スパイの妻 劇場版のレビュー・感想・評価
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うまい!と鑑賞中、何度も監督と脚本家に叫びたかった
エンデイングロールでよく観たら
黒沢清に、脚本家は濱口竜介...なるほど、と思った。
前者は、お得意の心理的な恐怖、ホラーを描く技術・カメラワークを、現実味のある本篇に生かし、主人公の心情を繊細に表現できたんだ。
光と影、複数人の囁きの声と多方面からの音、カメラを引いて撮った夫婦、フレームの真ん中にドアップされた聡子の顔と感情、騒がしい周りの環境...
後者は、観客を驚かせたばかりだ。
「寝ても覚めても」のように。
このシークエンスから次のシークエンスへと、目紛しく...
よく考えると、
カラーの満洲映画という不自然さも、ある種、そういうハイテンポでオペラ的な表現・プロットのおかげでだいぶ解消された気がした。
もう一つ不自然なところは、妻の聡子にある。彼女には、始終驚かれた一方だった。
夫に引っ張られるスポットライトを浴びている完全なる受身だった。
理想的な「スパイの妻」像は彼女からは全く見出せなかった。むしろだから「スパイ」になりきれてなくて「スパイの妻」になるだろう。
どっちかというと、主人の優作の「抱負」に従属しただけだ。彼女は強いられた選択をしただけのように見えた。
(半分影の食卓を囲み、彼女は主人のことを「信じます」とやむを得ず選んだ。
そして一本の満洲のビデオを見て彼女は本当に考えを変えられたのか、そう限らない。
彼女は、夫のために、ノートの原本を憲兵に渡した。
彼女は、夫のために、色々できたこと、夫の唯一の味方になったことに喜んでた。
彼女は、夫と一緒になるために、疑いながらも、信じることでいた。
彼女は、結局夫に騙されたことに狂おって笑った。
悲しい女だ、とふいにおもった。
この映画は、男性中心的な要素をその時代に入れ込みつつ、全てを曖昧に進めていた。けど、私はその曖昧さが嫌いではなかった。むしろリアルに思えた。
コスモポリタンの夫に対し、「幸せ」を選ぼうとした妻が、どのような行動を取るだろうと考えるとき、このようなあやふやなことの方が、辻褄に合うのかもしれないと思った。
「私は狂おってない、だが、きっと狂おっている、この国では。」
映画の最後は、聡子を本格的な「スパイの妻」にしようとした、とでも言える、
せめて
作者は彼女を、この国の反対側に置こうとしたその立場が見えてくる。
この映画うまいと思った一つのポイントもそこにある。
それは、聡子と日本の完全なる対立関係を描くことのうまさ。
物語を主導する優作という存在が所々、意図的に弱化されている。
(高橋一生の好演のおかげだ、セリフのトーンもわざか分からないけど低めだった...)
観客がいつでも、妻の聡子に重点として見るようになれる。
(蒼井優、少し原節子に似てた...)
そして、聡子は満州へもアメリカへも最終的にはいけなかった。彼女は敗戦までずっと日本にいた。彼女は優作の信念をもって、異物のように、日本で最後まで戦ってた。
彼女だけ、病院の他の人間と違って、本気で狂おってた。
彼女だけ、狂おうことなく、病院が爆破された光景をただただ見届けていた。
彼女は最後に、海に向かって、帝国との戦いの「勝利」を手に入れた、そしてようやく海に渡れた。
ここまで、観劇中にちょいちょいとサプライズをくれる、きれいな二項対立がよくできた抗日映画だ。
と褒めたいが、
題材が重いせいか、後味は「いい意味」で悪すぎた。
演劇的な映画
ベネチア映画祭で、銀獅子賞を受賞した作品。最初にNHKのテロップが出た所で、以前、BSで放映していたのを思い出した。いよいよNHKも映画業界に進出ですか…?
