劇場公開日 2021年5月28日

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「普通の人だった。私と同じ。どこにでもいる、普通のお母さんだった。」明日の食卓 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5普通の人だった。私と同じ。どこにでもいる、普通のお母さんだった。

2021年6月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

三人の"石橋ゆう"と、それぞれの母親。その三組の母子のごくありふれた日常。十人十色と言わんばかりに、三組三様の家族環境。子への接し方も様々。でも、子を思う母の気持ちは一様に愛にあふれている。痛いほど、その子のために生きている母親。三人の演技がそれぞれいい。尾野真千子は「茜色に焼かれて」とは違った母親を見事に演じていた。菅野美穂の苛立ちはまるで自分にも心当たりのあるものだった。特に高畑充希が追いかけて抱きしめた時、こっちまでぎゅっと抱きしめられた気分だった。そんな、あふれんばかりの愛がありながらも、当たり前だと思ってた日常がささいなことから転げ落ちていこうとする怖さ。それがどこにでもありそうで、自分にもありそうで、それゆえ感じる背筋の寒さ。
予告でいう「息子を殺したのは私ですか?」にはオチがある。(映画ニュースなどは目にすると、見当がついてしまうので見ないほうがいい。)その言葉が気になって、観賞中、それは誰だ?、という犯人捜しの目線になってしまうのは、良し悪し。ミステリーとして見たければ良し、三人を思いやりたい気持ちで応援したいなら悪し。

時間に追われる。
貧乏から抜け出せない。
周りを気にしておろおろする。・・・
精神的に追い詰められ、そのことで忘れてしまう、一番大事なもの。
子を持つ親なら、ああこれあの時の私だ、あああれはあの時の俺だ、という疼きが必ずある。あって当たり前。もし全然ないというのなら、それはそうとう稀な幸せな家族なのか、そうそうお気楽な危機察知能力の欠けた家族だろう。

そうか瀬々監督か。監督の撮る作品は多彩だけど、中でも社会派がいい。「楽園」「64」「友罪」、特に「悪党」がひりひりしてたまらないなあ。

栗太郎