「タイトルなし」竜とそばかすの姫 farさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし
既に多数のレビューが上がっているが、まぁ何かと批判も多い作品。
他のレビューでよく槍玉に挙がっているポイントを整理しつつ、個人的な見解や感想を述べてみる。
“→”以降の文章が、個人的な見解です。
・Uの世界観が雑でゆるい。
→ そもそもそこはあまり重要ではない。決してリアリティを追求した作品ではないと思う。
・主人公の初の大規模ライブに乱入してきた竜に、なぜそんなにも興味を持つのか?
→ 運命的な出会いって、そういうものなんじゃないのかな。理屈ではないと思う。
・マントについてる模様のようなもののことを『痣』と呼ぶことについて。
→ たしかにこの点は、自分も当初「??」となった。アレを初見で痣と認識する人がどれだけいるのだろうか…。
・いくら虐待を受けている児童を助けるためとはいえ、見知らぬ都会、それも暴力的な大人の男性もいるとわかっている所へ女子高生ひとりで行かせるだろうか?周りにいる大人が一緒に付き添うべきだったのでは?もっといえば、あの場面で忍くんが主人公を護るべく一緒に行くと言い出さなかったのは不自然では?
→ 周りの大人たちが、主人公ひとりで行かせたことについては、田舎特有のおおらかさと考えられなくもないと思う…似たような田舎出身者としては。
一方で、忍くんが付き添わなかったことについては、それまでの彼の振る舞いからすれば、やはり不自然に感じた。が、おそらく作品として主人公がひとりで立ち向かわなければ、自力で母の死のトラウマを乗り越える展開をキレイに描けないという判断があったのではないかと思う。
・DV父親が主人公と対峙したとき。主人公の気迫に押されて、大人がへたり込むか?
→ いくらDV男とはいえ、流石に女の子相手に殴れなかった。そこまでクズではなかったという解釈は十分成り立つ。
・急に主人公や竜が『好き』とか言う。そこまで親密な関係構築してた?また、忍くんのことは?
→ おそらく主人公が言った『好き』は、母親が自分の子にかける言葉のような意味ではないだろうか。そして、恵くんが言った『好き』もまた、子供が母親に向けて使う言葉だったのでは。
・忍くんは、結局大したことは何もしていないんじゃ?
→ そのとおり!
さて、何だかんだ言ってもツッコミどころはやはり多い。特に後半、話が重くなってくるに従って、ツッコミどころも増えてくるから厄介だ。
児童虐待というデリケートな問題を扱う以上、そこはもっと丁寧に描くべきだったとは思う。
しかし、それと同時にこの作品が、誰に向けて作られたものなのかを考える必要があるだろう。
「虐待を受けている子供が『たたかう』なんて言わなくていいんだよ!」といった意見を見かけるが、そもそもこの作品は被虐待児童へ向けられたものではないように思う。
では、誰に向けたものなのか?
それはもちろん虐待を受けている児童以外。即ちこの作品を観た我々である。
虐待を受けているような児童は、映画鑑賞などといった娯楽に触れる機会を与えてはもらえないケースが多くを占めるだろう。この作品に込められたメッセージを受け取る機会が無いのだ。
だからこそ我々が、主人公よろしく被虐待児童に手を差し伸べる行動力を持たねばなるまい。見て見ぬ振りでは、救える命も救えないのだ。
批判も多い作品だけど、細田監督が伝えたかったことって──ネットやSNSはあくまで手段やツールであって、目的ではない。一方で世の問題の多くは、現実世界でこそ起きている。そして、それらから逃げることはできない。問題を後から批判することは誰でも簡単にできるけど、その前に出来ることを一人ひとりが始めようよ──みたいなことなんじゃないかなぁ?