戦前のハイソサエティな貿易商を営む福原優作とその妻聡子が主人公。その台詞が、文学的で、滔々と交わされる台詞が印象的のため、映画というより、舞台演劇のような感覚の作品。そのシーンの台詞を、熱く語れる高橋一生と蒼井優は、流石に一流の役者。
タイトルは、スパイの妻となっているが、決して夫・優作は、スパイではない。日本軍が満州で繰り広げていた卑劣を極めた人体実験を知り、人道的な見地から世に知らしめる為に、自らの考えで国家に反旗を翻した反逆者。
その妻は、たとえ夫が反逆者であっても、ただひたすら夫を信じ、愛する夫の為なら身が滅びようとも厭わない献身さ。芯の強さと共に、猟奇さも感じさせる。それを蒼井優が、見事に演じている。
そんな夫婦の間に入り込むのが、聡子に恋心を寄せる東出昌大扮する憲兵隊長。聡子に対する恋心が、戦況の悪化と憲兵としての立場によって、次第に頑なに心を閉ざし、変貌していく迫真の演技も、なかなかよかった。
そして、いよいよクライマックスの騙し合い。ここで初めて優作の裏切りと聡子の強かさが、明らかになっていく。しかし、これもまた、フェイクなのか? 互いへの愛の証なのか? いろいろな解釈の余韻を残してエンドロール。
昔のフランス映画のような内容で、外国人受けする展開。ベネチア映画祭で高評価を得たのも納得。
同志とは
ただ純粋に夫を信じ愛する恵まれた生活を送っていたが、或る事件をきっかけに夫に一層傾倒していく妻聡子を、蒼井優さんが感情表現豊かに熱演。童女のような笑顔にも魅せられました。
自らをコスモポリタンだと明言するクールな熱血漢の
優作( 貿易会社経営 )を、高橋一生さんが粋に演じられていました。高橋一生さんらしい緻密な演技でした。
東出昌大さんが演じた憲兵分隊長の津森の物言いや行動に、戦争というものの恐ろしさを改めて感じました。
軍服姿が似合っていました。
フィルムが伏線として効果的に使われており、作品に面白味を加えていた。
同志・・・時に夫婦や家族の絆をも超えて行くものなのかも知れません。
映画館にて鑑賞
タイトルと台詞回しに…
ドラマ版は未視聴。
戦時中の日本で日本軍の悪行を暴こうとした夫婦の物語。
前半は若干退屈で眠気を覚えてしまった。たぶん淡々と進む展開が個人的に苦手だから。後半はそれなりに面白く観ることはできた。
スパイの妻というより、夫を愛している妻が夫のやろうとすることにどこまでもついていこうとする話だった。そもそも本人も言っていたがスパイ行為ではないし、スパイの妻じゃない。むしろお互いを思いやった夫婦の愛の物語だった。そういう話としては受け入れられた。
ただ、ラストは若干不満が残る。史実を基づいた話ではないのに、字幕で説明するのはどうなんだろう。アメリカに渡ったのなら、アメリカに降り立った妻の姿をワンシーン入れるだけでいいのでは?予算の問題?
あと、蒼井優の演技は昔の女優のようなセリフ回しで好き嫌いが分かれるような気がする。もっと自然な蒼井優が観たかった。
狂気の蒼井優は美しい。
あの時代の空気感の中での、高橋一生と蒼井優にうっとり。ロマンスドールでも秘密を抱えた夫婦の役だった二人。ああ、きっとこの計画は破綻するんだろうなあと思いながら、でも二人のやりとりをずっと見ていたかった。蒼井優、優しい役や可愛い役もいいけど、ちょっと狂気を感じる役が上手い。引き込まれる。
レトロ衣装に胸キュン
良い映画を観ました。銀獅子賞も納得。
聡子が憲兵に捕まったシーン、フィルムの内容が明らかになる場面は「うわーーーーやられた!高橋一生好き!」となりました。最初は「え?なんでこっちのフィルム?」と思いましたが(我ながら鈍い)、この一連の流れに聡子を巻き込みたくない優作が一芝居打ったのに気付いたらもうダメでした。本当好き。
終わり方は賛否分かれるかな。私は観客各々の考え方に任せる、決めつけない感じ好きでした。個人的には再会できたんだろうな、と思っています。自分でハッピーエンドにする。
ところで、女性の衣装がかわいい映画は観ていて楽しいよね。レトロな雰囲気。着物も素敵だけどやはり洋服は良いね。
釈然としない
聡子が優作を告発したあたりのところ(訂正:優作を告発したというのはミスリードで実際には文雄だが)は、話に無理があるのではないかと思った。結果的に優作は釈放されたがあまりにもリスクが大きい行動であるし、それに見合ったメリットがあったとも思えない。しかもここで優作が釈放されたことで話の緊張感が薄れてしまった。
優作が聡子を裏切るところも動機が弱いと思ったし、互いに密告し合うということをやりたかったという作り手の意図のほうを感じてしまった。
(後から考えると、優作が初めからアメリカのスパイで、人体実験を告発することではなくデータをアメリカに届けることが目的だったと考えると、最後の字幕とつじつまがあうし聡子を裏切ったのも納得がいく。しかしその場合もなにを聡子が「お見事」だと思ったのかやはりよくわからない)
スパイの妻というタイトルである割に、優作は(少なくとも表面上は)スパイではなく正義の人であるし、聡子もそれほど愛国者ではないので、国か夫かといった葛藤はなく、二人の幸福か大義か、といったセカイ系的な主題になってしまっている。憲兵の権力が身内である泰治に集中しているのもアニメ的で、話のスケールが大きい割に少人数の人間関係で話が完結しており、歴史を舞台にしたことの重みが感じられなかった。
セットはよくできていて雰囲気がよく出ていた(「いだてん」の物を流用しているらしい)。
夫婦像や台詞回しが昔の映画のようであり、時代設定に合っているとはいえるが、若干モノマネをしているようにも感じた。
何を示したかったのか?
