劇場公開日 2021年9月23日

マイ・ダディ : インタビュー

2021年9月13日更新

ムロツヨシ、大真面目に“愛”を説く 奈緒、中田乃愛と語らう幸せの噛み締め方

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俳優生活25年目という節目となるタイミングで、硬軟自在にどんな役も演じ分ける人気俳優・ムロツヨシにとって、着実に歩を進めてきた努力に対するご褒美であるかのような作品との出合いがあった。役者にとって「初主演映画」という冠は、等しく1作品しか存在しない。ましてや、誰もが主演を務められるわけではない。「マイ・ダディ」という作品世界を生きたムロの胸中には、どのような心象風景が広がっているのだろうか。劇中で娘を演じた中田乃愛、妻に扮した奈緒とともに話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)

本作は、映像クリエイター支援プログラム「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM FILMS(TCP)2016」で準グランプリに輝いた「ファインディング・ダディ」を実写映画化したもの。今作でメガホンをとった金井純一監督が、TCPへの応募422作品のなかから準グランプリを獲得した企画だ。

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ムロが息吹を注いだ御堂一男は、小さな教会の牧師を務めるシングルファーザー。8年前に最愛の妻・江津子(奈緒)を事故で亡くして以来、中学生になった娘・ひかり(中田)を男手ひとつで育てている。ガソリンスタンドのアルバイトを掛け持ちしながら、決して裕福ではなくとも穏やかで幸せな日々を過ごしてきたが、最愛の娘が白血病で倒れてしまう。さらにドナー検査の結果、一男とひかりに親子関係がないことが判明。愛する娘を救いたい。そして、確かめようのない過去を疑い出せばきりがない状況下にあっても、妻の愛を信じたい一男の胸に迫るほど必死な姿に目を奪われる。

サマータイムマシン・ブルース」(本広克行監督)で銀幕デビューを果たしてから、約16年。出演本数は50本を超え、今や日本映画界にとって欠かせないポジションを確立したムロは2019年、さぬき映画祭に参加した帰り、香川から帰京する飛行機で脚本を読んだことで企画が大きく動き出す。

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ムロ「『このお話、興味ある? よかったら読んでみて』って手渡されたんですよ。『この作品に出てみない?』という言い方ではなかったと記憶しています。飛行機に乗って何気なく読み進めてみたら、どんどんストーリーにのめり込んでしまって……。機内にいることも忘れて、いつの間にか泣いていました。すぐに『この物語の中を生きたい』と思いました。『興味ある?』という言い方が良かったのかもしれないですね。『僕、これをやるんだ!』と思いながら読んだわけではないんです。役者ってどの役をやるか分かって読むと、なかなか冷静ではいられなくなるから。この脚本は、全くそういうことを考えずに読めたのが良かったですね」

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奈緒「私はどの役か理解したうえで読んだので、どうしても江津子がどんな人物なのかな? という目線で読んでいくなかで、家族というものをとても丁寧に描いていると感じました。十人十色の形がある家族というものを扱った作品は、このお仕事をしていくなかでずっと参加したいと思っていたテーマでしたから、家族の話をこれだけ丁寧に描き、愛について真正面から向き合った脚本に『ぜひ、私もやらせて頂きたい』と思いました。そして、母親役にずっと憧れていました。江津子が葛藤しながら苦しむ姿はひとりの女性としても惹かれたし、この人の葛藤を背負いたいとも思いました」

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中田「私はすごく心の奥底が温かくなって、言葉にできない思いが渦巻いていた記憶があります。生きたいけど生きられないという究極のところを当然ですが経験したことはありませんが、共感できることがたくさんありました。お父さんとの掛け合いのシーンも自分のことのように感じたので、何かすごい事が起こるんじゃないかな……という気がしました」

解釈は三者三様だが、いずれも脚本段階で今作に大いなる可能性を感じたことは想像に難くない。ドラマでの主演経験は豊富にあるムロだが、映画の現場で“座長”を務めることに秘めたる思いというのはあったのだろうか。

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ムロ「俳優部として、いち役者としてだけだったら、『主演という立場でこうしよう!』みたいなものがあったかもしれない。今回、初めての主演なのに脚本づくりから僕の意見を聞いてくださった。“ひかり役”のオーディションでは相手役をやりたい、そしてそれを見て監督、プロデューサーの皆さんに決めてもらいたい…という僕の思いを受け入れてくださった。参加された皆さんとお芝居をして、そのうえで中田さんに決まった。そういう色々な思いも相まって、もし何かあれば背負わせていただきたいという思いはありましたが、改めて雰囲気を良くしようということはしませんでした」

