「栞」浜の朝日の嘘つきどもと ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
栞
ドラマ版の前日譚ですが、ドラマは未視聴です。高畑充希さん主演の作品としては超小規模だなと思いつつも鑑賞。
閉館寸前の映画館をとある女性が救う為に奔放する物語です。初っ端から高畑さん演じる浜野あさひ改め茂木莉子が柳家喬太郎さん演じる森田保造がフィルムを燃やすのを全力で阻止するところから場面が始まります。ここがとっても笑える場面で、茂木莉子が楯突いていくので、それに対抗する森田が圧倒的に押されていく展開がずっと面白いです。
そこから不動産に行ったり、ビラを配ったり、クラファンをしたりと、悪態つきながらも誠心誠意働く彼女の原動力は恩師の願いでした。あさひの高校生時代に描写が移り、東日本大震災の影響で人助けに奔走してしまったが故に父親のせいで、友人関係が崩壊してしまったあさひの心境を支えてくれたのが大久保さん演じる田中先生でした。生徒に寄り添ってくれる人かと思いきや、割と厳しめのことを言う先生で、良いことばかり言う大人は信用できないでしょと、真っ当なことを言っているあたり、人生経験豊富でとっても教養のある人だなという印象がつきました。
そんな先生の元へ家出したあさひがやってきて、一夏の生活を過ごす描写が擬似家族でありながら、本物の親と娘のようで微笑ましかったです。途中から彼氏のバオくんがやってきた後も楽しい時間が過ぎますが、その中で外国人留学生の闇をさらっと重く描くので侮れません。
ただあさひの母親が田中先生を未成年誘拐容疑をかけて、あさひは実親の元へ戻ることに。母親は一切登場しないのですが、弟にだけ気にかけたり、ノイローゼになったりと、震災が生み出した毒親という感じあり、良い意味でとても不快でした。ただ田中先生、とってもとっても優しいことに、あさひが渡した生活費諸々を増やして、学費の足し、そしておまけに映画代を渡すという聖人な行動をしてくれます。厳しいことを言いながらも、心の底から優しい人で、現実の大久保さんととってもリンクしていて素敵でした。男にだらしない場面も笑
そんな先生が乳がんで余命宣告され、虫の息になった時に、バオくんが心からの好きを伝えて「ヤッときゃ良かった」と遺言を残して死ぬシーン。不謹慎ながらとっても笑ってしまいました。「ザ・スーサイド・スクワッド」の爽快な死の笑いとはまた違い、言葉で笑わせてくるあたり、とっても悲劇的なのにとっても喜劇的に仕上がっているのはさすがだなと思いました。
結局クラファンは集まらず、映画館は解体となり、2人とも諦めてご飯を食べに行こうとしますが、住人だったり、バオくんだったり、あさひの実親がお金を出資して助けたりと、なんやかんやで映画館は存続することになりました。正直、ここでたくさん人が集まって、なんとかなるという流れは微妙でした。バッドエンドはバッドエンドでも、前に向けるバッドエンドだったので、ここでハッピーエンドにするにはお門違いかなと思ってしまいました。あとコロナ禍を交えてはいるのですが、登場人物全員マスクをつけてないので、現実と空想がリンクしてないなと思ってしまいました。
とはいえ、役者陣の演技は素晴らしく、高畑さんの闇と光の演技(高校生時代を演じた高畑さんかわいすぎました。)の振り幅、大久保さんの身から飛び出るほどの優しさ、柳家さんの飄々とした喋り、演技についての文句は1ミリも御座いません。
映画にハマったきっかけを少しだけ思い出させてくれた作品でした。サブスクも楽しいですが、まだまだ映画館を愛し続けようと思います。
鑑賞日 9/10
鑑賞時間 16:30〜18:35
座席 G-4