「ユー・ニード・ア・フレンド!」アイの歌声を聴かせて ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
ユー・ニード・ア・フレンド!
確か去年にこの作品のビジュアルが公開され、絵柄がとっても好みだったので楽しみに待っていました。予告から土屋太鳳さんの圧倒的歌唱力に魅せられ、試写会の感想も高評価と、期待値MAXでいざ鑑賞。
率直な感想として、幸せになっちゃいました。1年近く待ちわびた心が満たされました。
まず序盤のAIの思考回路を映すCGの映像の没入観が凄まじかったです。普通の劇場で観たんですが、IMAXに来たのかな?と思うくらい見入ってしまい、J.C.STAFFの本気をいきなりドカンと感じました。
今作の凄いところはミュージカルという突然物語をガラッと変える演出を自然にやっているところです。ポンコツAIという設定、特に"ポンコツ"がここまで活きる演出はすごいなと思いました。突然歌い出すことにも信憑性がありますし、そのミュージカルもとてもハイクオリティで、歌と一緒に楽器を弾いたり、スピーカーで音楽を鳴らしたり、照明をつけたりするのもAIと機械がシンクロしているというのも素晴らしいアイデアです。土屋太鳳さんの美しい歌声も合わさって、ミュージカルシーンはずっと鳥肌が立っていました。ポンコツだからこそまっすぐな性格も強調されていてすぐに好きになる理想のキャラクターです。実写ではありますが、「ヲタクに恋は難しい」みたいに適当なミュージカルをすると変に冷めますし、面白みが薄れます。日本でミュージカルをするというのはなかなか鬼門に思えていましたが、その壁を堂々と乗り越えていきました。練られた脚本と美しいアニメーションにまず拍手喝采です。
先に述べたキャラクターそれぞれの個性が喧嘩していないのも良いです。とある事情で告げ口女と呼ばれ孤立しているサトミ、機械いじりが得意でサトミと幼馴染であるトウマ、サバサバしているけれど彼氏のことを真っ直ぐに愛しているアヤ、なんでも80点と自己評価の低いイケメンなゴッちゃん、柔道部員だけど本番の試合にとても弱いサンダーと、高校生活の中でいそうな人物を忠実に描いており、そこにシオンが混じることで5人の抱えている悩みを解決へと導いていくストーリーの本筋も素敵です。
アヤとゴッちゃんは喧嘩しているカップルで、ゴッちゃんはアヤに自慢のおもちゃにされていると勘違いしていますし、アヤは一途に好きなのに理解されていないと思い込んでしまっていてすれ違っている2人。それをシオンが掻き乱していき、2人の繋がりを強めていく流れも自然でとても良いです。シオンがキスで相手の心を理解しようとして、ゴッちゃんが全力で口を逸らしているのもまた愛らしいです。
サンダーの本番の弱さを克服するために、シオンがプログラムをコピーし、サンダーとの練習に付き合うシーンも魅力的です。ここもミュージカル、しかも踊り多めの場面を柔道とマッチさせていてとても良かったです。背負い投げなどの技や、柔道着でのステップも違和感なくミュージカルに落とし込んでおり、シオンが女の子であることにドキドキするサンダーの気持ちも分かるよウンウンと楽しいシーンでした。
サトミとトウマの少しだけ気まずい関係。過去に元あったAI機器を改造したものがサトミの母に見つかり、突き戻されたことにより気まずくなっていましたが、トウマも目線で追っているなど青春やなーとニヤニヤすること不可避でした。トウマがシオンを理解していき、命令という項目ではなく、友達として接する姿をサトミも学んで接する態度も変化していくのも可愛げがあって良かったです。シオンが人間関係を良好なものにしていきつつ、サトミを幸せにするという大きな目標を成長過程と並べているのも描き方としておもしろいです。
一応今作の悪役の副社長も嫌味の言い方が良い意味でウザく、こういう人いるんだろうなーと思うナイスな人物配置でした。サトミの母親も優しい人で、家を出る前に娘とおまじないをするのも愛らしいなーと思いました。
サトミに本心を伝えるためにトウマたちがシオンと協力して、サトミの好きなアニメの曲をコピーし、パネルや風力発電機的なものを舞台に壮大なミュージカルをするシーン、花火を打ち上げたり、映像を映したりと今作で最も美しさの際立つシーンでした。心にグサっと刺さりました。
そして終盤、シオンがプログラムに反したために捕まったので、シオンを取り戻すために全員集合し取り戻す計画を立てるミッションものの面白さも出てきます。ここでシオンがなぜサトミを幸せにしようとしているのか、途中途中挟まれるトウマの悩みをここで一気に回収していきます。トウマがサトミの幸せを願い、AIを改造し、プログラムを組んだものがシオンとなり、8年もの長い期間様々なデータベースに潜み、サトミと出会える場所を探し、丁度いいAIロボットがあり、サトミと話せると信じてそこに侵入してサトミと出会っていく、と物語の序盤までのストーリーをまた違った目線で見れるのも良かったです。歌う理由もサトミが歌ってほしいなと願ったのが元になっており、記憶に強く強く残っているものを長い時を越えて紡がれているのにも、新たな友情を感じて感動しました。
最後、シオンを脱出させるのではなく、AIのデータを逃すという中々画期的なアイデアで空へと飛ばします。カラフルな映像が田舎の風景ともマッチしますし、AIの表情の変化も楽しめました。飛ばす前にサトミに幸せになった?と聞いて幸せだよと泣き笑うサトミにもグッと心掴まれました。あれは涙腺やられました。
最後、まだ近づけていないサトミとトウマをくっつけるために人工衛星から後押しするという面白い流れからの、2人が手を繋ぐシーン、クゥー!青春だー!眩し過ぎる!と1人でワーキャーしてました。手を繋ぐという甘酸っぱいシチュエーションで物語を締める。なんて美しいんでしょう。
劇中の音楽もとても良くて、土屋太鳳さんの圧倒的歌唱力。体の底から震えるくらいの衝撃で、静かな歌も、楽しい歌も、ミュージカルとして最高に楽しめるものになっていました。
声優陣もお見事です。土屋太鳳さんは言わずもがな、福原遥さんの可愛らしい声、工藤阿須加さんの頼りないけど頼もしい声、興津和幸さん、小松未可子さん、日野聡さんと本職声優陣のキャラのハマりっぷりも流石でした。
107分に詰め込まれた楽しく、面白く、だけど胸に込み上げてくるものがありました。今年のアニメ映画のクオリティはとても高いですが、その中にも食い込んでくる素晴らしい作品でした。是非とも劇場へ!
鑑賞日 10/29
鑑賞時間 16:35〜18:35
座席 H-12