劇場公開日 2021年1月15日 PROMOTION

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聖なる犯罪者 : 特集

2021年1月4日更新

【想像を掻き立てる設定】犯罪者が聖職者になりすます
果たしてどうなる――?圧巻の物語とラストに驚愕必至

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少年院を出所したばかりの青年が、立ち寄った村で司祭になりすましていた――。1月15日から公開される「聖なる犯罪者」は、そんな強烈な事件の顛末を描いている。

スクリーン上で起こる出来事はややもすれば静謐だが、まるで鈍器でぶん殴るような衝撃が潜んでいるから一筋縄ではいかない。この青年の行動は正義なのか? 欺瞞なのか? 関わる村人たちはどうなるのか? 観客の心は気づかぬうちに掌握され、やがて映画史に残るであろうラストシーンへと導かれていく。

第92回アカデミー賞では、国際長編映画賞にノミネートされた本作。この特集では、見どころを「設定」「監督」「レビュー」の3つにわけて紹介していく。とにもかくにも、良質な作品を求める映画ファンへ、自信を持っておすすめできる一本だ。


【予告編】聖人か?悪人か? 目の前の事実を信じるな

【設定が衝撃的】過去を偽り聖職者となった青年
“前代未聞の実話”をもとに描くヒューマンミステリー

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○少年院を出所したあと、村の教会でふと「俺が司祭だ」と嘘をついた――

少年院に服役中のダニエルは、前科者は聖職に就けないと知りながらも、神父になることを夢見ていた。仮釈放され村の製材所で働くことになった彼は、ふと立ち寄った教会で若いシスターに話しかけられ、なんとなく「俺が新任の司祭だ」と嘘をついてしまう。

特に理由はなかった。魔がさしたと言えばそれまでだ。しかしどういうわけか、本当に新任の司祭だと勘違いされ、村にいつくことになる。村人たちはダニエルの聖職者らしからぬ言動(爆音のEDMをかけながらバイク修理していたりする)に戸惑うが、どこか切実な思いがこもった教えを説く彼を、徐々に信頼するようになっていく。

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やがてダニエルは数年前にこの土地で起きた凄惨な事故を知り、村人たちの心の傷を癒やそうと模索する。しかしある男の出現により、事態は思わぬ方向へと転がっていく……。

ダニエル役で主演したのは、ポーランドで最も才能ある若手の1人であるバルトシュ・ビィエレニア、28歳。こけた頬、角張った額、そして落ち窪んだ眼窩が“すて鉢”な人生を予感させる一方で、奥に潜む瞳はどこまでも澄み切っている。その顔面は言うなれば、善と悪の同居。不思議なたたずまいが、どちらに転ぶかわからない物語を象徴しているように思える。

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ビィエレニアの経歴はエリートそのもの。2016年に国立アカデミー・オブ・シアター・アーツを卒業し、14~17年には国立スターリー劇場で「エドワードⅡ世」「リア王」「ハムレット」などの舞台に出演しており、確かな技術に裏打ちされた演技力は一級品の輝きを放つ。一度見たら到底忘れることができない、その存在感に刮目せよ。


○まさかの実話… ハリウッド映画とも邦画とも異なる衝撃のヒューマンミステリー

ポーランドはカトリック信仰が非常に強く、村における聖職者は人々の尊敬を集めてやまない。聖職者の意思が、村全体の意思にすらなり得るのだ。そんな地位に、少年院を出たばかりの前科者が、経歴を偽証してなりすました……彼は光を見出すのか、それとも闇へ転がり落ちるのか。観客はいわば“神の視点”で、この出来事の行く末を見つめることになる。

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驚くべきは、本作はポーランドで実際に起った事件に基づいている、という点だ。にわかには信じがたい“実話”という事実が、観客の「この男は善人か、悪人か?」という自問自答に拍車をかける。どれをとってもハリウッド映画や日本映画とは絶対的に異なる妙味を含んだ物語、俳優、映像。この“衝撃”は、映画館で味わってこそ無二の体験となる。


【アカデミー賞ノミネート作】非の打ち所がない高品質
監督は、エドガー・ライトらも絶賛する俊英

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○監督 世界的名匠の道を歩むヤン・コマサ

アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキーら、数々の巨匠たちを輩出した“映画の国”ポーランド。本作のメガホンをとったヤン・コマサは、同国で今、最も注目される若手監督だ。