コロナ禍で撮影の延期を余儀なくされたが、ひとりとして気持ちが切れることはなく、2020年12月6日に無事クランクインする。ムロは、「監督をはじめ、どのスタッフさんにも延期したことをどうにかしてプラスにしたいという気持ちがあった。12月に撮影ができること自体が喜びだった。当たり前ではなくなってしまった撮影が出来る! ということが一体感を生んだと思います」と振り返っている。

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劇中で、一男が教会のミサで「2年もあれば思春期の女の子なんてガラッと変わります。汚らわしいものを見るような目つきで……」と話すくだりがあるが、娘役の中田は撮影時17歳。撮影が延期になった際、LINEで連絡先を交換して“遠距離親子”でコミュニケーションを重ねていくなかで、ムロは中田の成長をどのように見守っていたのか知りたくなった。

ムロ「オーディションで感じた魅力は、まだまだ自分には出来ないことがたくさんあるけれど、全てを曝け出したうえでどうしてもひかり役をやりたいんだ! という気持ちの強さ。参加された他の方々は子役からやっていたり、人前に立つ覚悟を持っていたと思うんです。中田さんは開き直りとも違って、『今の私に武器はないけど、こういう人間です』と体現していて、セリフを話す姿に嘘がなかった。そういう上手下手ではないところが、魅力に感じました」

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中田の抜擢が決まり、リハーサルを重ねたタイミングでムロと中田は食事に出かけたといい、「まずはふたりでご飯に行けたことが大きかった。役者の話、一緒に映画を作るうえでの会話もあったけど、“親子”としてふたりの歴史の1ページが進んだ」(ムロ)という実感を得る。その後、奈緒も交えて3人で食事をすることもかない、撮影が始まるタイミングまで“家族”としての関係性を構築する努力を惜しまなかった。

ムロ「撮影延期に関してはネガティブになっても仕方がないから、撮影することを信じて一生懸命、親子ごっこではあるけれど続けたことは大きかったと思います。作品をつくることを信じて疑わなかったし、撮影が始まった時にやれる喜びを全員で共有出来たことが何よりも大きかったですね」

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映画出演が「ウィーアーリトルゾンビーズ」以来2度目となった中田も、この“映画を作れる喜び”を隠そうとしない現場の熱量に大きな刺激を受けたようだ。そして、こういう作品に関わったからこそ、両親への感謝の思いが芽生えたと話す。

中田「お芝居ってすごい力があって大好きですし、これからも続けていきたいと思いました。今まで、そういう風に思えることってあまりなかったのですが、こうやってムロさん、奈緒さんとお話したり時間を共有していくなかで、お芝居って何かを超えていける力があるんだと思いました。撮影では1カ月ほど地元を離れて東京で過ごしたのですが、洗濯などは自分でするようになったので、今までずっと両親に支えられていたんだなと気づくことが出来ました。直接は恥ずかしくて言えないけれど、ちゃんと自分の中で気づきが持てたというのは大きな発見でした」

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一方、奈緒は今年公開作品が7本を数え、どの作品でも確かな演技力で存在感を発揮している。「草の響き」(10月8日公開)では東出昌大演じる心の病に苦しむ主人公に寄り添う献身的な妻になりきり、作品に圧倒的なリアリティをもたらしている。今作では共演を夢見ていたというムロの妻を生き、役者として愛を一心に受け止めた。

奈緒「以前、すごくお芝居がしたくてもお仕事がなかった時にやっと出られた、それも少しセリフをいただけた映画があったんです。その時、セリフがひとつも出て来なくて、当時のマネージャーさんにも『お芝居はやめた方がいいんじゃないか』と言われました。やりたかったお芝居が出来なくなるかもしれない悔しさ、出来ない自分への悔しさを感じているとき、隣のスタジオからすごく明るい声で『お疲れ様です!』という声が聞こえてきて……。それがムロさんだったんです。関係のない私にも笑顔で『お疲れ様です』と言ってくださった。それまで、もちろん色々な作品でムロさんのお芝居を観ていて一視聴者としてたくさん笑わせてもらっていましたが、やっぱり人間ってその人の持つ本質がスクリーンに出ているんだなって感じたんです。私はもっともっと人として成長したいし、どんなに活躍しても誰にでも笑顔で接せられる人になりたいと思いました。それからは、自分がもしお仕事をたくさんいただけるようになったら、ムロさんと共演したいと言い続けてきました。今回それがかなって嬉しかったですし、今回の現場でも、ムロさんはやっぱり笑顔で挨拶してくれたあの頃のムロさんのままでした。お芝居のうえでも、その瞬間に起きたことを一緒に共有し、楽しんでくださり、時には誘導してくださっているようにも勝手に感じていました。たくさん助けられながらお芝居をさせていただいて、本当に幸せでした」

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この“告白”に目を大きく広げながら仰天してみせたのが、ムロ本人だ。

