劇場公開日 2022年4月8日

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「尺が足りない」とんび keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5尺が足りない

2022年6月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

重松清氏のベストセラーの映画化ですが、過去に2度TVで連続ドラマ化されており、この父と息子が歩んだ半世紀を描くには、TVでは十分な尺だったのが、2時間強の映画ではやや浅薄になってしまった気がします。

物語は、無器用で無骨で逞しい昭和の男と、その息子との長年に亘る確執と対峙、そして宥和を辿ります。
前半は物語の契機となる事件と専ら父親の人物像をひたすら描きます。時代背景は、塵芥と埃と汗の臭いが漂う、荒々しくも熱い情に満ちた高度経済成長期の昭和であり、舞台は、瀬戸内海に面した田舎の港町の、町の人々皆が家族のような、深く温かい情愛溢れる世界です。殊に広島弁の野卑なやり取りが耳に心地良く響き、喜怒哀楽が諸に現れる情の厚さを実感させてくれます。標準語では決して喚起しないシチュエーションです。

息子役が子役から北村匠海に入れ替わったところから父と息子の話に集約されて、漸く物語が佳境に入り一気に空気が濃密になるのですが、如何せんそれまでに周囲の人々に関わるエピソードがそれなりの尺で挿入され、本作の本質が散漫になってしまいました。
本作の核になるのは、あくまで父と息子の物語であり、小説ならば話に膨らみが出てきますが、映画ではただ間怠こしく感じます。
徹底して二人にフォーカスし凝縮していくべきでしょう。

特に前半の息子のキャラクター設定が希薄であり、父と息子の間の葛藤と、歳月の経過による互いの相剋の描き方が茫洋とした感がして、その分、ラストに向けての二人の反目と息子の嫁を交えた衝突・対峙と和解という、観客にとってのカタルシスの快感が十分に得られないように思います。
時空が行ったり来たりしても、役者の容貌や声色に変化や老いが出て来ず、時の経過が感じられないために混乱することも、物語のベクトルが見えないことに拍車をかけています。

更に人間ドラマゆえに人物の寄せカットが多くなるのは、ある程度已む無いですが、それにしても人物のカットが多過ぎて、物語の重要な要素と思われる広島の港町の情景、土俗性豊かな風景のシーンが殆どないので郷土色が希薄になるのは残念でした。

keithKH