観ていると全ては観覧者任せ
どう感じるかも観覧者任せという感じが強いが
出来事が薄く出てくるのでどうでも良く感じてしまう
蒼井優の演技なのか? 演出なのか?
役柄の喋りかたなのか?
これが全てを曖昧にさせている気がします
そして最悪なのが最後に黒バックでドロップ締め
これをやられると何でよくなってしまう
この手の映画で、ジャンプ物の おれたた をされると
どうしょうもない
戦争や生物兵器開発、人体実験もっと見せ方が
あったのではないのか? これを軽く流したから
彼らの大義が薄く感じてしまう
他に良い映画はあるので、全て観て観るものが
無い人が観てた方がよいかも?
最期の時政に刮目せよ
語りたいことは山ほどある映画だが、敢えてひとつだけ記しておく。
優作が企み望んだのは「関東軍の非人道的残虐行為」を世界に知らしめることによって「アメリカの参戦→日本の敗戦」である。その通り日本は8/15に終戦の詔勅となる。映画ではどうか?精神病院の妻のシーンは、東京大空襲(3月)と神戸大空襲(6月)だ。帝国日本が負けを受け入れざるを得なかった「アメリカ」軍の決定的最終兵器の使用は...8月。映画作中では全く描かれない。それは「非人道的虐殺行為」ではなかったと言えようか。その時、優作が生きていれば何を思ったろう?そんな深い洞察を各所各節に与えてくれた作品であった。
馬鹿で可愛い妻
ただの貿易商が、偶然出会った程度で信用され、最高機密であるはずの軍部の生データを手に入れられるわけもなく、また、雲行き怪しい時代に白人の釈放のために大金を拠出するのも不自然過ぎており、更には妻が国民服を着るのも拒むくらい、もともと夫が欧米側の人間であることは明白。
しかし、主人公である妻は、機密情報を他国に持ち出そうとする夫の行為は義憤にかられたからだと信じる。その姿はあまりに愚かで、かつ、蒼井優の演技力のお蔭で可愛くも見える。
夫の部下を犠牲にしてでも夫を庇おうとした浅慮さも、証拠は2つ揃っていないと意味がないのに2人が1つずつ持って分かれて渡米しようという案を飲んでしまう愚鈍さも、全てが愛ゆえなのかと思わせるほど、妻がキュートだ。
とは言っても、所詮スパイごっこに興じているだけの妻は、見張り役がいることにも気づかないくらい愚かなので、夫に国外脱出の際にスケープゴートに使われてしまう。
「お見事です!」という台詞とともに失神した妻。夫が徹頭徹尾ウソしかつかない男だったのだと悟り、騙されて捨てられたと理解してのものだと思い、可哀想だなぁと思ったのも束の間、終戦後に夫に呼ばれるままにホイホイ渡米してしまうというラスト。
なんなんだ?
日本に取り残された場合、空襲で死ぬかもしれない状況になることは、夫には簡単に予想できたはず。つまりは夫にスパイ業より妻の命は軽いと判断されたわけなのに、よくそんな夫を許せるな~
夫も夫だ。なぜほとぼりが冷めたところで呼び寄せる?また利用するつもりなのか?
…ということで、色々考えさせられ、まぁまぁ面白かった。
蛇足だが、空襲の瓦礫のシーンが学生の舞台劇のセットレベルのちゃちさで、気分が落ちた。
結局彼は何者だったのか?
