「勤勉を地で行く監督が描く“強欲”、その行き着く先は…」グリード ファストファッション帝国の真実 高橋直樹さんの映画レビュー(感想・評価)
勤勉を地で行く監督が描く“強欲”、その行き着く先は…
最初に感じたことは「ウィンターボトムは健在」だということ。
ある人物や現象(データ)から時代を照射し、抜群の音楽センスでセレクトした曲に乗せて短いカットを重ねていく。時制とフォーカスする人物は常に複数あり、PCのモニター越しの映像にも細心の注意が払われる。監督の勤勉な演出スタイルによって歪な現代社会が浮かび上がってくる。
パーティへの5日間のカウントダウン
ファストファッション企業のM&Aで荒稼ぎし「卿」の称号までも与えられた男リチャード(スティーブ・クーガン)。
パーティ開始へのカウントダウンには、彼の生涯をまとめる伝記作家の視点、まるでカードゲームの駆け引きのように値切ることに勝利の愉悦を求め続ける姿、会場設営の進行、審問会での振る舞い、公共ビーチにたどり着いた難民たち、娘が出演するリアリティショーなど、複数のファクターが巧みに配されていく。
彼はいかにして業界に足を踏み入れ、どのようにして巨万の富を手に入れたのか。罵声だらけのパーティ準備の行き着く先には、予想だにしないとんでもない結末が待ち受ける。
7対93の不均衡。
世界に7%しか存在しない超富裕層(スーパーリッチ)と、搾取され続ける残りの93%。
史実に沿わない『グラディエーター』を模したローマ帝国のはりぼて円形競技場。虚飾の会場に招くビッグスターだってお金で買える。でもそのギャラは、パキスタンのお針子さんの時給を削って得たお金だ。
世界に蔓延する社会の闇、刻一刻と進む格差。奴隷のような姿をさせられたパキスタン女性アマンダの涙は、93%の嘆きなのかも知れない。ラストで彼女が押すボタンは、時代に対する警報であり、強者とされる7%に対する警告なのだ。
余談
クリストファー・ノーランが『ダンケルク』撮影前に参考にした13本の映画の中に、1924年のサイレント作品『グリード』が入っていた。
純粋である故に残酷な一面を持つ巨躯の男が美しい女性を娶る。だが生活は困窮、いつしか金の亡者となった妻にも裏切られてしまう。やがて日銭すらもなくなった男は妻を襲い金を奪う。強盗となった男を妻を寝取った男が追う。2人が行き着いた先は灼熱の砂漠。
いくらお金があっても、命をつなぐ水がなければ人は生きていけない。すべては強欲が生んだ顛末なのか…。