「芦田愛菜という女優(その2)」メタモルフォーゼの縁側 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
芦田愛菜という女優(その2)
ほのぼのとした気持ちで劇場をあとにした。
岡田惠和が、また良い仕事をしている。
『映画 妖怪人間ベム』『青くて痛くて脆い』の狩山俊輔の演出は、同時進行・対比を多用して、時に台詞を消したり、スローモーションや画面分割を入れたりして、映画的に盛り上げる工夫がなされている。
人生において最高に輝く年頃の高校生も、皆がみんなキラキラしている訳ではない。
自信が持てず、明確な目標が持てず、モジモジ悶々としている高校生はきっと多いだろう。
芦田愛菜が演じる主人公 うらら こそ、そんな一人だった。地味で目立たず、BLコミックが好きなことを誰にも知られたくない女の子。心が許せるのは、明るいイケメンの幼馴染み(高橋恭平)くらいのようだ。
その幼馴染みにはガールフレンド(汐谷友希)がいる。彼女は美人でクラスの人気者。しかも留学という目標を持ったキラキラ組だ。
うらら の「何が夢かなんて言うのは恥ずかしい」という気持ちはよく解る。
夢があったとしても、自信がないから人に言えない。夢や目標を堂々と言える人が羨ましく、時には妬ましく思えたりもする。一方で、そんな自分に嫌気がさす。
うらら は、バイト先の書店で老女 雪(宮本信子)と出会い、BLコミックについて語り合うことになる。
好きなことを恥ずかしいと隠してきた うらら が、雪と打ち解けて楽しみを他者と共有する喜びを知る。決して大きくはないが確実に うらら の中で変化が生じる。
そして、雪に背中を押されるかたちで、一大チャレンジをし、大冒険をすることになるのだ。
芦田愛菜は、若干卑屈な少女を嫌みなく演じている。
彼女自身はシッカリ者だと誰もが知っているのに、迷える少女に同化して見える。そして、観る者から共感を誘い、応援を呼び起こす。
「若い」と「幼い」の中間にいるような芦田愛菜の“今”だから成立した映画だと言えよう。広瀬すずや浜辺美波が同年齢の時でも、ああは演じられなかったと思う。
うらら の思いきった挑戦は成功とは言えなかったかもしれないが、雪と同じように声をかけたい。「凄いじゃない!」と。
そして、大冒険の一日を終えて、宮本信子と並んで窓の外を見上げる芦田愛菜の横顔は、微笑ましくもあり凛々しくもあった。
この映画にサクセスストーリーはない。
が、登場人物たちが微妙に影響しあって、それぞれが少し変化する、暖かい物語。
宮本信子の包容力もあって、本作でも芦田愛菜の女優力が発揮されている。
輝ける未来が、芦田愛菜にも うらら にも待っている。そんなことを思いながら帰路に着ける映画だった。
> 「若い」と「幼い」の中間にいるような芦田愛菜の“今”だから成立した映画だと言えよう。広瀬すずや浜辺美波が同年齢の時でも、ああは演じられなかったと思う
そうかもしれませんねえ。いい感じの比較だなぁと思いました。三者三様ですね。日本映画も、しばらく安泰だ。