劇場公開日 2022年4月8日

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「示唆に富みすぎる作品」親愛なる同志たちへ zem_movie_reviewさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0示唆に富みすぎる作品

2023年6月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

この映画を観るまで「ノヴォチェルカスク虐殺事件」なんて知りませんでした。
そして、冒頭のセリフから現実社会、政治、経済との対比で次々と考えさせられて頭が疲れました。マジでこんなに考えたのは久しぶりです。映画を観た後に事実経過を調べましたが、この映画の通りでした。モノクロ映像と相まって実にリアルに制作したのだと改めて感心しました。
・「共産主義で物価が上がるのはあり得ない」:常に需要と供給がバランスする建前ですからね。必要なものを必要なだけ。ですが、経済失政(意味不明なデノミ)で激烈なスタグフレーションとなりました。ノヴォチェルカスクは貧しい地域で元受刑者が多く住む町で、賃金は上がらない(どころか下げられる方向)、物価は上がっていくというところから始まります。
・共産党は「無謬性」で成り立っています。党の指導に間違いはない。もし問題があるのなら、それは現場の問題である。そう、理不尽です。でも、現代社会でもそうあるべきだ、そうなっているという前提で物事が進んでないですか?過失に厳しくしすぎていませんか?そして、それがさらなる歪みを生産している現実。今も昔も強度の違いはあれ同じです。
・上意下達の弊害。党本部の指導が絶対です。権限委譲なんてありません。群衆がデモで不満を訴えても町の委員会にはなんの回答も出せません。中枢から幹部がやってきますが彼らは教条主義者です。却って火に油を注ぐだけです。なお、このデモの解決にミコヤン第一副首相が当たっていたことにびっくりしました。党本部は事件に重大性を感じていたのだと理解できます。
・回顧は手軽な現実逃避。主人公リューダは共産党員で町の委員会の幹部で組織に思想に忠実でしたが、物価上昇等からスターリン時代を良い時代だった、スターリンに戻ってきて欲しいと何度か繰り返しますがそんなことにはなりえません。昔を懐かしむ、良い時代だったと回顧するのは現実逃避なんだなあと気づきました。しかし、スターリン時代が良かった、という感覚は私には理解出来ません。ホロドモール、ロシア内には知られてなかったでしょうか。
・軍とKGBの関係が面白い。というか、こんな状態で軍人になろうなんてよく思うよなあ・・・。
・ノヴォチェルカスクってウクライナの隣なんですね。アゾフ海で云々のセリフもありました。
・親の子に対する思いは時代、体制関係ないよね。当たり前ですが。

他にもいろいろとありましたが、このタイミングでドキュメンタリータッチでの上映には感謝します。是非、映画館で。

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