満州から帰国した夫の態度が以前と急変し、真相を知ろうとする妻。
日本のとある行為を告発すべくアメリカに渡り、戦争を煽り日本を敗戦させ戦争を終わらせる?
そんな行為にでる夫。
昭和の品の良い妻を演じる蒼井優は、その昔見た映画(ゆりあんレトリーバーのよくやる古い昭和の映画にでてくる女優の真似のやつ)みたいな話し方をずっとする。
【以下、完全ネタバレ。注意】
アメリカに2人、別れて乗り込もうとするが、オイラは妻はアメリカに着くも夫はいつまでも来ない。となるかと思っていた。がそうではなく
妻側は密告者により事前に確保された。
裏切り者だったのか?愛妻家だったのか?
東出の爪剥がしの拷問が痛々しかった
どっしりとした骨太な邦画として嬉しい作品です。
なかなか骨太な感じの作品で、蒼井優、高橋一生が共演とすると聞き、同じく2人が共演した「ロマンスドール」が凄く面白かったので、結構期待して観賞しました。
ちなみにドラマ版は未観賞。
で、感想はと言うと、観応えアリの重厚で骨太な作品です。
開戦間近の日本が満州で秘密裏に行っていた細菌兵器の研究を偶然に知ってしまった若き貿易商とその妻の物語で、日本が行っていた所業の顛末を世に知らしめようとする為にアメリカに密航しようとストーリーは終始緊迫感が漂う、どっしりとした作品。
ロマンスドールでは何処か頼りなさ気でも妻を純粋に愛する主人公を演じた高橋一生さんが今作では成功した若き貿易商の優作を演じてますが、落ち着いた雰囲気に加え頼れる大人の男の雰囲気を醸し出しているのは様々な作品でいろんな役柄を演じてきた賜物。緩急の付いた演技は観ていても安心感があります。
でも、蒼井優さんの醸し出す雰囲気はそれよりも一枚も二枚も上手。
昭和初期の恵まれた令嬢婦人を演じられてますがもうピッタリ。蒼井優さんの話し方も何処か令嬢っぽいし、品の在る演技と存在感は個人的にはピカイチかなと思います。
…この人があの「南海キャンディーズ」の山ちゃんの嫁か…と思うと、未だになんか納得が出来ませんw
観応えある作品ですが、個人的な難点を言えば、スパイの容疑を掛けられた夫を救うため、坂東龍汰さん演じる甥の文雄に罪を全て被せ、夫の行動を「売国奴」の所業と言いきった筈の聡子が急に夫の行動を支持する様になった部分の描き方が薄いと言うか、解り難い。
聡子が夫の優作の考えを急に理解する所が丹念に描かれていない為、聡子はなにか企んでいるのでは?と終始勘繰ってしまった。
そんなドキドキにクライマックスはいろんな結末を考え、その中の選択肢で「こういうラストもあるかも…」となんとなく思っていても、それを目にするとやっぱりビックリ。
だけど、その結末で言うと些かタイトルと噛み合ってない感じがしなくもないんですよね。
タイトルの意味を深読みするといろんな事を思い巡らせたんですが、意外とあっさりな感じがしなくもないんですよね。
聡子の軍部で優作の真意を知った時の「お見事!」はちょっと演劇チック。
舞台で観ると栄える台詞なのかもなんですが、映画として観た時に聞くと少し違和感が無い訳でも無いんですよね。
その後、気の触れた患者として入院している聡子の没落を観ると「ふりをしているだけ」と分かっても何処かやりきれない虚しさを感じます。
同時に優作の聡子への愛は果たして本当だったのか?と考えます。
自身の信じる正義を貫く為、聡子を裏切り、同時に売ってしまう。軍に聡子に思いを寄せる泰治が居るとしても、聡子の安全は完全では無い。
ドラマ版を見ているとその辺りの説明も補完されているのかもなんですが、映画を観ている限りでは、聡子する裏切ってしまう優作の愛情は何処にあったのだろうか?と言うのが些か難しいと言うか解り難い。
最初から国にも聡子にも愛情が無かったと言う風に解釈すれば良いのかもなんですが、優作が終始、謎の人物に映ります。
でも、これぐらいのミステリアスの方が個人的には良いかな。
黒沢清監督はいろんな作品を撮ってて、結構好きな作品もありますが、個人的に「クリーピー 偽りの隣人」の前科があるのですがw、この作品は十分に楽しめました♪
日本の戦前に行った様々な所業の数々はいろんな形で明らかになっていますが、劇中で描かれた細菌兵器の研究は満州で実際あった「731部隊」の事を指しているかと思います。
