「【『ベルリン天使の詩 日韓合作バージョン』 日韓の二つの”家族”が、様々な”相互不理解”を乗り越えて、”相互理解”に至る過程を、ロードムービー形式で描き出した作品。】」アジアの天使 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【『ベルリン天使の詩 日韓合作バージョン』 日韓の二つの”家族”が、様々な”相互不理解”を乗り越えて、”相互理解”に至る過程を、ロードムービー形式で描き出した作品。】
ー 石井裕也監督、オリジナル脚本作。ー
◆石井監督は、前作「茜色に焼かれる」でも、「ぼくたちの家族」でも様々な問題を抱える”家族”の喪失と、再生を描いて来た。
そして、今作でも同様のスタンスで【国交正常化以降最悪の状態にある日韓関係】を背景に、日韓の二つの”家族”が、”天使”をキーワードにしながら、壁を乗り越えて行く姿を、ロードムービー形式で描いている。
<日本の家族>
・妻を癌で亡くした売れない小説家の剛(池松壮亮)は、幼き息子と共に、兄の亮が住む韓国・ソウルにやって来る。
ー 剛が、韓国語が話せないところが、今作の一つの成功点であると思う。
”何時でも、必要なのは相互理解だ!”
と息子に言い聞かせながら、言葉の”壁”のため、兄の共同ビジネス者(パク・ジョンボム:今作の制作者でもある。)から手荒い扱いを受ける。そして、兄と共に韓国コスメの商売での成功を目論むが、共同ビジネス者の裏切りで、あえなく撃沈。”だから、韓国人は信用できないんだ!と地団駄を踏む、亮。ー
・二人は、ワカメの取引を始めようと韓国北東部のワカメ産地を目指す。
<韓国の家族>
・元アイドル歌手のソル(チェ・ヒソ)は、屈託した生活を送っている。兄、ジョンウは善人だが無職で、妹のポンはソルから”公務員になれ!”と言われ続けて、ソルを疎ましく思っている。
ソルは、もう一度歌手を目指そうとするが、上手く行かず・・。
そんな時に見た、夜の橋脚に立つ”天使”の姿・・。
日々、閉塞感を抱える3人は、叔母から”たまには両親の墓参りをしなさい!”と言われ、韓国北東部の両親の墓を目指す。
◆序盤、剛と、ソルは偶然、町の市場内の安っぽい店で顔を合わせている。黒いサングラスを掛けながら、歌手を諦めざるを得ない状況に涙を流しながら酒を呑むソルに、亡き妻の面影を見た剛は”日本人特有の曖昧な笑顔”で、話かけるが、日本語が分からないソルに、却って気味悪がられてしまう。
ー 日韓の人間同士の”他意無き相互不理解”を、上手く捉えているシーンである。ー
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<日本の家族と、韓国の家族のロードムービー>
・韓国北東部へ向かう2家族が、ひょんなことから、道中を共にし、剛がソルの窮地を救った事で、2家族は、急速に接近していく。
・そして、<日本の家族>も<韓国の家族>も、道中、様々な経験をする中で、再び心を通わせていく姿。
ー 剛のソルに対する気持ちを、お茶らけた態度ながらも、後押ししようとする亮の優しい心。
ソルの歌手時代のCDを大量にバッグに持っているジョンウのソルを想う気持ちも、じんわりと良い。ー
・”サランヘヨ”と、ソルになかなか言えない剛。
墓参り後、<韓国の家族>の懐かしき思い出がある海岸でソルが出会った”髭のおじさんの天使”(芹澤興人)・・。
ー このシーンは、白い天使の羽ヒラヒラフォーカスからの、あの天使の姿・・。
可なり、脱力する・・。石井監督!ここで、笑いを入れるかね!ー
・天使を再び見たソルに対し、”僕のサランヘヨは、貴女であり、息子であり、亡き妻であり・・・!”と剛が叫ぶように告げるシーンは、沁みたなあ。
・ラスト、<日本の家族>と<韓国の家族>が、<一つの家族>の様に卓を囲んで、黙々と食事をするシーンも、絶妙に良い。
<『日韓の様々な壁』
ー 言葉であったり、文化の違いであったり、過去の歴史解釈の齟齬であったり・・。ー
を、共に旅をする中で少しづつ乗り越えて行く、<日本の家族>と<韓国の家族>の姿。
それぞれの家族内の”相互不理解”も少しづつ解消されていく過程の描き方も、実に上手い作品である。>