劇場公開日 2021年3月26日

「彼女が見つめる先にあるものは」ノマドランド TSさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5彼女が見つめる先にあるものは

2024年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

劇場で公開された直後に観た作品。一度しか観ていないので、細部まで覚えているわけではないが、数年経っても記憶に残る作品。

作中に登場する現代のノマド達のほとんどが実際のノマドであり、綿密な取材に基づいて作られているため、ドキュメンタリーを観ているような感覚に襲われる。

舞台となるアメリカ西部の大自然。そこで車上生活をおくるノマド達。多くは高齢者である。家はなくとも車には金がかかる。狩猟や農耕生活をしているわけではないので、生きるためには金がいる。町場へ出て、日雇い労働で稼ぐしかない。
アマゾンの巨大物流センター、キャンプ場、ファストフード店・・・。現代の消費生活を象徴するような場でエッセンシャルワークをする人々。
カナダでもない、中国でもない、ロシアでもない、アフリカ大陸でも南米でもない。アメリカという資本主義大国の道路網の整備された荒涼とした大地でなければ成り立たない生活。

社会へのメッセージなのか。いや、これは、数々のノマドたちを描きながら、主人公ファーン(フランシス・マクドーマンド)の心情の深くを描こうとしている作品だと感じた。

印象的な台詞がある。元教え子から聞かれてファーンが行った言葉「ホームレスじゃない。ハウスレス」。物理的な家はもうないが、帰る場所はあるという意味か?
彼女が放浪の生活を続けていく中で、「ハウスレス」の意味が少しずつ変化していったように思われる。
彼女は夫を失い、職と住処を失ったが、心の中に古里や夫と過ごした街の思い出が残っている。だからホームはあると言った。しかし、一緒に暮らそうという誘いを断り、放浪を続ける中で様々なノマドと言葉を交わし、大自然に身を任せる場面を観ていくうちに、この大自然そのものが彼女のホームになっていったように私は感じた。

彼女の横顔。彼女が何かを見つめる目。強い意志を宿した目。それが今でも印象に残っている。
彼女がじっと見つめる先にあるものは、希望か、それとも暗い未来か。いずれであっても、彼女はきっと強い意志で生きていくだろう。

一人の女性の強さが印象に残る作品であった。

TS
R41さんのコメント
2024年12月15日

おはようございます。
何とも考えさせられる作品ですね。
人は、結局のところ何を選択してもいいはずですが、どうしても現在地点の在り方と比較対象せずにはいられません。
このことが迷いを生じさせます。
その迷いを振り切るほどの強い意思
直観 これではないと感じるから
今のままがいいとする人がほとんど
この迷いを振りほどいて進んだはずだった。
しかし、一般の人と接する機会があればどうしても思い起こさざるを得ないかつての生活。
この作品は、この行ったり来たりを描いているんだと思いました。
そしてこれがひとつのわかりやすい例ですが、
誰もが同じようにしているということなんだと思います。
最後に彼女はかつての場所を訪れた後、冬に北上します。
それは従来のローテーションではないと、感じたからでしょう。
毎日同じことをしていては、惰性で生きているのと同じだと、彼女は思ったのかもしれません。

R41
talismanさんのコメント
2024年12月15日

とても好きで強い映画、でも私はできるか・・・自信がない。でもあっちに行けばできるかな。日本は緩すぎるのかもしれない。

talisman