「ハードなバスケ試合にほぼ焦点を絞ったシンプルな構成に好感を覚え、初めから終わりまで突き抜けたカッコ良さがとても気に入った」THE FIRST SLAM DUNK Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ハードなバスケ試合にほぼ焦点を絞ったシンプルな構成に好感を覚え、初めから終わりまで突き抜けたカッコ良さがとても気に入った
井上雄彦 原作・脚本・監督による2022年製作(124分、G)の日本映画。配給:東映
井上雄彦による漫画「バガボンド」はその闘い描写が大好きであったが、「スラムダンク」は読んだことは全く無く、バスケットボールはプレイすることも見ることも昔から嫌いだった。
それでも、「THE FIRST SLAM DUNK」は、痺れる様なカッコ良い映画だった。
オープニング、The Birthdayによる「LOVE ROCKETS」のリズムに乗って、鉛筆のサラサラという音と共に、白黒画像で素描されていく宮城リョータたち5名、それがパッとカラーに変わり、各々が動き出していく。今まで見たことのない表現で、井上雄彦の拘りというか、彼の荒々しくも美しい線による劇画的描写が、今まさに描かれているという動きを伴って、アニメとして見事に生かされていて、おおいに感動させられた。本当にカッコ良かった。
音もリアリティを感じさせ、とても良かった。ドリブルでバスケットボールが地面を叩く音が体に響く感じで、近くでバスケを見ている様に感じられた。音楽も、最後の10-FEETによる「第ゼロ感」の選曲も含めて、ロック感満載でとても良かった。
インター杯の試合に終始するスートーリーは、いたってシンプルだが、試合経過と共に、リョータも含めて、チームメンバーたちの過去が明らかになってくる展開は悪くないし、何より敵チーム、とりわけ強豪高山王工業高校の天才・沢北栄治の描き方に大人の知性を感じた。
2年でエースの沢北は神社で「高校バスケでやれることはやりました。もう俺に証明すべきことはありません。俺に必要な経験をください。もしあるのなら、それを俺にください」と祈る。負けてしまった試合後、彼は泣き崩れるが、敗北という必須の経験を得ることができたという、井上脚本の視点が素敵だ。その経験も生きたのか、NBAで彼は再び宮城リョータと対峙するラストのエピソード的映像が見事で、カッコ良い流れであった。
鮮烈と思った幾つかの名シーンもあった。主人公のリョータが沖縄に行き、亡くなった兄と過ごした秘密の基地に入って号泣した後、兄と対峙したあのグランドで吹っ切れた様にドリブル練習をするシーン。苦しい時には手のひらを見るという約束の中、マネジャー彩子がリョータの手のひらに書いた言葉が、“No.1ガード”というのもジーンときた。
そして、リョータはインターハイに向かう前に母に感謝の手紙を書く。海岸で、後姿の母がその手紙を海岸で読むロングショット的映像が美しい。そんな母が試合会場に来て柱の陰からゾーンプレスに苦しむ息子の姿に、行け!と声を出し、そこに彩子の声が重なり、リョータは2人がかりのプレスからドリブル突破を成功させる。ココは意図して泣かせに来ていることは十分に分かるが、それでも感動し涙が出てしまう見事な組み立てで、アニメは初めてであるはずだが、井上監督の力技に降参である。
全体的に、まるで格闘の様にも思える男っぽいハードなバスケ試合にほぼ焦点を絞って、そこに普遍的な若者の困難克服と成長、及び家族愛の要素を入れ、恋愛要素を排除したシンプルな構成にも、大いなる好感を覚えた。そして、初めから終わりまで突き抜けた、カッコ良さがとても気に入った。
監督井上雄彦、原作井上雄彦、脚本井上雄彦、演出宮原直樹、 大橋聡雄、 元田康弘、 菅沼芙実彦 、鎌谷悠、 北田勝彦、CGディレクター中沢大樹、キャラクターデザイン江原康之 、井上雄彦、作画監督江原康之 、井上雄彦、サブキャラクターデザイン番由紀子、キャラクターモデリングスーパーバイザー吉國圭、BG&プロップモデリングスーパーバイザー佐藤裕記
テクニカル&リギングスーパーバイザー西谷浩人、シニアアニメーションスーパーバイザー
松井一樹、テクニカルアニメーションスーパーバイザー牧野快、シミュレーションスーパーバイザー小川大祐、エフェクトスーパーバイザー松浦太郎、シニアライティングコンポジットスーパーバイザー木全俊明、ライティングコンポジットスーパーバイザー新井啓介 、鎌田匡晃、美術監督小倉一男、美術設定須江信人 、綱頭瑛子、色彩設計古性史織 、中野尚美、撮影監督中村俊介、編集瀧田隆一、音響演出笠松広司、録音名倉靖。音楽武部聡志 、TAKUMA
オープニング主題歌The Birthday、エンディング主題歌10-FEET。
キャスティングプロデューサー杉山好美、音楽プロデューサー小池隆太、2Dプロデューサー
毛利健太郎、CGプロデューサー小倉裕太、制作統括北崎広実 、氷見武士、アニメーションプロデューサー西川和宏、プロデューサー松井俊之、アニメーション制作東映アニメーション ダンデライオンアニメーションスタジオ。
今さらコメント失礼します。
(Blu-rayで再鑑賞して、レビュー見に来てしまいました。笑)
沢北は、自分が祈ったことが敗北に繋がったように感じたでしょうね。
そしてそれが、日本での自分の、そして先輩たちの高校最後の試合に泥を塗ることになってしまった。
原作でチーム内の関係性を知っていると、土下座するように頽れる沢北に胸がいっぱいになりました。
敗北が必要な経験であると理解しつつも、やはり悔しかったでしょうね…
Kazu Ann さん、コメントまでありがとうございます😊
私は最初、バスケってカゴに入れるだけでしょ?などと思ってましたが、無限のフォーメーションが現れるめちゃめちゃ難しいスポーツです。もちろん、どんなに練習してもシュートはなかなか入らないですからね。
最後の10巻(神奈川県予選〜インターハイ3回戦)だけでも読むと、また感動できると思います。また1巻から読むと、あの井上大先生も最初は絵が下手だったことを知ることができます。なんてね
宮城のイメージが今までと違いすぎたのと花道が主役でなかったことは、未だに残念ですが、「痺れる様なカッコ良い映画だった」という表現、まさに同感です。もし、次があるのならば、ぜひ、花道主役の映画を期待しています。
「バガボンド」がお好きなのであれば、ぜひ、マンガ版の「スラムダンク」も読んでみてくださいね。映画とはまた違った感動が得られることだと思います。