日本が過去に行った行為を今更悔い改めよとは言いませんが、国の行いを憂うが為に裏切り行為を行った者。そしてその犠牲になった人。国を正義を信じた為に盲目に人を裁いた者。
それぞれが悲劇的であった事は間違いなく、その犠牲の上で成り立っている今日である事は間違いないかと思います。
そんな事を改めてではありますが、じっくりと魅せてくれる作品です。
久々に骨太の邦画作品がなんか嬉しい。
未観賞の方でご興味がありましたら是非是非♪
申し分ないのだが
申し分ないけど。アメリカに自由を求める様に描かれていて。そのアメリカが原爆を落とすというカタルシスを個人的は描いて欲しかった。
最後蒼井優が海辺で狂気をさらした事が本当に狂った。でそれが描かれたと思いたい。
しかし戦後すぐ渡米する。化学兵器を使った国に憤りは無かったのか?腑に落ちない。
まさに「お見事!!」
話は割と単純と言えば単純な映画。
戦前の満洲で、日本軍の石井(731)部隊の人体実験を目撃した人が、周囲の人に影響を与えていく。黒沢清監督にしては珍しい、史実を元にした映画だ。
俳優さんの演技は素晴らしかった。
特に蒼井優。
神戸のお嬢様をめちゃうまく演じていた。
話の中盤で価値観がガラッと変わった後も、いきなりキャラクターの雰囲気を変えている。あれが出来るのはまさに「女優」だからこそ。一般人であんなに人格が変わると逆に怖く感じる。
憲兵隊長であるお酒馴染みの「けんじ」のルサンチマンも良かった。
蒼井優演じる聡子に恋心を抱いている、という設定だが、たしかに相手はお嬢様で、彼は普通の(・・あるいは貧しい?)家の出身だろう。恋心だけでなく、階級に対する恨みもあったはず。その辺がふんわりと感じられた。
これは恋愛映画ではない。
最後、聡子の夫、優作の取った行動は、「愛」よりも上位の価値観(正義)が存在する、人はその価値観をより大事だと考えることを示している。宗教を考えればすぐ理解できる。聡子が心変わりしたのも「愛」が理由ではないし。個人的には当たり前のことだとは思うが、恋愛至上主義みたいな気持ち悪い風潮が日本には漂ってるので、良い反証になるのでは?と映画観ながら感じた。
最後のどんでん返し含めて、ほんとに「お見事」と言える映画でした。
狂ってる?狂ってない?
考察なんて出来ません。馬鹿なりの浅い感想です。
序盤で「(金庫の)番号は覚えましたっ」と言っていた妻の前で、妻から奪い返した大切な切り札をその金庫に仕舞った辺りから旦那様の策略は始まってたのかしら?と勘繰ってしまいました。旦那様の釣りじゃない…?
草壁ヒロコを殺害した犯人もあっさり過ぎて勘繰っちゃう。濡れ衣じゃない…?奥様を泳がそうとした憲兵の濡れ衣じゃない…??
奥様が、旦那様と協力するようになった時、(憲兵側について、旦那様を陥れようとしてるのかしら)とも思いましたがそんなことはなかった。
最後のテロップで、「で、この夫婦は結局誰が誰を騙したんや…?」と思ってしまいました。
私には早い映画でした。
陰影の表現は素敵でした。東出昌大の目に光のない役どころは案外合うな…とも思いました。
じわじわと考えさせられる
題名からスパイサスペンスかと思わされましたが、どちらかというと、妻の心理を追う人間ドラマのようでした。
昭和初期、戦争時代の風景が淡々と描かれますが、やはり不穏な空気を醸し出している映像がよいです。
聡子役の蒼井優の演技も素晴らしく、佇まいや口調は時代を感じさせながらも自然で、天真爛漫で凛とした様子は印象深いです。この聡子の変貌振りが、サスペンスというかミステリーというか、見応えがあります。
夫・優作役の高橋一生も、本心が分からないミステリアスな雰囲気で、仲睦まじい夫婦のやり取りにも妙な緊迫感があります。
憲兵・泰治役の東出昌大は、相変わらず不気味な気持ち悪さ(褒め言葉)が漂い、期待通りで良かったです。
クライマックスの、聡子が捕まり証拠のフイルムを憲兵達が見るという場面。
なぜか無言でスーツ姿の人々が集まりテキパキと上映の段取りをするというシュール過ぎる描写は笑えましたが、並行して聡子の異様な迫力も伝わってくるという、不思議なインパクトのある場面でした。