長編デビュー作「Suicide Room」(2011)は、第61回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品。長編2作目となる「リベリオン ワルシャワ大攻防戦」(14)はポーランドで180万人を動員する大ヒットとなり、一躍、同国トップクラスの監督として名を馳せた。

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その目覚ましい活躍は国内のみにとどまらず、Netflixが才能に目をつける。フェイクニュースとSNSでの誹謗中傷を題材に描いたスリラー「ヘイター」(20/Netflixで配信中)は世界的な話題をさらい、トライベッカ映画祭のインターナショナル・ナラティブ部門で最優秀作品賞を受賞。米HBOがTVシリーズ化することも決定している。

ゆくゆくは“名匠”の称号をほしいままにするであろう俊英監督。今後の動向に注目しておくべき逸材である。

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○高品質 世界各地で絶賛…アカデミー賞では外国語映画賞候補に

コマサ監督が放った渾身の一作「聖なる犯罪者」は、やはりというべきか、各国で絶賛評を浴びた。2019年のベネチア国際映画祭でプレミア上映された後、トロント国際映画祭ほか世界中の映画祭で多くの賞を獲得した。

さらに第92回アカデミー賞では、ポン・ジュノ監督作「パラサイト 半地下の家族」やペドロ・アルモドバル監督作「ペイン・アンド・グローリー」などと肩を並べ、国際長編映画賞へのノミネート。極めつけは「2020 ORL Eagle Awards」(ポーランド版アカデミー賞に相当)だ。監督賞、作品賞、脚本賞、編集賞、撮影賞ほか11部門を制するなど、圧倒的な強さを見せつけた。

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その品質の保証は、受賞歴だけではない。「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」など瑞々しい映像魔術で知られるショーン・ベイカー監督は、本作に対し「大胆で、面白く、情け容赦ない映画だ」と称賛。さらに「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ベイビー・ドライバー」などのエドガー・ライト監督は、「とんでもない映画だ! 生々しい現実をスリル満点に描いている」と褒めちぎっている。


【編集部レビュー】魂をそっと鷲掴みする115分
映画史に残るラストが、あなたの価値観を転覆させる

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映像は儚く、静謐。眺めているだけでも豊かな映画体験になるが、表層のさらに奥に潜む“なにか”をぜひ感じ取ってほしい。人間の危うさ、恐れ、怒り、悲しみ、諦め……渦巻く激情はまるで青い炎のように美しく、冷たく、どうしようもなく熱い。

主人公ダニエルの性格は、「こう」と一言では決めつけられない。というのもモノローグがほとんどなく、その内面を推し量ることができるのは、寡黙な彼の言動のみだからだ。少年院からの仮釈放間際、定期的にやってくる神父に「酒もドラッグも手を出さない」とピュアな表情で約束するが、シャバに出た直後にクラブで酒とドラッグに溺れてみたりする。どこに本心があるのか判然としない人物描写が、後々の展開に深く影響を及ぼしていく。

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物語の序盤は、若者たちの退廃的な日常を描く「トレインスポッティング」のような、アシッドでスモーキーなテイスト。一方でダニエルが司祭として働きだすと、聖職者の業務内容や知られざる苦悩がクローズアップされる。興味深いことに、いわゆる“お仕事映画”の雰囲気が充満するのだ。

わけても、型破りなダニエルが、保守的な村人たちの信頼(ときにある女性から涙を流してすがりつかれるほど)を徐々に得ていく過程が印象に残る。たとえニセモノであろうとも魂の救済をもたらすのならば、汚職や欺瞞にまみれたホンモノよりも遥かに優れているのではないか――見る者の価値観はまたたく間に転覆、同時に真善美の基準は崩壊し、新たな観念が猛スピードで立ち上がってくる。それはとてもスリリングな体験だ。

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かくして物語は刻一刻と体勢を変えながら、正義の反対は悪ではなく“また別の正義”であり、不幸に悲しむ人の反対側には“また別の不幸に悲しむ人”がいる、と示す。そして怒涛のクライマックスに、まるで滝壺に身を投げるように突き進んでいく。

ラストシーンのインパクトは、“映画史に残るラスト”と名高い「明日に向って撃て!」に匹敵するといっても過言ではない。ダニエルのあの瞳は、エンドロールが終わったあとも、網膜に焼き付き離れない。もしもあなたが目撃したならば、一体、何を思うだろうか。(映画.com編集部)

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