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ホロコーストの罪人 : 特集

2021年8月16日更新

編集部が怒りに震えた実話映画 ホロコーストで家族
が引き裂かれる…政府が70年間無視した“理不尽な真実”

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ナチス・ドイツやホロコーストを描いた映画は毎年、数多く日本へやってくるが、本作ほど観ていて怒りに打ち震えた作品は他にない。8月27日から公開される「ホロコーストの罪人」は、知られざる実話を描いた衝撃作である。

第二次世界大戦の最中、ナチス・ドイツが侵攻するノルウェー。そこに住むユダヤ人は、同じく“脅かされる立場”のノルウェー人によって、強制収容所へ連行されていた――。

本作はキラキラした青春や、歓声が降り注ぐ痛快な勝利、札束が舞う大成功などとは無縁である。しかし私たちには知るべきことがある。人類の過ちを脳ではなく、体に刻み込む一作。観逃してはならない。

この特集記事では、本作の特徴や見どころを詳細に語っていく。次にどんな映画を観よう、そう悩んでいる人はぜひ一読し、作品選びの参考にしてもらいたい。


【予告編】ノルウェー最大の罪――ナチス侵攻の裏で起きた知られざる実話

[あらすじ]第二次世界大戦中、ノルウェー 幸福なユダヤ人一家はノルウェー人によって強制収容所へ…

第二次世界大戦中、ユダヤ人一家のブラウデ家は、ボクサーの息子チャールズが非ユダヤ人女性のラグンヒルと結婚するなど、幸せな日々を送っていた。しかし、ナチス・ドイツがノルウェーに侵攻すると状況は一変。ユダヤ人は身分証明書に「J」のスタンプ(ユダヤ人の印)を押されたうえに、チャールズら男性はベルグ収容所へと連行され、厳しい監視のもと強制労働を強いられた。

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一方、取り残された母とチャールズの妻は、夫や息子たちの帰りを待ちながらも、資産を接収されるなど徐々に圧力を強める政府に身の危険を感じ、スウェーデンへの逃亡も準備していた。1942年11月。ノルウェー秘密国家警察クヌート・ロッドの指揮のもと、警官とタクシー運転手らによって、ノルウェーに住むユダヤ人全員がオスロ港へと強制移送された。何も知らずに港に連れてこられた人々の前に待ち構えていたのは、アウシュヴィッツへと向かう船“ドナウ号”だった――。

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●衝撃の実話 ノルウェー政府はこの事実を70年にわたり無視し続けた

マルテ・ミシュレによるノンフィクションを実写化。平凡なユダヤ人一家の悲劇的な運命を描く、知られざる衝撃の実話である。

特筆すべきは、ノルウェーに住むユダヤ人を、ノルウェー警察・市民らがナチスへ差し出していたという点だ。さらに驚くべきことに、この事実をノルウェー政府はもちろん把握していたが、長らく公の場で言及することはなかった。

2012年1月、当時のノルウェー・ストルテンベルグ首相は、ホロコーストにノルウェー警察や市民らが関与していたことを認め、政府として初めて公式に謝罪を表明。ドナウ号が出港してから、およそ70年の月日が流れていた。

これらの事実に、あなたは何を感じるだろうか。

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●人間が人間にすることか? 怒りに震え、歴史観が変わる覚悟の渾身作

さて、ここからは「実際に鑑賞した感想」を短めに記していこう。結論から述べれば、本作の映画体験は、観れば激しい怒りがこみ上げ、やがてどこまでも重要な教訓がその胸に宿っていくように感じられた。

物語は幸福なブラウデ家の姿から始まる。日常は満ち足りており、愛する人とともに過ごすひとときは、掛け値なしに輝いている。しかし1940年4月、寝静まる街に突如、不穏な警報音が鳴り響く。ラジオはドイツ軍のノルウェー上陸を告げた。来るはずがない。そう思っていた戦火は、気づけば自分たちのつま先をチリチリと焼いていたのだった。

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そこからは急転直下。あっという間に主人公チャールズらはノルウェー秘密国家警察に逮捕(罪状も告げられずに!)され、ベルグ収容所へと連行されるのだ。

