「孤独だがひとりではないことの大切さ」オールド・ジョイ redirさんの映画レビュー(感想・評価)
孤独だがひとりではないことの大切さ
ケリーライカート監督の、空が好きだ
音楽はOther Musicに出てきたYo La Tango
ざらっとした街の風景も山もよい。
都会も山も同じ。都会に木を植え山にゴミを持ち込む。
悲しみは使い古した悦び。
政府は繁栄と言わず回復という言葉を使う。
互いに距離感をそれぞれに感じ、お互いに友情というかつてあった古い感情と、自分たちの現実に基づくストレスを感じながら、車で目的の温泉をさがす。
仕事もあり、地域貢献として、妻と生まれてくる子どももいる男マークと、ソレらを何も持たないが束縛されることを嫌う男カートの、たがいにそれぞれフラストレーションがあるなか、秘湯を探して小さな、二日間の旅に出る。
なかなか見つからない目的の温泉
広い山、森の中の、ゴミが投棄されたところにキャンプし夜をあかす。自分の世界観宇宙観物理を直感的に語るカート。危うい毎日をサバイブしているようだが、カートは、マークの車で行こうと言えるし、外に寝るのは慣れてて大丈夫なんだけど君のテントで寝てもいいかな、と言える。マークにリーチアウトすることができる。孤独だがひとりぼっちではない。カートは何も持たない自由があるが何も持たない社会的地位がないことでストレスと大きな不安、物理的な困窮を抱えている。
マークは問題ない人生を送っている、優しい、温厚な男だが夫、父親、コミュニティリーダーをやることに満足感責任感とともにストレスも感じているようだ。
16歳の頃の大昔のようだ、と言う。16歳の頃に戻ることはできない、2人の距離がはなれてしまっている。マークは温泉でカートにマッサージをされ、大きく戸惑いながらも、やがて癒される。ここがターニングポイント、というか、とても微妙で良いシーン。山の中の静寂、水の音、無心の2人の表情。
カートがマークのストレスをわずかに癒し父親になる勇気を与えただろうか、またカートが自分のかすかな存在を魂を込めて確かめるような、ぎりぎり、どきどきするシーンだった。マークはパートナーも居てやがて父親になる、共同体でもポジションがある、社会に居場所があるが孤独だ。
電話をかけ人に会いリーチアウトする。なけなしの小銭を乞われるままに渡す。
彼は自分であり自分は彼である。
人は自分であり他者である。
そんなことを考えた。
仲良しでもない理解しあってもないし親友でもない、みんなひとりぼっち、友情とかなんとかそんなの糞食らえだと思うけどリーチアウトできるということはとても大切。
分離恐怖症。犬のルーシーのことではなくみんなそうだと思う。ルーシーが旅の間ずっとカートに寄り添うのも良い。
冒頭のマークの妻のイライラも、真実をついていて女性は共感すると思う。
とてもよい作品。