劇場公開日 2020年11月27日

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「【安住の地は遠く】」ヒトラーに盗られたうさぎ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5【安住の地は遠く】

2020年11月29日
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ジュディス・カーの家族は、さまざまな意味で幸運だったと思う。

父が最初に向かったチェコも、スイスから家族が移り住んだフランスも、その後、ナチスの占領下に置かれたからだ。

ナチスによるユダヤ人の拘束、収容所送致はナチスが占領したヨーロッパ中に及び、数百万のユダヤ人が虐殺された。

ただ、ユダヤ人に対する偏見や差別は、何もナチスだけに限ったことではない。

この映画でも、ユダヤ人に対する偏見は、大小、そこかしこに描かれているし、欧州中にユダヤ人が広く住んでいたことが窺える。

特に、拠り所の少ないユダヤ人が、如何に教育を大切にしていたのか、フランスのアパートの隣人の嫌味からも知ることができる。

フランスで1890年代に起きたユダヤ人ドレフェスへのスパイ容疑は、偏見や差別に基づくもので、ドレフェス事件として歴史に記憶されているが、これを取材したテオドール・ヘルツルは、この差別に驚愕し、シオニズムを提唱、第二次世界大戦後にイスラエルが建国されるきっかけとなった。

ただ、ジュディスの父が、フランスの授業で、年代と出来事の暗唱させる試みを蔑むように話す場面は、フランスが、絶対王政から何度か繰り返された革命と国内の分断を若者の記憶に止めようとする教育の試みを批判するようで、どっちもどっちというところはあったように思える。

現在、トランプの大統領選敗退で勢いはやや削がれるのではないかと思われるが、アメリカの白人至上主義や、民族主義を背景にしたイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、オーストラリアなどのポピュリズムは、ファシズムを想起させるし、日本のネット右翼も同様だ。

フランスの思想家で経済学者のジャック・アタリは、差別は思想ではなくて、特徴に過ぎないと言っていたが、まさに、その通りで、やはり、こうしたことを理解する能力を培う教育は重要だと思う。

そういう意味で、幾度となく偏見や差別を乗り越えて来た、ユダヤ人の決意に似た教育を大切にする姿勢は、普遍的なのだと考えた。

ワンコ