そこでは布団もない木の板の上に寝ることを強いられ、当然のように食事は満足に与えられない。まるで奴隷のような重労働が待っており、銃で脅され、暴力で強制されながら泥の上を這いずり回る。これらすべて、なぜここに自分たちが連れてこられたのか、なぜノルウェー人がこんな仕打ちをするのか、一切の理由は知らされない。

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理由を知らされない。それがどれだけ理不尽なことか。どれだけ苦しみを与えることになるのか。一体これは、人間が、人間にすることなのか。まして、数日前まで挨拶を交わしていた“隣人”に対して。

本作はこうした不条理に特別な焦点をあてるため、スクリーンからにじみ出る当時の人々の怨嗟が、観る者の肌を切りつけていく。観るうちに激しい感情が胸いっぱいに広がり、他の作品とは比べられないほどの怒りがこみ上げてくる。

圧巻はラストシーン。意外とも思える音の演出は、あなたの歴史観を変えるほどの衝撃に満ち満ちている。

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●我々にも他人事ではない…描かれるのは人間の本質“自分も加害者になり得る”

怒りのままにスクリーンを凝視していると、ある男にはたと目が止まる。ノルウェー秘密国家警察の副本部長クヌート・ロッドだ。彼は上から命じられ、いかに効率よく多くのユダヤ人を逮捕し、いかにコストを抑えてアウシュヴィッツ強制収容所へ輸送するかを考案し、実行したその人である。

これを読むあなたは、ロッドは生まれながらの悪人だったに違いない、と思うだろうか。しかし実際はその逆だ。彼はどちらかというと普通の男だった。凡庸で小心者で、際立った差別的な思想は持ち合わせておらず、重要なことは“与えられた職務を真面目にこなすこと”だと考えていた。

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そんな人間が、まるで書類に判子を押すくらいの重みで、残虐な決断を下したのである。これは何も特別なことではない。人間の本質とも言える心理のメカニズム(詳細を知りたければ「ミルグラム実験」と検索するといい)であり、言い換えれば、私もあなたも加害者になり得るということでもある。

本作はかつて遠い国で起きた出来事を描くのではない。今この場でも、自分自身や家族が加害者にも被害者にもなり得るという“事実”を示している。

一方で本作が優れているのは、誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられることをなくすには、どうしたらよいかのヒントも描かれている点だ。スクリーンで躍動する人間たちの崇高な精神に触れた瞬間、人生における重要なメッセージが私たち観客の全身を駆け巡るのだ。

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●主演、監督は綺羅星の如き実力派 海外メディアの称賛もやまず

最後に、迫真の演技で物語に得も言われぬオーラを付与した主演俳優と、卓抜した手腕と慧眼とも言える視点で作品を編み上げた監督に言及し、特集を締めくくろう。

主演は「獣は月夜に夢を見る」「トム・オブ・フィンランド」のヤーコブ・オフテブロ。主人公チャールズの絶頂とどん底、幸福と絶望をその身で体現。最悪な状況下でも一握りの希望を見出し、家族とともに支え合う様子を技術ではなく心で演じている。白眉は、収容所である看守から“お遊び”のボクシングを申し込まれるシーン。チャールズの激しい怒り、すさまじいエネルギーの爆発が目に焼き付く。

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そして監督は、日本のアニメに憧れる少女を描いた「HARAJUKU」で知られるエイリーク・スベンソン。自国ノルウェーの“恥部”を暴くこの原作を映画化することには賛否の声もあったが、今我々が生きる世界との類似点を見出し、「自分がこの作品を映像化しないのであれば、映画そのものを作り続ける意味はない」と強い信念で臨んだ。本作は2020年のクリスマスに公開され、興行収入1位の大ヒットを記録。海外メディアも「非常に良く出来ていて、胸が張り裂けそうになる」「よりたくさんの人が観るべき」などと賛辞を惜しまなかった。

冒頭にも記したが、本作はキラキラした青春や、大歓声が降り注ぐ痛快な勝利、札束が舞う大成功などとは無縁の映画だ。しかし、知るべきことを教えてくれる重要な一作である。観逃してはならない。

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