「危険なFCを知っていますか?」僕が跳びはねる理由 ベル邸さんの映画レビュー(感想・評価)
危険なFCを知っていますか?
まず、以下の文章は、作中に登場する自閉スペクトラム症の当事者や、そのご家族を非難する意図ではないことをご理解いただければ幸いです。
私は映画館で字幕版を2回、配信で吹替え版を1回観ました。
私はこの映画に対して強い懸念をいだいています。
それはこの映画が「Facilitated Communication = FC」という危険な手法をよりどころにして製作されているからです。
作中でベンさんとエマさんが文字盤を使って発言するシーンがありますが、あれがFCです。似たような手法がRPM(Rapid Prompting Method)、S2C(Spelling to Communicate)といった名前で呼ばれることもあります。
より詳しく知りたい方は、私のプロフィール欄からブログをご覧ください。
作品自体は決して質の悪いものではないと思います。
FCとナレーションを全て無視すれば、の話ですが。
綺麗な絵作りと印象的な音の使い方も私は嫌いではありません。
しかし、ナレーションとFCが「自閉スペクトラム症」の理解をかえって妨げてしまうのです。
私はイギリスのジョスさん(2番目に出てくる金髪の青年?少年?)のシークエンスが好きです。それは自閉スペクトラム症の「良い」ところも「悪い」ところも、隠すことなく赤裸々に見せているからです。実は彼のご両親は、この映画のプロデューサーを務めています。だから彼らの何らかの意図が色濃く出たのかもしれません。私は「自閉症は綺麗ごとだけじゃない」「世界中の同じ境遇にいる人たち、苦悩しているのは私たちも同じだよ」というメッセージのように感じられました。
私がもしジョスさんと会ったら、うまく仲良くできるかな? できるはず、なりたい。いや、でも、そんな簡単なことじゃないのかもしれない……。見るたびにそんなことを考えさせられました。
「FC」は、過去30年余りにわたって検証され、否定的な結果が出てきました。映画のパンフレットはそれに少し触れていますし、作中でも翻訳者のミッチェルさんがそれをほのめかすようなことを述べていましたね。
しかし、それだけではありません。「FC」は様々な悲劇を生んできました。
無実の家族が虐待の冤罪を受けた例がたくさん。
障害者が性被害に遭った事例も。
自閉症の8歳の少年を母親が殺めた事件にもFCが関わっていました。
英語ですが、Wikipediaの下記のページが詳しいです。
・List of abuse allegations made through facilitated communication
この映画を観て「自閉症者も文字盤を使えば会話ができるんだ! 普通の人と同じなんだ! 素晴らしい!」「もっと普通の人と同じような扱いをしなければ!」というふうに思う人もいるでしょう。それは、そのように映画が作られているからです。また、「自閉症ってこんななんだ! じゃあみんなこれから幸せになれるね!」と考えた人もいるでしょう。そのように映画が作られているからです。
でも、映画のその主張の多くが「FC」を根拠にしているとしたら?
それを信じた人は間違った道を歩くかもしれません。
本来必要なはずの支援が不要だとされてしまうかもしれません。
自閉症者たちの本来の「言葉」は無視され、FCによる勝手な文章が、本人のものとされてしまうかもしれません。いや、私たちは映画の中で既にそれを見たはずです。
自分の言葉や心が勝手に作られてしまうのは、どんなに恐ろしいことでしょう。
少し長く書きすぎたかもしれません。
こんな見方もあると、知っていただければ幸いです。