劇場公開日 2021年8月27日

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「単純にノルウェーが悪いのか、というとそれも微妙なところ。」ホロコーストの罪人 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0単純にノルウェーが悪いのか、というとそれも微妙なところ。

2021年8月28日
PCから投稿

今年110本目(合計174本目)。
今日は4本視聴。その中で、ナチスドイツを扱った映画は2つ連続になります。

こちらは、あまり知られていない、ナチスドイツのいわゆるユダヤ人迫害に、一見すると無関係なノルウェーが関与して、結果的にノルウェーにいた(逃げていた)ユダヤ人が被害にあった、という実話をベースにするストーリー。

一見すると、じゃ単純に関与したノルウェーが悪いんですねということになりますが、それもまた微妙です。映画および実史通り、当時、ドイツとノルウェーは戦争状態で、ノルウェーはドイツに降伏したのです。そのため、ノルウェーの政府は事実上機能しなくなり、ただのドイツのいいなり政府と警察等しかいない状況になってしまったのです。
最後に語られる「ユダヤ人迫害はドイツによって行われたが、わが国(ノルウェー)も加担したと言われればその通りだ」と語っている点がそれを物語ります。
そのような事情があるため、単純に「ノルウェーが悪い悪い」と言うだけなら簡単ですが、そう簡単な状況ではないわけです。
しかも、ユダヤ人は当時多くの国に逃げていましたが、ノルウェーは人口比率に対して逃げてきたユダヤ人が少なかったため、結果的にほぼ全員が被害にあったという事情があり(他の国では助かった命もあった)、このことが事情を複雑にしています。

 確かにこの映画「それ自体」を観れば、迫害行為に加担したノルウェーが悪いというようには言えます。それ自体は確かにそうでしょうが、それだけだと何の意味もありません。当時のノルウェーはドイツに降伏した状態でまともな政府が存在せず(いわゆるドイツの言いなり政府だった。特に司法権に関してはドイツの言いなり)、そのような特異な状況でノルウェーの起こした出来事をことさらに取り上げてどうこういうのは簡単ですが、それもまた違うのではないか…というところです。

 ※ もちろん、高校世界史まで含めて、そのようなことは一切教えないし学習する機会も存在しない。

 上記に書いた通り、ノルウェーに逃げてきたユダヤ人はもともと少なかったのに、降伏したために被害が拡大したという複雑な事情があり、さらに、ノルウェーにとてはユダヤ人迫害問題はある意味「どうでも良い」話でしかないのに「ドイツの言いなり国家」化した降伏後は、「結果的に」迫害に加担してしまっているわけです。この「結果的に」という点がポイントで、ノルウェーはごく最近まで(2002年)無視を決め込んだものの、ユダヤ人問題は当時(現在、2021年も)解決していなかった(現在形でも、「していない」)という事情、さらにこのような告発もされるようになり、動かぬ証拠を叩きつけられた当時のノルウェー政府が正式に謝罪し、迫害されたユダヤ人の名誉回復と今後の再発防止等を約束したわけです。

 本映画はこの点が最大の論点で、この点をはずすと「ドイツ以外に最低な国があるよね」に「しかならず」、しかし、それは当然、映画が伝えたかったことではないはずです。
公式サイトなどでは詳しくこの辺書かれていますので、観る前に予習必須かなという感じです。

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 ※ 日本も似たような歴史があります。
 日本は第二次世界大戦に敗戦するとGHQがやってきて政権を握りました。
いわゆる、在日韓国人(朝鮮人)問題の原点と言える「阪神教育事件」(昭和23年)もその1つです。
この事件は、表向きこそ日本政府の指示、文部省(当時)の通達ですが、もとはといえば、GHQが「在日朝鮮人も日本の教育基本法、学校教育法の対象にさせる」と言い始め、政府に何も確認をとらずに(取らせてもくれない)、当時の政府もGHQに逆らえないので「じゃそうしましょう」とやってしまったのが、あの事件です。
ほか、日本も同じような、「占領下で起きたできごと」は、戦後の混乱期ではいくつもあります。
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 こういう映画が公開されること、それ自体に評価が高いし、かつ、特に評価点を下げる要素はないので、フルスコアにしています。

yukispica