正直、クライマックスのあたりからは、やっぱり裏切られて悲劇のヒロインで終わりか、と思っていました。
しかし、ラストの字幕で、実はこれは聡子も了解済の計画どおり?計画までとまではいかないが聡子はこうなることは覚悟の上?、と、後からじわじわと考えさせられました。
ラストの慟哭は、裏切られた悲しさかと思っていましたが、共犯者の罪悪感なのか?と。
スパイですよね
蒼井優さんの演技は素晴らしい!一言に尽きます。モノクロ映画のアップは美しいし、憲兵隊事務所での上映後の演技最高でした。しかし、上映会の不自然さとオチ見え見えなのは否めませんが。
顔アップが無く、本音が読めない画、1940年太平洋戦争突入前夜の時代背景、面白い脚本でした。
高橋一生さん演じる商社マンはアメリカのスパイなんですよね。それでなければ、私には辻褄が合わないのですが。
見応えのある優れた映画
6月のNHK BS8Kドラマ未鑑賞。黒沢清監督の作品が好きなので期待して公開を待った映画。
しかも第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞と最優秀監督賞を受賞という快挙おめでとうございます。
近頃、軽めの優しい邦画ばかりみていたから歴史の闇にスポットを当てた濃い本作の虜になってる私です。
鑑賞後に次から次へと溢れてくる感想、解釈、疑問。
また見たくてウズウズする、まさにミステリ作品。
NHK製作だから時代考証がきちんとしていて太平洋戦争開戦間近の日本という不穏な時代が体現されてる。
なんとなくセピアがかった画像の色遣い、話し言葉、調度品や服装・髪型、建物や人波、人びとの思想などなど…戦争の頃に生きた人びとが次第にいなくなり、戦後のことしか知らない私たちが当時の日本を知ることの重要さを感じる今日この頃。
国家機密という部分が歴史的事実をベースにしているということもあり、それだけでもこの映画の意義は大きいと思う。
主演の夫婦役の蒼井優さんと高橋一生さんに引き込まれた。
1940年の満州で恐ろしい国家機密を偶然知ってしまった夫の正義感とスパイの妻と罵られても愛する夫を信じて共に生きることを願う妻の想いが巧みな演技で表現されていく。
そして濱口竜介さん野原位さんという若手の脚本が素晴らしい。
さすが黒沢監督の弟子!
歴史的背景を大切にしながらの前半の謎解き要素。
そして後半の夫婦の間で交錯する疑心と愛情。
そして真意がはっきりと解明されないまま幕が閉じる結末。
そこが何通りも解釈ができて惹かれます。
久々に友達と一緒に話し合いたい気持ちになる作品。
軍人姿の東出昌大さん、ホッとした笹野高史さん、女中役の恒松祐里さん。そして甥っ子役の坂東龍汰が存在感を発揮。
黒沢作品独特の音の使い方も良かった。
優れた脚本、優れた演出、優れた役者の演技、ロケ地・美術・音響…などなど
優れた映画というのは様々な要素がうまく絡み合って完成するものだ、とつくづく思う作品でした。
ファーストシーンが高橋一生と東出で始まるから、だいぶ後までそっちの...
ファーストシーンが高橋一生と東出で始まるから、だいぶ後までそっちの話かと思って見てしまった。
優作と聡子の、特に聡子側からの、好きになった話とか馴れ初め的なこと、聡子の生い立ち的なことがあったらよかった。
同時に、聡子の性格が端的にわかるシーンなりセリフなりが冒頭に欲しいかな。海のシーンからの逆算だと、こまっしゃくれた女の設定があるといい。
わからない。
主人公である妻の心理がわからない。満州での日本軍の酷い行いを国際社会に知らせようという夫に対して、反対して憲兵に知らせる。そうすればどんなひどいことになるか誰でもわかる。捕まり、拷問されることは間違いない。夫を愛しながらそう言う事を何故したのか、わからない。結果としては甥が酷い拷問をされながらも、あの人は無関係、と言ったおかげで捕まらなかったが、本当のことを言う可能性の方が強かっただろう。
この夫婦は愛し合っていることには疑いがないが、妻は精神を病んでいると思う。その妻を最後に救う夫の計画は成功した。それは夫の愛だろうか。
拷問の場面は観ているのが辛かった。
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