「三味線をもっと聴きたかったなー」いとみち flying frogさんの映画レビュー(感想・評価)
三味線をもっと聴きたかったなー
原作が大好きで、映画化の知らせに狂喜乱舞してクラウドファンディングまでした(笑)
実際、原作モノはハズレが多いし、好きな原作ほどハードルが高くなりがちなので、ここは津軽の風景と三味線の演奏シーンだけ観れればいいや、くらいの気持ちで映画館に足を運んだのだが…
いやいやどうして、期待値を遙かに上回る素敵な映画だった。
丁寧に創り込まれた脚本、丁寧な演出に丁寧なカメラワーク、そしてそれに応えるキャストの抑制が利いた上質な演技が画面から目を離せない幸せな2時間を与えてくれた。
まず主演の駒井蓮がとても魅力的。
序盤のおどおどした表情は"ブス"にさえ見えてしまうのに、徐々に少しずつ表情が軟らかくなり、クライマックスの三味線の演奏シーンでの柔らかい表情は本当に美しく魅力的。
でも実は、このシーンの表情は原作とは違うんだよね。
原作ではいとは相変わらず目を堅く閉じて歯を食いしばる必死の形相をしているのだけど、それは原作の中ではこのシーンでいとがこの表情で三味線を弾くことにちゃんと意味があった。
なので映画のいとの演奏シーンでの表情は本当に魅力的だが、それだけではこのシーンは浮きまくっていたはず。
でも、脚本がちゃんとこのシーンに繋がるように編まれていて、しかもそれが原作のイメージと乖離していないのが凄い脚本だ、と思った。
そしてそれに応える駒井蓮も、良い女優だなぁ。
あの親子喧嘩での怒りの形相には気圧されたもの。
豊川悦司は、やはりこの映画を引き締めている。思春期の娘との、ちょっとぎくしゃくした親子関係という空気感を、仕草ひとつで纏うなんて、いつの間にこんな上手い役者になったのか(^-^*)
いとの祖母のハツエ役が女優ではなく本物の津軽三味線奏者と聞いた時は「制作陣は分かってらっしゃる!」と大喜びしたのだけど、期待以上にちゃんと「女優」していた。素人っぽさはまったく感じなかったもの。
セリフは強烈な津軽弁でほとんど分からんかったけど、ハツエのセリフは原作でも記号で書かれていてさっぱり分からないので、これで良いのだ。いやこれでなくてはならないのだ(笑)
数少ない不満点を挙げるとすれば、映画は焦点をいととその家族に絞ったのは分かるが、智美がちょっとおざなりだったこと。
良いキャラで好きなんだがなぁ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」の練習シーンとか、「なにその萌え記号の詰め合わせ、あんた超人か」の名セリフとか、智美関連の好きなシーンやセリフがあらかたカットされてるのは悲しい(笑)
イトテンキョーのエピソードも、原作だと後にいろいろ繋がってくるのだけど、青木の英雄シーンも見たかった気はするけど、まあ尺に収めるには仕方ないのか。
それともう一つの不満点は、三味線の演奏シーンが少ないこと(笑)
特にハツエの演奏シーンが足りない(笑)
ヴァン・ヘイレンはともかく、津軽じょんがら節くらいはたっぷり聴かせてくれるものと期待していたのに(笑)
いとの「エデンの少女」も、ああもうちょっと聴かせてよ!ってなった(笑)
原作ではすごく書き込まれた三味線のセッションのシーンが多いのだけど、いととハツエの競演シーンももうちょっと観たかった。
DVDの特典映像にでも入れてくれないかなぁ。
まあそれもクライマックスのいとの演奏シーンで少しは溜飲を下げたけど(笑)
あのシーンは本当に良かった。1年やそこらの練習であんなに弾けるものなのだろうか。
というわけで、ほぼいちゃもんのような不満を除けば文句なしの良い映画だったのだけど、惜しむらくは宣伝費をもっとかけられたらなぁ。上映館も少ないし、もっと多くの人に観られても良い映画なのになぁ。