【「聖なる犯罪者」評論】ヒリヒリする獰猛さと、祈りの静寂さと。観る者を釘付けにする衝撃作
2021年1月16日 16:00

久々に魂がきしむほどの映画を見た。冒頭からスクリーンに迸るのは、吹き溜まった感情を力の限りに吐き出す獰猛さと、真逆にある静寂のほとりで祈り続ける敬虔さだ。たった一人の肉体を通じてこれほどの振れ幅を描き、なおかつ、生きとし生けるものが抱える原罪をヒリヒリするほどの感度で我々に突きつけるその筆致。信仰が一つのファクターではあるものの、これはむしろ、人は生きる上で何にすがり、いかなる存在のためにこの身を進んで差し出そうとするのかを炙り出した人間ドラマと言える。
本作は事実を基にしている。少年院で深い信仰心に目覚めた青年ダニエルは、聖職者になりたいと願うも、前科者にとってそれは叶わぬ夢だった。しかし仮退院後に訪れた村の教会でふと口をついて出た嘘をきっかけに、運命は思わぬ方向へ動き出す。彼は代理の司祭となった。型破りで真に迫った説教は次第に村人たちを惹きつけ、信頼を勝ち得ていくのだが---。
いわゆる偽りの存在が、本物以上に人の心を掌握していくプロットは、映画でもよく見かける。西川美和監督の「ディア・ドクター」もそうだったが、人の暮らしや生死に関わる職業であればあるほど、ある種のカリスマ性はよりいっそう厚みを帯びていくのかもしれない。こういった虚飾がボロボロと剥がれ落ちていく・・・という流れであったなら、他と変わらぬ凡作にとどまったことだろう。
しかし、本作は後半戦でさらにうねる。過去にとある悲劇に見舞われたこの村で、ダニエルは取り憑かれたように真相の蓋を開けようとするのだ。当然ながら彼には「真実とは何か」を語る資格もなければ、住民の心の傷に塩を塗る道理もない。だがあえてそうすること、そうせざるをえないことによって、本作はダニエルに、己の虚構性そのものと向き合う機会を与えているかのようだ。これは「聖なる犯罪者」という物語が内包する一つのタイムリミットとも呼ぶべきものかもしれない。
なぜダニエルは二つの顔を持ち得たのか。彼はこの村で何を成し遂げたのか。本当の祈りとは、あるべき救いとは。青年の中で巻き起こるいびつな感情を活写し、村に影を落とす悲劇の顛末を描きつつ、人間の抱える原罪や信仰の意味すら問いかける。かくも複眼的でありながら、それが暗闇を照らす光のように集約されていく様は実に力強く圧巻だ。ポーランドの若き鬼才ヤン・コマサの恐れ知らずの演出に、心も体も翻弄され続ける傑作である。
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