ムロ「初めて聞いた! 以前、空き時間に『ずっと共演したかったんです』と言われたから『なんで?』って聞いたら、『言う訳ないじゃないですか!』って。ええっ! そこまで言って教えてくれないの? って思ったんです(笑)。いま初めて耳にして、思わず聞き入っちゃいました。いやあ、元気に挨拶しておくもんですねえ! 実にいい話だなあ」

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取材の場で満面の笑みを浮かべる3人だが、本編では酷な展開が幾度となく押し寄せ、一男たちは「ささやかな毎日を過ごせることがどれほど幸せか」という現実を目の当たりにする。そしてそれは、今作を映画館で観るファンひとりひとりにとって、そして我々にとって幸せについて様々な考えを巡らせ、噛み締める期間であったことは言うまでもない。

ムロ「これから、どんな時代になっていくのか分からない局面になってしまったじゃないですか。その中でも、僕らは人前に立つということを選んだわけです。皆さんに喜んでもらいたいし、笑ってもらいたいと心から思っています。でもそれが去年の春、当たり前ではなくなってしまった。人前に立てているということが、大きな幸せであると感じざるを得ないですよね。もっともっと、皆さんを楽しませることが難しくなる可能性があるなかで、それでも良い意味で昔と同じようにやっていかなければならない。そして大きな意味で、変えていかなきゃいけないという覚悟も持たないといけないと感じながら、毎日過ごしています」

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真摯な面持ちで語るムロの姿に触発されたのか、中田と奈緒はうつむきながら考え込んでしまった。すると、「帰宅してからの麦焼酎の話とかにしておけば良かった? でもね、最近はひとりで飲んでいると、それが言えないくらい寂しいの。ビデオ通話では埋められない寂しさがあるの。電話を切った後の寂しさが倍増するから。ささやかな幸せって、難しいよねえ」と、ムロは場を和ませることを忘れない。

奈緒「初めて主演した映画(『ハルカの陶』)が陶芸の作品だったんですが、その時にお世話になった陶芸の先生が風鈴を送ってくださったんです。車の中で風鈴の音を聞きながら、『いい音がするね』ってマネージャーさんと話していたんですが、撮影当時(18年10月)はコロナの脅威なんてなかったし、現地の方々(岡山・備前)と一緒に同じ方向を向いていた時期が確かにあったんです。その人たちと何年か経ってもずっと繋がっていられる。そういう繋がりにいま、幸せを感じています」

中田「私は音楽を聴くのが好きで、今まで電車や車の中でもずっと聴いていたんです。でも、最近はイヤホンをしなくなりました。周囲の音を聴くようにしよう、という意識が芽生え始めたんです。映画の撮影や今の状況で気づけた面もあるのですが、誰かの声がしたり電車の音がしたり、そういうことを感じられるってすごく幸せだなって気付いたんです」

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ささやかな幸せと地続きにあるものが何なのか、今作のクライマックスを彩る復活祭のシーンが教えてくれる。物語がどのような結末を迎えるのかは、ぜひ本編を鑑賞して確認してもらいたいところだが、一男の言葉を少しだけ引用させてもらおう。「一瞬の幸福は、いつも人生を優しく照らしていく。その積み重ねが人生だと、気づかせてくれたのです」。最後の最後に、恥ずかしげもなく聞いてみた。いま感じている「愛」を教えてください、と。

中田「相手の幸せを願うこと。たとえ相手が自分のことを思ってくれていなかったとしても、自分が相手に幸せでいて欲しいと思ったら、それは愛なのかなって。まだ18歳のガキなので…(笑)。でも、私もいつか見つけられたらいいなと思っています」

奈緒「無償のものだと思います。私自身、愛についてめちゃめちゃ興味があるんですよ! すごく興味があるんですが、全然答えが出てこないので、正直言って答えられません。でも、一生かけて自分なりの答えを追い求めていきたいと思える宿題ですね。全ての生物が生まれてきて、これだけは共通で追い求めていける形のないものだと思うんです。人に愛を求めるのではなくて、相手に愛を持つということはどういうことなのか、すごく知りたいです」

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ムロ「わたくし45歳、出てくる答えは……、裏切られてもいいことですかね。意図的であれ何であれ、裏切られたときに自分がショックを受けたり傷ついたりしたら、それは愛じゃなかったということになるのかな。裏切った相手にも理由があるだろうし、相手にもっと大切なものが生まれた瞬間かもしれない。何とも思わないというのはおかしいけれど、『そっか』と思えたら、僕の中でそれは愛だと思います」

父として、母として、はたまた息子として、娘として……。今作を鑑賞し終えたら、めったにない機会と捉え、家族や友人と「愛」について大真面目に語り合ってはいかがだろうか。そのひと時こそが、ムロをはじめ今作関係者が願う、特別に幸せな時間になるはずだから。

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