スランプに陥っていた作家のアンドレイは孤児のクスーシャと出会ったことで心機一転、創作活動に身が入り始める。公私共に軌道に乗り始める吉兆と感じた彼は現妻と相談し彼女を養子として迎え入れる覚悟を決めるのだった。
クスーシャは養父母との関係は良好であったが、自身の境遇を学校でからかわれることがしばしばあり、ちょっとした問題を積み重ねていた。お試し期間が佳境に差し掛かったある日、その問題が暴力事件によって表面化。孤児院の長であるイレーナがここぞとばかりに介入してくる。
イレーナという女性はアンドレイの幼馴染でもあり、彼の思わせぶりな言動もあって勝手に想いを募らせいつも独り虚しく疼くカラダを慰めていた。クスーシャという存在は唯一アンドレイと自身を結ぶ格好の材料となっている様だ。
その関係に気付いたアンドレイの妻はある日プッツン激おこ。大嵐の夜にも関わらずクスーシャを連れ出し車でハイウェイを爆走、案の定交通事故を起こしてしまう。彼女は意識不明の重体に陥り、クスーシャは独り闇の世界へと迷い込んでいく...
孤児であり余所者でもある娘クスーシャが抱える闇を、養父アンドレイが書いた小説の世界に投影しての冒険譚で、その中で紡がれていく父と娘の「タイム・ガーディアンズ」の親子の絆が主題。...と、割とシンプルなお話ではあるのだが・・・。
交通事故を起点とし現実と虚構を曖昧化させる意図は、表向きクスーシャの冒険であると魅せた狙いは、彼女の抱える闇及び孤独の体現として誘われた世界を、アンドレイがクスーシャと出会えたことで創造できた小説の世界へと徐々に結びつけていくことにあるはず。
しかしクスーシャの冒険の導入としての事故、その発端となった妻の疑心暗鬼及び夫婦間の不和における問題のウェイトをアンドレイに置きすぎていることで、彼の世界が当初よりクスーシャの世界へと悪い方向に浸蝕してしまっており、その絶対的な物語の軸が機能していないのは大問題。
また案内人パラモンとの旅路はクスーシャがアンドレイと歩いたサンクトペテルブルクの街並みの記憶が源泉となっているはずなのだが、アンドレイがクスーシャの冒険の同伴者としてではなく創造主としてその世界に干渉してしまうために2人の繋がりが切り離されてしまっている。
そのため物語を牽引してくれるクスーシャを導いてくれるパラモンという存在が完全なる虚構の産物と化してしまい、その世界における体験が現実へと還って行かない。故にミスリードも意味を為していない。
その一方でアンドレイとクスーシャ2人の間に立ち塞がる障壁としての魔女、クスーシャがいた孤児院の長であり、アンドレイの幼馴染なのか元カノなのか不倫相手のイレーナを、虚構から現実に干渉を受ける存在として描いているのが致命的。
アンドレイとクスーシャの出会いのきっかけとなりその後も仲介役として機能しているイレーナを2つの世界を結びつける存在として位置付けてしまっては、彼女こそが2人を繋ぐ絶対的な存在として君臨してしまい、ハッピーエンドとは程遠い最悪な結末が前面に広がることこの上ない。
クスーシャの冒険譚であると極力絞って観れば中々に面白いが、それぞれのキャラに与えるべき与えられるべき役割とその機能がチグハグでお話全体としてはハチャメチャだ。
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