「エンターテイメント作品として良作」竜とそばかすの姫 F.S.通信さんの映画レビュー(感想・評価)
エンターテイメント作品として良作
この作品を見た後にTwitterや映画レビューサイトを覗いてみたら意外と評価が低いことに驚いた。サマーウォーズほどではないにしろ、アクションあり、笑いあり、涙ありの良質なエンターテイメント映画だと思ったのだが・・・
各評価を斜め読みしてみると、この映画が批判される代表的な要素として「シナリオの不自然さ」があるようである。たしかにキャラクターのセリフがやたらと説明口調だったり、少々ご都合主義的な展開がみられるなど私自身上映中違和感を感じる瞬間はあった。しかし、その大半が映画全体の流れに支障をきたすことはないような些細なものである。見知らぬ子供を救って亡くなったすずの母がネット上で批判を浴びているのも、母の真意がわからなかった当時のすずの目には母を否定する文言しか目に入らなかったと解釈すれば腑に落ちるし、あの2人を虐待をする父親がすずを前に恐れをなして逃げるシーンもすずのあの凛とした目を見ればなんの違和感も感じることはない。合唱団の5人がすずに執拗に歌うことを迫っているのもすずに過去の呪縛から解放されて欲しいと願ってのことだと想像するのもそれほで難しいことではないだろう。それらがあるからといって、素顔を見せて歌うすずの美しさが霞むことはないのである。こういったことにいちいち口出しをしてヒステリーまがいのレビューを書くような人物は映画というもの、ひいては物語というものを楽しむことができているのかとかえって心配になる。物語の中では空が下で海が上にあったっていいし、幼稚園に子熊が転校してきたっていい。違和感も踏まえてその話の世界観に没入することこそが物語の醍醐味ではないだろうか。例えば、2001年宇宙の旅を観てモノリスは非科学的でリアリティに欠けるなどという人がその映画を十分に理解しているとは言い難いだろう。実際私は細田監督の前作があまり気に入らなかったこともあって不安を抱えながらこの作品を観たが、映画としてのクオリティの高さに素直に感動した。もちろんこの作品が完璧だとは言わない。しかし、この作品で光る細田監督のセンスの高さを感じ取って、「面白かった」と言うくらいの素直さくらいは持っていてもいいのではないだろうか。