劇場公開日 2021年8月20日

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「力作だが、役所広司と真木よう子の担った「象徴」の穴は埋めがたい」孤狼の血 LEVEL2 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0力作だが、役所広司と真木よう子の担った「象徴」の穴は埋めがたい

2021年8月28日
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「極道を法律でおさえつけたところでなんも変わりゃせんわい。奴らを生かさず、殺さず、飼い殺しにしとくんが、わしらの仕事じゃろが」という大上(役所広司)の遺志となる正義を受け継いだ日岡(松阪桃李)。四角四面だった“広大”は、風貌から評判から言葉遣いに至るまで、すっかり不良刑事となって暗躍し、抗争するヤクザを手打ちに持ち込み、それぞれに甘い汁を吸わせながら、大上の死後3年にわたって、危うい均衡を保っていた。そこに、前作で一ノ瀬(江口洋介)に首を取られた五十子(石橋蓮司)の申し子である上林(鈴木亮平)が服役を終え娑婆に戻ってくる。

金という蜜と引き換えに、暴力による支配をアホらしく見せた日岡の策略だったが、上林はあくまで暴力支配によって全てを手に入れる、ある意味でヤクザとしての原点的で強力な行動原理を持つ。たった一人の突き抜けた狂人の登場によって、日岡の慢心と、所詮はヤクザの浅慮さと、権力抗争に明け暮れる警察組織の腹黒さが徐々に首をもたげ、日岡が作り上げてきた危うい均衡は綻びを見せ始める。

狂気の上林を演じきった鈴木亮平は怪演と評するに相応しい。恵まれた体躯、笑ってない笑顔、いきなり沸点に達する怒り、唐突に行動に移す無謀さなど、「怖い」以外の形容詞が見当たらない。ほか、日岡に牙を抜かれた吉田鋼太郎、宇梶剛士、寺島進の古参ヤクザの面々、在日コリアンとして翻弄される村上虹郎、微塵も反省していない滝藤賢一、ほぼサービスショット要員の筧美和子もいい。後半に二転三転するストーリー展開も娯楽要素満載で面白い。

ただ、惜しむらくは、全編を通じて、暴力支配に傾かざるを得ない上林の抱える「個人の生い立ち」を底糸にしてしまったため、「正義とは何か」を問うた前作のような奥行きがなくなってしまった。歪な正義の役所広司や、彼が歪なりに守ろうとした真木よう子といった象徴性が薄くなってしまったところが悔やまれる。上林や近田姉弟を追いやった貧困や差別などを主題化し深掘っていったら、あるいは違った展開になったかもしれない。ラストもやや唐突で凡庸。

えすけん