「厳しくとも、矜持を持って凛と生きる」ノマドランド momokichiさんの映画レビュー(感想・評価)
厳しくとも、矜持を持って凛と生きる
アメリカも日本も高齢者が子供を頼らず、1人で生きていくのは厳しい。年金だけではやっていけないから。 離婚や死別でさらに大変な経済状況の人も多い。高齢でも働かないといけない。
そんな人たちの中で、少しでも経済コストを下げるために家を捨て「ノマド(≒車上生活)」という生き方を選択する人たちがいる。その人達をとりあげた映画。
しかし高齢者にはトイレ掃除や工場勤務や採掘場しかないのか。。ないんだよな。
でもこの映画の老人たちは悲壮感なく、明るく働いていたのが印象的だった。時にはトイレ掃除中に我慢できない男性が入ってきたりしてムッとすることはあるけれど、総じて仲間と声を掛け合って明るく前向きに汗を流していた。「そんな仕事」と思った自分が恥ずかしかった。 気にしてない。まったく気にしてない。強い。
ソーシャルワーカーが「年金を申請すれば?」と奨めても「働きたいの。」と毅然と言い放つ。
そう、重要なのは経済上の理由からだけで選択しているのではないということ。主役のファーンは姉のところなど身を寄せれるところもある。なのになぜこの厳しい生活を選択するのか?
ファーンの姉が言う。
「あなたは変わり者と周りは言うがそうではない。単に心の声に正直で勇敢なのだ。羨ましかった。」
金や安定のために自分の本音を犠牲にしたくない。心の声に正直に生きていきたい。暖かい家と温かい餌のために我慢して檻の中で汲々として生きるのではなく、厳しいけれども矜持をもって狼のように自由に生きていきたいという信念がある。
この矜持はファーンだけでなく、ノマドの高齢者に共通してみられた。素直にカッコいい。
台詞でみせる映画じゃないが、所々に刺さる台詞があった。うろ覚えだが備忘録代わりに掲載する。
・ホームレスじゃない。ハウスレスよ。(ファーン)
・若いころは馬車馬のように働いて、齢をとったら捨てられる。(ノマドライフの指南者ボブ)
・年金が550ドルしかない。どうやって年金だけでやっていけるの?(ノマドの女性)
・夫は定年を楽しみに働いていたのに直前にガンになり亡くなった。尽くしてきた会社も冷酷な対応だった。だから今を生きると決めた。(ノマドの女性)
・どんな美しいものも、いつかは衰える。
・たくさんの美しいものを見てきた。この瞬間に死ねたら、幸せ。(スワンキー)
・この生き方が好きなのは、最後のさよならがないからだ。いつも“また路上で会おう”だ。(ボブ)
ファーン役のマクドーマンドはなんというか女性なんだけれど「かっこよい。」
スタイルがよく、また着こなしもいい。おしゃれだ。佇まいで魅せれる女優だ。
(ちょっとウィルアム・デフォーに似ている。。)
※
途中眠気を感じた。台詞の少ないロードムービーで、且つ事件らしい事件も起きないし、全編に心地よい音楽と素晴らしい風景が流れているからうたた寝するには申し分ない。ただ映画としてはあまり褒めれることではないので0.5 を差し引いた。