、祖母が住んでいた森の中の一軒家を片付けに来る。しかし、少女時代をこの家で過ごした母は何を目にしても祖母との思い出に胸を締め付けられ、ついに家を出て行ってしまう。残されたネリーは森を散策するうちに、母マリオンと同じ名前を名乗る8歳の少女と出会い、親しくなる。少女に招かれて彼女の家を訪れると、そこは“おばあちゃんの家”だった……。

本作が映画初出演のジョセフィーヌ&ガブリエル・サンス姉妹がネリーとマリオンを演じ、「女の一生」のニナ・ミュリス、「サガン 悲しみよこんにちは」のマルゴ・アバスカルが共演。2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

2021年製作/73分/G/フランス
原題または英題:Petite maman
配給:ギャガ
劇場公開日:2022年9月23日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第71回 ベルリン国際映画祭(2021年)

出品

コンペティション部門 出品作品 セリーヌ・シアマ
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(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinema

映画レビュー

4.5娘はいかにして母を知るか

2025年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

親子というのは、役割がある。母は娘の面倒をみるし、そこには明確な上下関係が存在してしまう。母も娘も互いに対等の人間同士としてせっするというよりも庇護する対象、庇護してくれる存在として見てしまう。そのせいで素直になれないし、互いの人としての側面を見落としてしまう。
ある日森の迷い込んだ8歳の少女は、同い年で母と同じ名前を持つ少女と出逢い、仲良くなっていく。祖母を失ったばかりで、母はその悲しみで失踪していた、母の悲しみを娘はどう理解するか、8歳の頃の母と出会い、祖母をどう思っていたかを対等の立場で知ることで、母と娘の絆を強くしていく。
何気ない日常シーンが本当に輝かしい思い出のように感じられて、何気ないシーンで涙腺が緩む。主人公と子供時代の母を演じたのは双子の姉妹なのだが、その近似性が作品にすごくいい影響をもたらしている。直感的にこの2人は何かつながりがあるなと思わせる。72分の映画なので、思い立ったらふと見れるのがいい。何年かおきに見たくなる作品だ。

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杉本穂高

4.0セリーヌ・シアマの精緻な演出がさらに進化。

2022年10月31日
PCから投稿

前作『燃ゆる女の肖像』に続いて、セリーヌ・シアマはほとんど完璧な映画を作ってきた。しかも今回はさらにミニマリズムを極め、時空を超えて母と娘が出会うというSF的な設定を、非常にシンプルな子ども映画という枠に落とし込んでいる。もはや精緻な一筆書き、といった印象すらある。

主演している双子の少女たちの存在感も素晴らしい。ただ、ふたりでパンケーキを作るシーンなど、完全に素が見える演出は、自分としてはいただけないというか、もちろんとびきり可愛らしいシーンではあるのだが、そこは声のトーンも違っていて、そもそも2人の演技が達者なだけに、現実に引き戻される気がしてしまうのだ。

とはいえセリーヌ・シアマ監督がそんなことをわかってないわけもなく、祖母、母、孫といくつものレイヤーが重なっていくような本作に、もうひとつメタなレイヤーを重ねているのかも知れないとも思う。原題の「プチ・ママン」が出るタイミングとそのときに映っている人物や、劇中劇の内容のことを思うと、シンプルなようでいていちいち深い意味が込められているもわかる。また数年後に思い返したり、観直したりすることで、違う視点が得られるような気もするので、いつか試してみたい。

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村山章

4.5シアマ監督がいざなう森の深淵に感動が込み上げた

2022年9月27日
PCから投稿

たった73分。それは通常の作品に比べると少し短い映画体験かもしれないが、しかし言うまでもなく、重要なのは長さではなく質だ。この映画には冒頭から心を繊細に包み込むかのごとき柔らかで優しい触感があふれ、ふと気づくととめどなく涙がこぼれてしまうほどの情感がそこかしこに。人生とは出会いと別れ。8歳の少女ネリーは亡くなった祖母に「さようなら」が言えなかったことを悔いている。その母マリオンもまた、実母を失ったことで心が張り裂けそうな悲しみを抱えている。やがて一つの不思議な「森」を介して起こる出来事を一言で表すなら、それはマジックリアリズムと言えるのかもしれない。そして『燃ゆる女の肖像』同様、シアマ監督はヒロインたちの視線をじっくりと印象深く映し出し、かつて感じたことのない深い”気づき”と”つながり”を浮かび上がらせていく。その手腕に恐れ入った。映画の持つ無限の可能性を噛みしめずにいられなくなる逸品だ。

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牛津厚信

4.0女性同士の愛と連帯を描いてきたセリーヌ・シアマ監督が、“娘と母の絆”の可能性を広げた

2022年9月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

セリーヌ・シアマ監督はアデル・エネルを起用した「水の中のつぼみ」「燃ゆる女の肖像」の2作で、内省的な女性主人公が、華やかだが孤独なヒロインに恋慕し、感情をぶつけ合いながらも連帯感をはぐくんでいくストーリーを描いてきた(シアマとエネルはプライベートで長年のパートナーでもあった)。

新作の「秘密の森の、その向こう」が前述の2作のテーマにどこか呼応しているのは、主人公ネリーと瓜二つの少女マリオン(双子の姉妹が演じている)が並んで写るキービジュアルからもうかがい知れるが、それだけではない。シアマ監督にしては珍しくファンタジックな設定を採用することで、娘と母の関係、その年齢差にとらわれない新しい絆のありように挑み、繊細な手つきで鮮やかに提示してみせた。

最後まで観終わると、ある事実を知っていた人物の途中の表情や台詞はどうだっただろうか、と見返したくなるタイプの作品。事前情報をなるべく入れず、ネタバレを回避して鑑賞していただきたい佳作だ。

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高森 郁哉