劇場公開日 2020年10月9日

「大統領選目前のアメリカへのソーキンの檄文」シカゴ7裁判 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0大統領選目前のアメリカへのソーキンの檄文

2021年4月16日
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鑑賞方法:VOD

 60年代後半に実際に行われた、いわば国による濡れ衣裁判の理不尽さと恐ろしさを描いた映画。
 冒頭の状況説明シークエンスのテンポがとても早く、主要な登場人物8人が矢継ぎ早に出揃うので、実話の詳細を知らないとちょっと焦るかも知れない。起訴理由となった暴動の起こった日に彼らが取っていた行動は、裁判が始まった後の回想シーンで徐々に明らかになる。

 とにかく理不尽な裁判だ。作中特にインパクトがあるのは、ホフマン判事の権力を笠に着た、横暴を極めた言動だ。被告達を見下し切って、黒人には奴隷制度を彷彿とさせるような扱いを平気で行う、岩のように動かぬ偏見を持つ人間。こんな頭のおかしい人間が何故よりによって判事などやっているのかと思ってしまう。
 理不尽な裁判を表象するキャラクターとして描く監督の意図や、フランク・ランジェラの演技も奏功しているのだろうが、壁のような威圧感とふてぶてしさに苛立ちを感じずにはいられなかった。

 ソーキン監督の創作エピソードもそこそこ入っている作品だが、ボビー・シールが法廷で拘束され猿轡を咬まされる異様なシーンは事実通りだ。映画では弁護士達の申し立てにより審理無効となり、すぐに拘束を解かれたように見えたが、実話のほうがひどくて3日間猿轡のままだったというから驚きだ。
 クンスラー達が「息は出来るか?」と気遣うシーンに、ごく最近のアメリカでの事件がフラッシュバックする。撮影時期から見て、ジョージ・フロイドの事件とは無関係だろう。だが、アメリカの黒人差別の根深い歴史の中で、似たような場面が長く繰り返されていて、それが今も続いていることに改めて気付かされる。

 権力の横暴と人種差別。50年前の裁判が抱えていた問題点を描く作品を2020年大統領選の直前に叩きつけることで、ソーキンは半世紀前と同じ課題を今も解決出来ないでいるアメリカ社会を一喝し、強く訴えている。
 4年に1度与えられる、平和的に政府を覆す憲法上の権利を今こそ行使し、革命を起こす時だと。

ニコ