「生まれてきてくれて、ありがとう」ベイビー・ブローカー bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
生まれてきてくれて、ありがとう
韓国映画は基本的には、あまり観る機会は少ないのだが、カンヌ映画祭でパルム・ドールに輝き、『万引き家族』の是枝裕和が監督、そして、『パラサイト』のソン・ガンホが主演と、話題性は高くて鑑賞。赤ちゃんポストに捨てられた子とその母親、そして、その子を売ろうと関わったベイビー・ブローカー達の想いを通して、親と子の絆を訴えかけてくる。
韓国という舞台ではあっても、親子の絆という点では、万国共通のテーマ。是枝流の『情』が湧き出る演出を感じさせる内容。2時間の上映時間の中で、已むに已まれずに手放さなければならない母親の苦悩やブローカー達の心の変容振りが、確かに伝わる。大掛かりなシーンも特別なセットもない日常風景の中で、出演者の淡々とした演技が、却って人間味と愛情を感じさせるヒューマン・タッチな作品へと掘り下げている。これは、『ドライブ・マイカー』でも感じたことだ。
赤ちゃんポストというのは、日本でも一時期ニュースで話題となって、賛否両論別れた、命の尊厳に関することだと思う。折しも、劇中、真っ暗な部屋の中で、イ・ジウンが「生まれてきてくれて、ありがとう」と囁く言葉が、この作品の根底に流れている、強い強いメッセージだと感じた。
主演のブローカー役のガン・ソホンは、『パラサイト』の時も感じたが、うだつの上がらない、情けない男がよく似合う。しかし、それと同時に、どうしようもない愛おしさも感じさせるのが名優たる所以であろう。
そこに、ブローカー仲間役のカン・ドンウォン、母親役のイ・ジウン若手が、世間から見放され、社会の隅で暗い過去を背負って生きてきた、哀愁漂う男と女を演じている。特に、ジウンの子供に対する尖っていた表情が、次第に温かみのある母親の表情に変容していくのがいい。
全く血の繋がらない人々が、小さな赤ちゃんの命を通して、一見、固い絆に結ばれていく姿を描いている。しかし、これは本当の幸せなのかを絶えず問いかけながら、実は、諸刃の剣であることも、合わせて訴えかけてくる。