劇場公開日 2021年8月20日

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「名作になるには上映時間が長すぎる、残念。」ドライブ・マイ・カー Naoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5名作になるには上映時間が長すぎる、残念。

2021年8月23日
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鑑賞方法:映画館

知的

先日、カンヌ映画祭脚本賞の村上春樹原作「ドライブ・マイ・カー」をTOHOシネマズ日本橋で鑑賞。カンヌの受賞作は大概あてにならないが、本作品は、観ている間よりも、観終わってしばらくたってから、じんわりと味が出る映画であり、時間が経ってからの方が評価が高くなってきた印象。
瀬戸内海の橋を車で渡る場面を上空から俯瞰して撮るカメラワークなど、日本映画離れしたような映像表現があり、前評判の高いのもわかるのだが、何せ、上映時間3時間は長すぎる。ストーリー、俳優の演技、流麗なカメラワークなど、いくつか見どころはあるので、眠くはならないのだが。
時代や場面が大きく移り変わるような、「戦争と平和」「風と共に去りぬ」「アラビアのロレンス」などスケールの大きい大河ドラマならともかく、地域の演劇祭を舞台にしたこじんまりした物語にしては長すぎるので、感興が途切れてときどき時計を見てしまう羽目に陥るのが残念。村上春樹の原作は元々短編(集)でもあるし、2時間弱くらいに編集で刈り込むような表現力が欲しい。ところどころ、いい場面があるので珠玉の作品になるポテンシャルはあると思うが。
さて、本編は村上春樹の短編集「女のいない男たち」の中の一篇、「ドライブ・マイ・カー」を中核に、「シェエラザード」「木野」のエッセンスをブレンドした映画化作品だが、村上春樹の醸し出す雰囲気を微妙ながら映像化できているように見えつつ、根っこには、彼の文章の行間にあるような、渇いた、というか、登場人物の間の独特な距離感とは異なる空気が漂っていて、もしかしたら村上氏自身は自分の作品とはちょっと違うと感じるのではないか。あと、「Wの悲劇」の映画化のように作中劇の形式をとっており、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」がカギとなっている。もしかしたら、村上春樹原作より、むしろこちらを読んでおいた方がいいかもしれない。役者では、主演の西島秀俊は好演。三浦透子は、台詞回しの棒読み調が気になる(監督の演出かもしれない)が、十分健闘していたと思う。残念なのは、主人公の妻役で、この役は村上春樹原作によく出てくる、特徴のある女性のタイプであり、演じるにはある意味、すべてを曝け出す覚悟がいる、演じ甲斐のある役のはずだが、残念ながらこの映画では、覚悟が足りない気がして(監督の演出の所為かもしれないが)、本作が村上春樹原作の映像化作品として、物足りない点の一つだと思う。この女優さんは、「ノルウェイの森」の映画化でも、ストーリーのカギであり、重要な役であるレイコを演じていたが、これも爪痕を残すには至っていなかった。もったいないなあ、とおもう。
それ以外にも、岡田将生の演じた青年のストーリー上の処理の仕方や、賛否両論(?)のラストなど、私の好みでないところもあって、星4つにはちょっと及ばず、星3.5か。ところどころ、邦画というより、ポーランドの亡き名匠、キェシロフスキの映画を思わせるようなタッチなど、卓越したところもいくつかあるだけに、惜しい。「パラサイト」のボン・ジュノのような演出力、編集力があれば。。。

naochan926